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前髪を切った

僕は髪型にあまり拘りがない。
高校生の頃までは長い方が好きだったが、その後、スキンヘッドやモヒカンなど様々な髪型を試しているうちに、初めは違和感を抱いても時間が経てば慣れて気に入るものだと分かったからだ。

最後に髪を切ったのは去年の夏のことだ。
地元の理髪店でカタログを見て、その中で一番短い髪型を選び、そこから更に短く切ってもらった。
結果、頭頂部に少量の髪が残っているだけの、坊主頭と呼んでも差し支えない仕上がりになった。
内心「やっちまった」と思いはしたものの、切ったものは仕方がない。僕は4,500円を支払い、店を出た。

それから半年が経ち、僕の髪は以前のように伸び切っていた。
前述のとおり僕は自分の髪がどんな歪な形でも構わない。しかし、日常生活において不便が生じるとなると話は変わってくる。
長さに加えて毛量が増えると、シャンプーを洗い流し、髪を乾かす時間も増える。そうなると面倒でシャワーを浴びないという選択を取ることも起こりうる。不潔だ。
だから僕は毛量が増えると自宅でバリカンを使い、内側の刈り上げる。ツーブロックだ。
こうして髪を洗い乾かすまでの時間を短縮し、毎日シャワーを浴び清潔でいられる。

だが、そのやり方も前髪には通用しない。
前髪が邪魔だからといってバリカンで刈り上げてしまえば、河童とも落武者とも形容し難い珍妙なヘアスタイルになってしまう。
いくら無頓着な僕でも、他者から見て明らかにおかしな髪型になることは避けたい。
そのため、ハサミを手に前髪を切るという手段を選ばざるを得なくなる。

僕は前髪を切るという行為がどうにも苦手だ。
そもそも前髪というのがどこからどこまでの毛を指すのかが不明瞭だし、どれくらいの長さを切ればいいのかも分からない。僕にとって前髪を切ることは答えのない問いを求められ続ける人生のようなものだ。自分から生えているはずの前髪は、他人のように理解しがたく制御できない。しかし望まずとも前髪は伸び続け、半ば強制的に、対処することを僕に求めてくるのだ。

不本意ながら僕は右手にハサミを持ち、スマホの内カメラに自分の顔を写し、前髪に刃をかけた。

やっちまった。

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