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百点のお酒

 昨日は、上手に酒が飲めた。つまり眠くならず、終わりまで気持ちよく酔っぱらい、快活な足取りで家に帰れた。これは満点といっても良いだろう。
 後輩Nの家で酒を飲んだのである。ここで何かやらかすのは先輩の沽券に関わるというもの。さすがに。
 僕のお酒の失敗は数知れない。寝る、意識があいまいになる、気持ち悪くなる、吐く、帰れない、翌日の仕事休む等々… 。あの情けなさと言ったらない(今の職場ではこういった失敗はまだしていない)。そして二度としない、と心に誓ったとしても、やっぱりやるのが酒の失敗… 。
 飲酒歴も十五年を超えて、ようやく気持ちよく酔っぱらうための鉄の掟がわかった。だから今回は「大丈夫だ」と確信をして後輩と気持ちよく酒を飲めたというわけだ。


 鉄の掟とはつまりチャンポンするべからず、である。

 なにも目新しくもない。若いうちに誰もが教えてもらえる基本中の基本。どうして男の子は言われたことを十数年も守れないのだろう。きちんと守れば、ずいぶん楽だと「ごく最近」気が付いた。ビールはノーカン、ではない。ビールを混ぜると眠たくなる。


 それから、きちんとお湯または水を飲む。それができない奴は最初から割って飲め。

 これも同様、誰もが二十歳前に教えてもらえる日本国民の常識。僕は十年以上守れなかった。おろか… 。

 今回飲む酒を用意したのは、参加者の中で一番年下のIだ。彼女の実家高知の、地焼酎とでもいうのか、「ダバダ火振り」という栗焼酎を一本持ってきた。高知県民というのはとにかく酒飲みが多いらしく、彼女もご多分に漏れずいける口で、いい酒飲み相手である。

 ダバダの部分はよく分からないが四万十川の火振り漁について、むかし釣りキチ三平で読んだような気がする。そんな話題は一切出なかったので、名前の由来については確かめそこねたが、おいしい焼酎だった。Iは普段飲むのにちょうど良い、と言っていた。焼酎を普段飲むのにちょうどよい、という二十代女性について、個人的には好感がもてるが一般的にはどうなんだろう。

 そんなIと家主のNが台所に立って、つまみを作ってくれた。

 大皿に豊かに盛られたうす切りの玉ねぎとニンニク。その下に、ごろごろと親指くらいに分厚くスライスしたカツオが並べてある。ポン酢をかけて食べた。馬路村のブランドポン酢である、といちいちIのしゃらくさい注釈が入るが、非常に風味がよい。ゆずとニンニクの強い香り、ぶあついカツオ、たっぷりの湯で割った温かい栗焼酎の杯をあおると、今日はいい日だと思った。

 それから丸焼きのナスを出してもらった。これは皮を除いて前述のポン酢をかけて食する。ナスは丸焼きだ、と僕は常日頃から固く譲らない。白い実の部分の柔らかさ甘さと言ったら、これ以外の食べ方をする全人の頬に押し付けてやりたくなる。話の分かる後輩に恵まれて僕は嬉しい。

 酒ごとに、酔い方に特徴がある。ビールは一リットルを超えると眠くなる。日本酒は六合以上は眠くなる。たとえチャンポンせずとも一升呑んだら吐いてつらい。ワインは日本酒に準ずる。

 きれいに酔えるのは蒸留酒でウイスキー、焼酎は意識があまり濁らない。ただ足腰にくる。酒によって酔いが違う。

 深夜を過ぎた帰り道、残暑はすっかり消えていつの間にかセミではなく、鈴虫の声になっていた。こんなに気持ち良いなら酒で失敗する前に、それぞれの酒の効き目をじっくり味わうべきだった、と思った。

 今日はからりと焼酎一本、我ながら気持ちよい飲みっぷり、百点。

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