今週のkinologue【3/21-27】
『〈主婦〉の学校』の劇場上映もいよいよ終盤。今日で関東圏での上映が終わり、上越の高田世界館と日田のリベルテにて続映。ファイナルはフォーラム山形の「映画で食べよう3」企画上映。劇場上映後の展開にフェイズがゆっくりと変わっていく。
3月終わりはオスカー・シーズン。今年は『ドライブ・マイ・カー』のおかげで去年とは全く異なる盛り上がりを見せている。金曜夕刊の新聞広告に「アカデミー賞最有力!」の文字が躍り、見応えのある洋画が何本も大規模公開されるのを見ると、やっとコロナ前に戻ってきた感じがして嬉しい。ここ数年かろうじて外してきたが、今年は遂に配信系映画が作品賞を獲るエポックメイキングな年になるかもしれない。最近の前哨戦で賑わいをみせている『Coda コーダ あいのうた』はアメリカではApple配給で劇場上映と同時配信だったが、日本ではギャガ配給なので配信系とは見えていない。作品賞最有力と言われている『パワー・オブ・ザ・ドッグ』(カバー画像引用:https://www.netflix.com/)はNETFLIX製作。12月からNETFLIXで見られるのを我慢して劇場で観たが、2018年の『ROMA/ローマ』ほどでなくても、やはり劇場で観るべき映画だった(後でNETFLIXでも再見)。どちらも傑作とは思えないが、イマ的な良作であるのは間違いないので、どちらが(に勝手に決めているが)獲ってもおかしくない。『パワー・オブ・ザ・ドッグ』が獲ったら特にだが、ますます「映画とはなにか」が問われていく。それは、観る者に委ねられていることでもあり、観る者としては選択肢を用意してほしい。その選択を繰り返しているうちに、映画はこれまでとは異なるカタチを見せていくように思えてならない。それが楽しみのような、怖いような。
今週は長く映画業界にいるなかで、多少なりとも関わりがあったお二人が亡くなった。1人は佐藤忠男さん。試写室でちらりと以外、長くお話する機会はなかった。数年前、突然私の携帯に「佐藤です」と電話があり、朝日新聞の映画評を書くので、写真を送ってくださいとのことだった。そのときも「わざわざお電話頂いてしまって申し訳ありません!」と謝るばかりで、その映画についてお話するのを忘れてしまった。映画評論家が評を書ける場をもち、そこには評を楽しみにしている読者がいて、彼らが評に誘われて映画を観るという当然のようにあった循環が、2000年代以降、急速に廃れている。その意味で、佐藤忠男さんは最後の映画評論家だったのではないだろうか。
もう1人は青山真治監督。つい先日までtwitter投稿を見かけていたので、闘病中だったことも知らなかった。57歳はさすがに若すぎる。立教系のインテリ監督なイメージで、特に縁がないと思っていたが、1回だけお会いしたことがある(うる覚えなので、多少事実と違うかもしれない)。もう10年以上前のことだが、映画業界を少し離れ、IT系の会社で働いていたとき、会社が短編映画賞のスポンサーになった。そこで有名監督に短編を撮ってもらう企画があり、同僚が親しかったこともあって青山監督に依頼した。思い起こすと『サッドヴァケイション』後、しばらく長編を撮っていなかった時だった。ちょうど今頃、桜が咲いている時期で、撮影場所は砧公園だったと思う。撮影当日、現場に行くのが遅くなり、撮影には立ち会えなかった。行ったときには、すでに桜の木の下で打ち上げのようになっていた。外から見ると、ただのおじさんたちの花見の宴会のようだった。印象的だったのは、とにかくみんなが嬉しそうだったこと。久しぶりに「青山組」の現場で集まったことが楽しくて仕方ない、そんな感じだった。確か光石研さんもその中にいた。正直、その時の短編作品自体はよく覚えていないけど、この人は一緒に仕事がしたい人たちが次を待っている人なんだなと思ったのはよく覚えている。あの人たちは今、どんな想いでいるのだろうか。この桜はそのときの砧公園の桜ではないけど、今年は桜が満開になったら、あの時のことを思い出してみようと思う。R.I.P.
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