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第8走者:國松淳和先生【内科医】

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このマガジンは、2021年4月発売の

『Dr.ヤンデルの病理トレイル 「病理」と「病理医」と「病理の仕事」を徹底的に言語化してみました』(著:市原真/刊行:金芳堂)

について、病理医・臨床医の皆さまに読んでいただき、それぞれの視点から感想と、「病理」に関する考えを書評という形でまとめていただいたものです。

「病理トレイル 書評リレーマラソン」と題したこのマガジンを通じて、「病理」とは、「病理医」とは、「病理の仕事」とは何かを感じ取っていただけると幸いです。

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■評者■
國松淳和
南多摩病院 総合内科・膠原病内科部長

08.國松淳和先生

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■書評『Dr.ヤンデルの病理トレイル』

巷の「書評」・・・間違えた、書評ではない。Amazonレビューや書店サイトのレビュー、書籍レビューサイトのようなところで垂れ流されたコメントを見ていると、「この本は誰を対象にしているのかわからない」みたいなものをよく見かける。はっきり言うが、そんなことはどうでもいいと思っている。

ずっとそう思っていたのだが、最近考えが変わった。「誰に向かって書いているのかいまいちわからない」というレビューコメントは、どうでもいいのではなく、「有害」であると思うようになった。

編集部が参考までに公表した「読者対象」には該当しない人たちがその本を読もうと思ったということは、その人たちは自分の殻を破ろうと人たちであろう。興味を持って、あるいは勇気を持って、自分の世界を広げようとしたわけである。こんな素晴らしいことはない。

一方で、この本を読もうかなと思ったけど、読む人を限定したいかのようなくだらないレビューが目に入ってしまったために購入を見送る人が1人でもいたら、こんな悲しいことはない。よって、「誰に向かって書いているのかいまいちわからない」というレビューコメントは、断固許さず、即刻削除されるのが望ましい。

さて、市原先生の「病理トレイル」を読了した。病理に進もうか悩んでいる医学生や研修医が、これを読んで病理をやってみようと思うようになるかもしれない。これはこの本の編集側の意図どおりかもしれない。

しかし、普通に臨床医が読んだら、景色が変わるんじゃないかと思った。

また、読後感が独特なので、「結局何が言いたいんだ?」的な読み方をする人には向かない。さらに、この本は後半になってようやく「読み慣れて」くる。なので、最初のほうで読むのをやめずに読み進めて欲しい。

険しい山道を休み休み進むということを、病理を学ぶことの険しさに擬え、そうした”病理道”のことをこの本は書名に冠して「病理トレイル」とまさに呼んでいるではないか。まさにこの「トレイル」に、読者である自分も巻き込まれたんだなと気付くに至った。トレイルは実際の私の趣味ではないが、実に楽しい読書だった。

このなんとも言えない爽快感。実際にトレイルを趣味にしている人は、この感覚を得たいために、好き好んで険しい道を歩こうとするのだなと察した。

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■「あなたにとって病理・病理医・病理の仕事とは」

よく、内科医と病理医が対比される。内科医は見えないものを推測し、病理医はとことん見えるものを突き詰める、というような風情である。しかし私は長い間、これには違和感があると思っていた。そして「病理トレイル」を読んで、その違和感が確信に変わった。

内科医だってとことん見ているし、病理医だって推測している。

病理医が組織像を忠実に読むだけの人だったら、いよいよそれはAIでOKだ。病理医だってめちゃめちゃ推測する。推測して、次のことや前後のことを考える。そして組織を読む。そしてそれを元にまた推測する。

内科医も、たとえば、皮膚所見や診察所見をみて、検査値をみて、それを元に推測する。精神科医だって、患者の発する言葉や様子をみて、過去の経験則(たとえば診断基準)と照らし合わせて、病態を推測していく。

うーん。

つまり内科医も精神科医も病理医も一緒だ。

「あなたにとって病理・病理医・病理の仕事とは?」というこのお題への私のアンサーは、こうである。


全部一緒。

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■書誌情報■

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Dr.ヤンデルの病理トレイル 「病理」と「病理医」と「病理の仕事」を徹底的に言語化してみました

著:市原真
札幌厚生病院病理診断科
定価 3,080円(本体 2,800円+税10%)
A5判・278頁 ISBN978-4-7653-1862-4
2021年04月 刊行

病理医は何を見て、何を考えているのか。医療という壮大なトレイルで一体何をしているのか。病理医の立ち位置、臨床医との関わり、そして病理診断――病理医の無意識の領域に迫り徹底的に言語化する試み。


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