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虚言物語

「俺が明るさを獲得できたのはほかならぬ俺のおかでなのさ」

「おかでって言ったのは完全に俺のミスだが」

【経済産業省のチャップリン】こと椋川(むくがわ)はひげをこしらえた鼻下をかいがいしくさすりながら
第三、第四の手の甲をマンホールの上に掲げる
あたりにはたちまち光が満ちた、光源もないのに


美しい光鱗のようなかけらがその場に漂っては上空へと舞い上がり、消えてゆく
声の主のわからない声が耳元でささやいてすらいた

「へぇー、決まるじゃん」
仲間の一人がつぶやいた声も、刹那に響いた轟音にかき消された

後に聞くに世界が終わろうとしていたとのことだが、晩飯の時間も近づいていたためMTGを行い保留にしてもらったとのことだ

現実の光景とは到底思えなんだが、あの頃の私にそれを口頭で説明する技術はなく
ただ家に帰って目をらんらんと輝かせては、
「椋川の手の甲が」と叫ぶ以外せんなかった

先週、チャリティーマラソンにでてその途中でめちゃくちゃ不法投棄する夢を見た

冷蔵庫3個に、洗濯機9個を投棄した
電子レンジに至っては109個投棄した、親の仇のように電子レンジを投棄した
一歩ごとに電子レンジを投棄した50mがあった

やっている最中は、すごく楽しくて仕方なかったのを鮮明に覚えている

仮にも自分の精神が元となって、この夢を見せているとしたら、
私の精神はとうに人間として終わっているような気がした

そういった狂気の自覚が、逆に自分を社会生物として生き永らえさせているのではとも思った

「価値がない人間などいない」
誰が言ったかは不明だが、我々の基本的な道徳の1項1行目に書かれているような典型的な人格文だ

エセ韓国語が上手い友人に話したところ、エセ韓国語をしゃべっていた
エセ韓国語を誉められすぎて、アイデンティティがエセ韓国語によって成形されてしまった挙句、
基本言語がエセ韓国語にすり替わってしまったので仕方のないことだ

日本人にも韓国人にも会話が通じない彼は、基本的に何を言っているか不明だが
回転寿司で僕が注文した寿司に対し、意識して押さなければ「さび抜き」にならない寿司については必ず「さび抜き」のボタンを押してくれる
そして僕を見て「押しておきました」という顔をするのだ

僕は別段わさびが嫌いなわけではないが、彼の笑う顔が見れるのがこの場くらいなのでいつも彼と回転寿司に行く

彼に『他人のために「さび抜き」を押しておく優しさ』が存在する限り、
彼の笑顔にはおそらく僕にしかわからない一定の価値が生まれるので、
彼こそ「価値がない人間などいない」という基本道徳の体現者なのではと思った

最近、iphoneにナダルというフォルダを作成し、そこに種々多様なナダルの画像を保存している
写真のナダルは人形のような笑顔を見せているが、その瞳の中央に浮かぶ黒目は
寂寥として広がる宇宙空間のように暗く冷たい

なぜかはわからないが、ナダルの目を眺めていると落ち着くと思った
きっと、ナダルも僕も、人間ではないものに近づいているのだろう

僕にいつか愛する人ができた時、
結婚式を挙げる前日に全て現像し、
焼却することでしか僕とナダルのつながりを削除する手段はないと確信した

ナダルと名をつけた芋をそこで焼こうと思う

想いを込めた灰が舞い上がる姿を見て、
僕は思い出すだろう

あの日見た椋川の手の甲を

想いを込めた芋
略して想いもは格別の旨さだろう

市役所に婚姻届を提出したら、
窓口にナダルの分を、半分置いて立ち去ろう

それはきっと
タートルネックの白セーターだけでは肌寒い、

11月も下旬に差し掛かる頃のことだ。


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