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好きなのは俺だけ

うーん、、、どうしてくれよう。

あいつの机に置かれた愛らしい包みに、俺は思わず仁王立ちになった。
赤い袋で、大きな赤いリボンで「ぎゅ」と結んである。普通の男子高校生なら、喜んで然り。
だって、今日はバレンタインだから。

ていうか、世の中は友チョコだのご褒美チョコだので、告白のツールに使うなんて聞いてないんだけど。それってもうクラシックなんだろ。
なのに、なんだってんだ、これは。

女子なんて。女子なんて。
いやいや、まてまて、告白と決まったわけじゃない。ただの友チョコかもしれないだろ。
だから、こんなもの。

「あ、おはよ、シゲ」
背後から声がかかって、俺はびくっとして振り返った。
「…………はよ、タケ」
机の間を縫ってやってくるそいつ。
「今日、早いんだな」
ぴかぴかの笑顔で俺の元へやってきた、山口タケシ。何を隠そう、俺の片思いの相手だ。
「タケ、……………これ」
やつの机に乗っているそいつを指差すと、タケはパァッと破顔した。
「それな」
嬉しそうに笑うから、俺は胸が苦しくなった。
ああ、……………くそ!!

「良かったな、貰って!」
俺は吐き捨てるように言って、ドスドスと音を荒らげながら自分の席についた。
タケは驚いて、ポカーンとして立ち尽くしていた。


女子は良いよな。
好きな男に好意を持っても、告白しても良いんだから。男だって、誰を好きになるとか自由だけど、時代は性別とか関係なくなってきたけど、でも。スタンダードはやっぱりまだ変わらなくて。
俺がタケを好きでも、きっとタケは困るから。
俺が好きなんて言ったら、困るから。。。

そう思い当たって、1限だけ授業を受けたけど、休み時間に屋上へ逃げたら戻る気になれなかった。

「……腹減った」
もう4限が終わる。弁当は教室。戻りたくない。タケの顔を見たくない。好き、なのに。

「シゲ」
柔らかく、俺の静寂を破って声がした。
俺を呼ぶ声。
大好きな、タケの声。

「もう、授業さぼりすぎだろ。ずっと戻ってこないなんて」
こちら側にやってくる。
「なに怒ってるんだ?」
俺の隣に座って、俺を見た。
柔らかそうな髪。濁りのない瞳。俺のヨコシマな思いなんか、思いつきもしないんだろう。
きれいだ。

「シゲ?」
俺が怒っていないことは感じたのだろうが、俺がなんにも言わないことに不思議そうにしている。
熱でもあるのかな、と俺に手を伸ばした。
「告白されたの?」

ぽつりと、聞きたかった言葉が溢れた。
告白されたの?誰にされたの?
……………付き合うの?

「……告白???」
なんのことだ?とタケは不思議そうにした。
「お前の机に、赤い袋あったろ」
「え??」
一瞬考え込んで、ああ!と反応した。
「あの包みね」
うんうん、と思い出して「持ってくるの忘れたじゃん」と続けた。
「持ってこなくていいよ。……見たくない」
「いやいやいや、だめだろ」
俺のセリフを否定して、失敗したなー、と呟く。
「誰に貰ったんだよ」
「え?あれのこと?隣のクラスの小林」
「え!?」
隣のクラスの小林……。清楚な可愛い子!!
俺じゃ、勝ち目なんかないじゃん……。
俺とは接点がないけど、唯一、図書委員で一緒なくらいだ。何度か当番が同じだった。

「おまえ」
思わず身を乗り出す俺に、タケはのんきなものだ。
「あー、やっぱ持ってくればよかった。もう少しで授業終わるから、持ってきてやるよ。今日は弁当ここで食べよ」
「タケ!」
「いいなぁ、シゲは」
……………うん?
タケの羨望の目を向けられて、話がおかしい事にやっと気づく。
「あの、タケ、いいなぁって、なんのこと」
「え?ああ、あれね、シゲのなの」
「え?」
……………なんだって??

「シゲのこと探してたの。でも見つからなくて、俺が預かったの」
「小林から……?」
「そう。委員会でいっぱい助けて貰ったんだって?」
「え?助けた??」
俺が???
「不良がたまり場にしてたんだろ?図書室。お前が話したら来なくなって助かったって。直接お礼を言いたかったけど、勇気がなくて言えなかったって。ありがとう、ってさ」
「俺に………??」
不良って言っても、そんな悪いやつじゃない。知ってるやつだったし、図書室は困る、って言っただけだ。あいつらも快く出て行ってくれただけだ。

「あれは、お前の。カップケーキだって。授業でも上手にできたから、多分大丈夫って」
「なに、それ……………」

俺は心底ホッとして、長い長い溜息をついてうなだれた。
「俺はてっきりお前が……」
「え?俺が貰ったと思ったの?ん?それで怒ってたの?はは、なんだそれ」
楽しそうに笑うタケ。
「俺が貰うわけないじゃん。俺が好きなのはシゲなのに」
「え」
思わずタケを凝視した。
なんて言った?俺のこと……

「俺が好きなのは、シゲなの。だから、他のやつからのバレンタインは貰わない」
「タ……ケ……」
夢だろうか?夢?夢……

「シゲは!?俺にだけ告白させて良いのかよ?返事は?」
「タケ……タケ…!!」
弾かれたようにタケを力いっぱい抱きしめた。
「うおっ」
「タケ!好きだ!大好きだ!タケが好きだ!!」
一瞬驚いたタケは、ゆっくりと俺を抱きしめ返した。

「……知ってる」
嬉しそうな声で、タケが耳元で応えた。
「なんで知ってんの……」
「分かるよ。いつも俺にだけ嬉しそうに笑って、俺にだけ世話焼いて、俺にだけ優しくて、いつだって俺を…あんな目で見るから。だから、俺」
まさか、バレてたなんて。本当に?
「俺のせい?」
「そうだよ」
バリッと俺を引き剥がして、俺と目を合わせた。
「いつだって…、俺を熱っぽい目で見るから、俺のほうが意識して、ドキドキしちゃったんだからな」
ぷ、と膨れて、赤面した。
可愛いすぎる様子に、頭の奥がプツ、と切れた。

「タケ」
タケの頭に手を回して、引き寄せた。
「シ……」

キス。
もう、バレてようがなんだろうが構うもんか。
好きな人と思いが通じ合ったことのほうが大事だ。
大好きだよ、タケ。
もう、離さないから。






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