見出し画像

土木のこと

 転職して一か月が経とうとしている。
 といっても出社したのは三日ほどで、あとはすべて外部研修だ。土建業の外部研修、いわゆる資格習得のために教習所に通わなければいけないのだ。社長と副社長が口をそろえて言うには、なんでもそれらの資格がなくちゃ現場に出ることもできないという。こう言っちゃなんだが土木の現場なんてものは、そういった必須資格に対し鷹揚な対応をするイメージがあったので、若干意外に思った。
 客がでかいところだと言っていたから、きちんとした現場である証拠なのかもしれない。そんなわけで見たことがあっても、縁もゆかりもなかったようなことに囲まれる日々である。フルハーネス、高所作業車、ガス溶接、アーク溶接、車両系建設機械、研削……
 オネエサン(大人になってできたお姉さん的存在、という意味)からも「そういうのと一番遠いところにいるイメージ」というコメントをされて、やっぱりそう思うよねと再確認できた。無意識のうちにそうセルフブランディングしてきたのかも知れない(どうかな)。
 なにせ「一番遠いところにいる」のだ、土木業と僕、というテーマで語れることはそんなにない。
 しいていうなれば母方の実家は北関東でなかなか有名な土木の会社を営んでいたようだ。屋号はウケヨシ(請負師)で「○○組」の苗字を背負っており、孫は僕だけだった(現在、年の離れた従妹が一人いるが)ので、まかり間違って家業を継いでいた人生もあったかもしれない。

 そうはならなかったわけだが。

 はなしは戻って建機の教習所だ。現場のニイチャンやオッチャンというのは、いったいどういう人たちなのだろうと、ついまじまじと観察してしまう。
 休憩中は誰かと話すでもなくずっとスマホでグラブルだのモンストだのをやっている若えのは、講師から何を質問されてもボソボソと不明瞭な回答をして、かたくなに声を張ろうとしない。声量すら節約しねえとやってられんねえ、と言ったところか。Vに赤スパ投げてそう(注:僕はVtuber結構すき)。
 社会人二十五年目くらいの浅黒いおじさん達はこういった資格の講習に慣れた様子で、授業も実習も卒なくこなす。
 休み時間に寝るという習慣がある人も少なからずいて、おじさんたちが机につっぷしている景色を見て、高校生活を思い出した。これが体力仕事の職人さんたちの処世術なんだろうと想像はついたが、どこか見慣れない。
 処世術と言えば、ほとんどの人が昼飯を十五分以内に食べるのにも驚いた。
 見るからにやんちゃそうな人は、声も大きく、はきはきとしていて、ごつい車に乗っている。ワイドのハイエースとか。金回りよさそう。

士業のオネエサンと製造業(食品)のオニイサンとの会話

 全体的にうっすらとふてぶてしさを感じる。製造業になかった感じだ。

 茶業はどうだっただろうか。
 大枠では製造業、基本的に仕入れが発生する原価商売だ。それと比べると、ここにいる多くの人たちは技術職である。
 身につけた技術に金を払ってもらえる誇りからくるのかしらん、と考えてみたが、まだよく分かっていない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?