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コンクリートクリスマス
ジングルベルを埋めてきた。
記憶は応えない。ただ、
確かに埋めたんだ。
冬は寒いものだと云うひとがいた。
そうだね。と答えると、
そのひとは寒い国へと旅立っていった。
真夏の太陽を思い出と共に、もみの木の下へと置いて。
いいえ、遮光になくレースのカーテンを落としてみてください。 ほらね。
黒いレースのカーテンの向こうには白い季節がい
お腹のはなし
わたしのお腹のなかには、産まれてこないナニカがあるらしい。「一万年に一人の確率でそれは産まれてきません」そんなことを医者は宣うのだ。
わたしは腹のなかで「おまえさん、いつから生きてるんだ」とその医者の腹づもりに訊ねた。どうやら医者のお腹のなかは既に空っぽらしく、もうそのナニカは産まれたあとだった。
なるほどなと、なるほどに問ふ。
なるほどは謂ふ。
「腹に据えかねるね」嗚呼、強勢か。
明日はないかもしれない物語
「時間を採集するのが仕事なんですね。」そう言われ、成る程と感心させられたことがある。確かにそれは当たらずと雖も遠からずだった。
ひとを視る。それは過去を遡ることからはじまる。ひとには記憶がある。それらが教えてくれることもあれば、永久凍土のなか静か息衝くものが教えてくれることもある。
こうして、わたしが貝になった記憶も必ずや何処かに残されるのだろう。そして図らずもそれを見つけるのは、わたしである
明日はないかもしれない物語
殻の内から徐徐に視界を取り戻す限定水域に目を凝らすと、そこには未然と已然、そしてそれらを統合できずにいる情報たちが沈殿する海の底。
いつ起こるかわからぬ津波に脅え抛擲することはない。蹂躙を知らない。45億年のときを覆すものはない。
わたしの殻を叩くものはそれらすべて、届かぬ雨音は視界を揺らす。直視できない太陽は影をつくる。波の齎すためには風の荒ぶることがある。
それは流動する岩漿のあることを
明日はないかもしれない物語
傘をさしていた。
傘は何色だったのか、思い出そうとするも海馬のなかで混ぜられた発酵具合は強かだった。ただ、傘をさしてくれた右手だけは鮮明に思い出せる。何れくらい待っていてくれたのか、傘をさしてくれたその手は微かに震えていた。
わたしの傘は壊れていた。外では傘の集合体で生成された怪物が、今か今かと待ち構えている。その手がさしてくれた傘がなければ、わたしは怪物に喰われていただろう。
踠き、足掻き
明日はないかもしれない物語(花しは枯れるか種となるか)
雨は降っていた。
無論、海のなかに雨音など届くはずもなく。ただ地表から流れ出した土が視界を暗澹とさせた。ここは恐らくに内湾岩礁、所謂珊瑚礁だろうことがわかる。この様な場に生息するわたしのような貝は岩に殻を付着させ安定を図る構造になっている。だがどうだろう、
どうやらわたしは周囲のオオヘビガイやキクザルガイのそれとは少し違っているようだった。身体を岩に固定させようとするも上手くいかない。なぜだろ
明日はないかもしれない物語
夜が、毛布のなか去来する。
頭のなか、灯りの点いたり消えたりを繰り返していた。それはわたしの前障を覚醒させたのか。意識は5000万年前のどこかを彷徨っていた。
丁度手もとにあった本が、中生代の恐竜全盛期を描いたものだったからと思う。しかし、
そこから更に1億年以上もの時が経つその頃には恐竜は絶滅、地球は熱に覆われていた。
恐らくに辿り着いたのは始新世の海の中、そこは海牛目らの暮らす浅瀬だった