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映画館と私

「映画にまつわる思い出」と見ると、私の中では勝手に「映画『館』にまつわる思い出」に変換されてしまう気がする。私は3年間映画館でアルバイトをしていて、つい先週最終日を迎えたのだ。

私の地元は最寄りの映画館まで電車で50分ほどかかる場所にあり、めったに行くことはなかった。でも父が週末になるといつもテレビで録画した映画を観ていて、それを横でなんとなく観ていたので映画は身近な存在だった。

大学進学を機に一人暮らしを始め、ほどなく映画館が徒歩圏内にあることを知った。アルバイトをしていない学生にとって1100円(当時の学生会員料金)は安くはなく、月に一本を厳選して観に行っていた。『ジャージー・ボーイズ』、『ブックスマート』、『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』、『燃ゆる女の肖像』、『あのこは貴族』…。

今の彼氏と、付き合う前に初めて一緒に出かけたのも映画館だった。私が興味あると言ったら彼も観たいというので『おらおらでひとりいぐも』を観た。いつも一人で行っていたから、誰かと映画を観るのが少しくすぐったく、変な感じがしたのを覚えている。

その後彼も私の影響で映画を観る習慣ができ、何度も2人で映画館に行った。そのうちの一つでブレッソンの『バルタザールどこへ行く』を観て劇場を出ようとしたとき、スタッフの方が出口まで追いかけてきて「学生証落とされましたよ」とパスケースを渡してくれた。このことはよく覚えている。

こうして大学1年生を終え、2年に上がるタイミングでバイトを始めようと思った私は劇場に貼られていたスタッフ募集のポスターを見てそこに応募した。面接は終始和やかで、土日やお盆休み、GW、年末年始に入れるかを聞かれた以外はほぼ雑談で、翌日には採用の電話が来た。

仕事は意外と覚えることが多かったしタイトな上映スケジュールで常に時間を気にしているという大変なところもあったが、とても楽しかった。合間の時間に同僚と映画の話ができるのも良かった。

そして半年越しくらいに、あの学生証を渡してくれた人にも会え、改めてお礼を言うこともできた。

私が勤めていた映画館は、バイトは昇格試験のようなものに合格すると映画を無料で観られるようになる。私が合格して初めて観た映画は『ファーザー』と『クルエラ』だった。1日で2本観た。この2本のことはずっと覚えていると思う。そこから、週に1~3本映画を観る生活が始まった。

だんだんとそれぞれのシアターでお気に入りの席ができて、シフトと上映スケジュールをにらめっこしながら週の予定を決めていた。バイトをしてなければ触れる事がなかったであろう邦画や、ドキュメンタリー、またマケドニアやフィンランド、ドイツ、韓国、モンゴル、イランといったたくさんの国の映画を観た。これらは間違いなく私の中の世界を広げてくれた。知らない言語の映画でも、観ているうちによく出てくる単語は分かってくるのも面白かった。

たまに見たいものが被ると彼氏と2人で行くこともあった。初めは彼氏といるところを同僚や社員さんに見られるのが恥ずかしかったけれど、徐々に気にしなくなっていった。

だらだらと書いてしまったが、私にとって映画館は職場であり、好きな映画を存分に楽しめる場であり、彼氏との思い出の場でもあった。近々就職に伴う引っ越しをするためアルバイトは辞めたけれど、今でも映画を観に行くと「次は何観るのー?」と気さくに迎えてくれる。コロナによるオンライン授業であまり大学で深い人間関係を構築できなかった私にとって、映画館は唯一この地で根を張れた場所な気がする。

引っ越し先でも、お気に入りの映画館を見つけられるといいな。

#映画にまつわる思い出

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