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間に合わなくて間に合って:チバユウスケ氏に捧ぐ

何事も締め切り前に滑り込むような人生を送ってきた。

学生時代、試験という試験はことごとく一夜漬けに近いものであったし、大学での必修単位や卒業がかかったレポート・論文の類でさえ、提出日=締切日という不良学生であった。
大人になっても、そのしつけの悪さは相変わらずで、仕事外の仕事(仕事に関する事ではあるが、勤務時間内にはできない個人的な用事を私はこう呼んでいる)で提出物がある時、提出できるのはやっぱりだいたい締切日。
うっかり、締切日の前日に提出しようものなら、普段の10倍くらい鼻の穴をひろげた「ドヤ顔」で提出するくらいには図々しい大人になってしまった。
私にとっては大変に難しい「毎日コツコツ」。これができる人は、もはや修行僧か何かだと思っている。
あぁ、ありがたや、ありがたや、南無南無。

なぜ私がこのような性格になってしまったのかと生産牧場(母)に問うたところ、

「お母さんもお父さんもそういうところはないのにね。なんでかしらね~。やっぱり、あなたはお母さんの子じゃなくて『おばば様の子』だからじゃない?」

サラリとかわされてしまった。

昭和一桁生まれの父方祖母、母にとっては義母、(通称、おばば様)と、私の顔はそっくりだ。音楽・美術・旅行好き。興味があるとフットワーク軽くどこへでも飛んで行く性格まで祖母似。
そのため、私と母は互いに都合の悪い事があると、

「私はお母さんの子じゃなくておばば様の子なんだから!私のやることはお母さんには関係ないでしょ!」
「そうよ、あなたは『おばばの子』!お母さんの子じゃないのよ!よく分かってるわね。」

互いに「全部祖母のせいだ」と言わんばかりに、今は亡き人に罪をなすりつけてしまう。もはや死人に口なし。
『おばば様の子』という単語は、母娘の話し合いがヒートアップして口喧嘩になりそうな時、それを強制終了させてくれる魔法の言葉である。

ねぇおばば様、おばば様も締め切り直前に滑り込むような性格でしたか?
戦前生まれ、戦中育ちゆえの生への本能的執着。終戦直前の大空襲を辛くも生き抜いた運の強さ。それが形を変え、たくましく私に受け継がれたと思っているのですけれど。

その一報は、TwitterでもYahoo!ニュースでもなく、1998年頃からミッシェルガンエレファントのファンだった友人からもたらされた。

【チバ食道ガンで休養だって…… やめてやめて】

突然の知らせに、思わずスマホを裏返してしまう。
これはちょっと青天の霹靂すぎやしませんか。エイプリルフールならとっくに終わりましたが。

友人からのメッセージには、リンク先も、ニュース元も何も貼られていない。ただただ、驚きとショックと、とにかく急ぎ知らせようとしてくれた気持ちがメッセージのすき間から見えた気がした。

返信をする前に、何とか自分を落ち着かせたくて情報はないかと思い、急ぎTwitterを開く。


……まじか。まじなのか。

遅すぎて趣味の悪いエイプリルフールであって欲しいと願ったが、それは私の願望にすぎなかった。

0時ちょうどの発表に、関係者が入念にタイミングを探り、準備をしていた事を感じさせる。
いつから、一体いつからそういう事になっていた?
アラバキ開催(4月29~30日)まであと1週間しかないよ。バースデー、初日のトリで出演が決まっていたのに。

あの無敵そうな人がこういう事になるのか。病の方が寄り付かなそうな人が……。

改めて、彼の人も生身の人間だったということに気が付かされてしまう。
いや、にわかファンである私がいかに驚いたかという事を話しても仕方ないか。ご本人や家族、身近な仲間の方がよほどショックを受けているだろうから。
とにかく順調に治療が進み、あの比類なきボーカルを心置きなく響かせ、再び新しい作品を披露してくれる事を願うばかりだ。


私のことをいつも優しく、生暖かく見守ってくださる皆さまはすでにご存じの事と思いますが、当方「にわかファン」でして。
2021年秋、ミッシェルガンエレファントと正面衝突してしまい、そこから寝ても覚めてもミッシェルガンエレファント漬け。既に解散したバンドを20年遅れで一人元気に追いかけている。

そしてある日突然、3人の「今」に興味がわき、2022年3月に初めてウエノさんのライブを見た事を皮切りに、6月にチバさんを、11月にはバースデーのライブを初めて生で見たくらいには浅いファン。
今、これをお読み下さっているであろうミッシェルガンエレファントのファンや、チバさんのファンである諸先輩方から見ると、鼻で笑ってしまうくらい軽い存在である。

先に述べた友人と出会ったのも、ミッシェルに熱を上げ始めた頃。2022年4月、初めてアベさんのお墓参りをするべく広島まで出かけた時のこと。
アベさんが眠る墓地で出会い、半年前にミッシェルに出会ったばかりだと自己紹介をすると、ミッシェルガンエレファントが活動していた頃にファンだったその人は、私の急激な熱の上がりように大変驚いてた。

「ミッシェルって今も誰かを夢中にさせるんだー。アベ~良かったねぇ!」

まるでアベさんがそこにいるかのように話しかける姿、同時代を並走したファンの人にしか口にできない言葉。その重みに胸を打たれたのを今もはっきり覚えている。

友人は1998年頃からミッシェルガンエレファントを知っているという。
今年は、OTODAMA(大阪で行われる野外音楽フェス、5月3~4日開催)で、フィッシュマンズにゲスト出演するチバさんを見るのが楽しみなのだと、今年の年明け、嬉しそうに話してくれた笑顔を思い出す(フィッシュマンズとチバさんは大学の同じ軽音サークル出身だが、共演はほとんど無いらしい)。
その超レアな機会を前に、まさかこんな風にチバさんが表舞台に立てなくなる日が来るとは。あちらもよほど落ち込んでいるだろう。こんな時、若輩者がどんな風に声をかけたら良いものかと考えていたら、思いがけずあちらからメッセージが届く。

【徳ちゃんがチバに間に合ってよかった!】

なんと前向きな言葉だろうか。こういう言葉がサラリと出て来るのが、この人のすごい所だ。

確かに、私がミッシェルガンエレファントに目覚めるのがあと1年遅ければ、生でチバさんを見る機会は無かったかもしれない。たった数回とは言え同時代にチバさんを見る事ができた、生でパフォーマンスをするその人を見る事が出来たのは、幸運としか言いようがない。

もちろん、チバさんが快癒したあかつきには、ライブで存分にそのパフォーマンスを見る事ができるだろう。けれども、今この時点では、たかが「いちファン」には先の事は分からない。今回の事はごく初期のうちの発見であり、本人が無事復活することを祈るしかできない。

「チバに間に合った」
その一言に私のざわつく心が一気に救われる気がした。チバユウスケという存在の凄まじさを生で感じる事が出来た。25年近く前からチバさんを知っている人と、同じ感覚を共有できている事に少し安堵する自分にハッとする。

ミッシェルガンエレファントがとてつもなく人気があった時代、私はまだ子供で、ミッシェルの素晴らしさを理解できるような年頃ではなかった。そして、アベさんの才能に触れた時には、既にアベさんは彼岸の人。
ミッシェルにも、アベさんにも間に合わなかった私が、チバさんの人生には間に合った。生きるアートのような存在であるチバさんを、最新のチバさんと同じライブ会場で、同じ空気を吸い、生で見る事ができたのだ。

2022年6月、私が初めてチバさんの歌う姿を生で見てからまだ1年も経っていない。
友人の言葉を借りれば、「チバに間に合った」というより「チバにギリギリ滑り込んだ」というレベル。スライディングタックルでチバさんの人生に切り込んだようなもの。
それでも、この稀有な才能を、唯一無二の声を生で聞いたという経験があれば、チバさんの復帰をいつまでも待てる気がする。

チバさん、あれですよね?来年の今頃、アラバキのステージに立ってますよね。
ポケットに手を突っ込みながらさらりと登場し、ニヤリと笑って何事も無かったかのように歌い始めるんですよね。
わたし、待ってますから。


【↓思いがけずチバさんに心を動かされた話】


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