見出し画像

副業リーマン:フードデリバリー奮闘記⑥~街中での1コマ Ⅲ

前記事:副業リーマン:フードデリバリー奮闘記⑤~街中での1コマ Ⅱ~

第四部、第五部に続いて街中での一コマです。第六部では、主にピック時の経験についてまとめてみました。ピックに向かうお店も一様ではなく、仮にチェーン店であっても雰囲気が異なるケースもあります。また店員さんも人間一人一人の顔が違うように、マニュアル通りの対応の方もいれば、そうでない方もいたりと、異なるものです。

今回登場するお店は、有名チェーン店のようなお店ではなく、街のどこにでもあるお店です。いつも同じご主人が切り盛りされているお店とは縁あって色んな会話ができました。一方で、数は少ないですが苦手なお店もありました。馴染のお店、苦手なお店、それぞれのピック時の経験を振り返ってみました。

馴染みのピックのお店:ご主人との交流

家から最寄りに、しばしばピックにいったお店があります。街の商店街にあるイタリアンです。いわゆる商店街の個人店舗でして、お店を切り盛りする店主らしきご主人は、基本いつも同じ方なので、何度かピックしていくと自然と顔馴染になります。1日多いときは2回くらいピックにいくこともあります。こちらのお店で副業配達員ライフを通じて得難い経験がありました。

江戸っ子のようなご主人

私が稼動していたのは、大阪京橋界隈でしたが、ご主人はステレオではありますが、私の中にある江戸っ子っぽいイメージでした。キップの感じがよく、情に厚そう、怒ったら怖そう、そんな雰囲気というかオーラが出ていました。

店内のお客様のキャパは15人くらいでしょうか。テーブル毎に色んな特長があり、もちろんお一人様向けのカウンター席もあります。いつ行っても色んな客層で賑わっており、お客さんはいつも楽しそうでした。それほど広くはない店内ですので、お客さんらがどのような料理を食べているかも見ることができ、特にお腹が空いている時に頑張って稼動している時は、たまらなくなります。

辛気臭い配達員だと思われなくなかったので、店内に入るとしっかり挨拶をし、ピックかぶりで一緒になった先輩たちに影響され、
「お世話になります」の一言も忘れずに言うようにしています。
「おう、待ってたよ、さっき出来たよ、エビたっぷり海鮮丼、だったな」と手早く渡してくれました。
「ありがとうございます、運ばせていただきます」
受け取った丼をバッグへ格納し、隙間を埋める緩衝材をバッグに詰めている時に、
「にいちゃん、いつも元気いいなぁ、出前館の注文で、赤色の帽子と紺色の帽子の違い、あれは何なん?」と突然質問されました。
私は赤色が委託配達員で個人事業主、紺色が出前館に直接雇用されているパートタイマー・バイトであることを話しました。
「だからかぁ、紺色の連中、なんか面が冴えないというか、なんか暗いんだわ、赤色の帽子の人らは、なんか皆キビキビしとってのう、紺色はバイトなんか」と評されてました。赤色の帽子でこの界隈で稼動している人の数人は想像できたので、私もその中の”皆キビキビしてる”というイメージを持ってもらって少しホッとしました。
「委託配達員は、運んだ件数がそのまま実入りになり、少しでも早く届ければ、お客さんも嬉しいし、僕らもまた運べる時間が増えるんでチャキチャキ動いてるんだと思います。」
「たしかにそうだなぁ、それはわかるけど、な~んかあの紺色は好かんわ、なんかあいつら気合が入っとらんわ」
とご主人。なんだかよい意味で竹で割ったような性格なご主人です。
「じゃあ、いってきます、失礼しました」とペコリと会釈しつつ、立ち上がると、
「おう、にいちゃん、頼むで」と気持ちが奮起される掛け声を頂きます。お互い当たり前の仕事をしているのですが、こうした声の掛け合いというのは、『俺、役にたっている』という気持ちを実感できる瞬間でもあり、気持ちの良いものでした。

面前で叱られる

またある日のことでした。ピックに江戸っ子ご主人のお店へ行った際、この日はバイトらしき若い男性もキッチン内にいました。挨拶と番号を伝えました。ご主人は、
「おう、にいちゃん、お疲れさん、もう少しでできるからな、すまんが待っとって」としっかり顔を上げて答えてくれます。相手の顔をしっかり見ながら挨拶なり、会話してくれる方はそれだけで好感持てます。サービス業では当たり前なのかもしれませんが、私の勤め人の経験の中で、残念ながらそうでない方も少なからずいるからです。

出来上がった料理が入ったお椀にプラスチックの蓋をし、割りばしやらお店のチラシ等も入れて袋にいれるまでの流れで、キッチン内でご主人が怒っているように見えました。バイトさんが要領を得ていないのか、ご主人のやや強めの口調が聞こえてきます。

そして食べ物が梱包された袋を持ってバイトさんがキッチンから出てきましたが、そこでまたご主人が、
「おい、内容確認したか」とバイトさんに言います。バイトさんはご主人がその前から怒っていたのか、やや萎縮気味でしたが、ご主人がキッチン脇まで出てきて内容確認します。
「割りばしが入っとらんやろーが、袋開けたお客さんの気持ちになってみぃや。だから確認せぇ言ったろ、まったく。。。」とややキツメの口調でバイトさんを叱ります。私は関西のイントネーションでのコトの度合いが今一つわからないので、バイトさんが気になりましたが、バイトさんはすっかり萎縮してしまっていました。ご主人が手早く割りばしを入れた袋を渡してくれました。
「にいちゃん、お待たせ、すまんな」と私には丁寧でしたが、バイトさんは申し訳なさそうにしていました。

後日、五代さんと拠点からの帰りで一緒した際、イタリアンの店舗の話になりました。料理が値段や量のコスパが良いのか、よく注文があったので、五代さんも運んだことがありました。
「ご主人がバイトさんに叱ってるのが、ちょっと怖かったですよ、私ビビりなんで」と私が切り出すと、
「あの𠮟り方はよくない、ひと昔前だったら普通の光景だと思うけど、やっぱり人前でミスを大きな声で指摘したり、叱るのは本人にとって大きな傷痕になるよ。あのおっちゃん、キップ良くてよいけどちょっと癖あるなぁ」と私が感じていたことを代弁してくれたようでした。

「人を使うのは難しいですわ、だって自分以外の人間に動いてもらうわけじゃないですか、人間だから誰もがミスはあるやろうけど、仮に失敗はすれど、今後その人が気持ちよく前向きになって継続的に仕事をしてもらう、ってとこまで考えると、言い方にもタイミングや場所、相手の個性なども踏まえて言わんとね」と五代さんはなにか自身を回想するかのように私に語りかけてくれました。五代さんの過去にも色々あったのだろうなぁと伺わせるようなものでした。

お店のご主人も修業時代に、厳しい先輩のもとでの経験があったことでしょう。嫌な思いをしたお店は今後注文されなくなることでサービス業、飲食としての商売の観点からも、「再確認」という点は大切なところではありますが、叱る場所とタイミングは、どうしても感情が優先してしまうところがあり、五代さんがお話ししていた内容が理想ではありますが、難しいものだと感じました。決してご主人がバイトさんを罵倒していたわけではなく、店の主として、お客さんに迷惑かけないようにしたいがため、つい語気が強まったしまったと思います。

ひるがえって、私の過去の経験でそれらが出来ていただろうか、と思うと省みるところもしばしばです。

お互い様、様様や

その日は小雨が降ってました。そして私が初めて出前館でダブルピックをした時でもありました。ショート1件で同じ方角からちょっと先の案件でした。同じ店からピックできること、かつ方角も同じということもあったので、初めての同店舗ダブルピックとなります。ダブルピックにも2種類あり、同じお店で2件分の注文の品を運ぶケースと、1件分をピックし、さらに最寄りもしくは道中のお店で2件目をピックするという2つのパターンがあります。後者はさらに上級者向けです。なぜなら2件目のお店で、万が一お店側がしかるべきタイミングで準備できておらず、お店で待つ事態になると1件はもとより、2件目も指定配達時間内での配達が危うくなる可能性があるからです。

江戸っ子ご主人のこちらのお店は粉もの料理のように時間がかかるわけではなく、ご主人も時間内にたいてい準備してくれるので、ピックリスクが非常に低いお店だったこともダブルピックを決意した理由の一つでもあります。

私の待機場所と江戸っ子ご主人のお店は距離が近いこともあり、挨拶して入店した後お店で待ちます。ご主人は、
「飲食業界はどうしても雨の日になるとお客さんが少なくなってしまうけど、出前は逆に注文が増えてありがたいわ。出前も運んでくれる人がいるからこそ、わしらも商売になっとる、ホンマにありがとな、にいちゃん」と言われると、恐縮してしまいます。こちらも雨とはいえ、お店があって注文が入るので、
「いえいえ、こちらこそです。こちらのお店、たくさん注文入るので、僕も嬉しいです」
「にいちゃん、2件運ぶんか?どれどれ、住所は?」とご主人が端末を見ます。
「この2件目はちょっと遠いやつだけど大丈夫か?」
「はい、1件目と同じ方角ですし、雨の日なんで配達時間はいつもより余裕ありますし」と初めてのダブルピックとはいえ、私も緊張していました。
「配達員さんが全くつかまらんと、せっかく注文受けて作っても、料理を運んでもらえないと、こっちも商売にならんのや、雨の日も運んでくれてありがとな」と感謝も込めて言われて感激しました。
「僕ら委託もお店あってのことですよ、こちらこそありがとうございます」

「お互い様や、にいちゃんも”様”、俺も”様”、お互い様や、お互い様って言葉、めっちゃ好きなんや」と料理しながらでありますが、時折こっちを見てくれるご主人、マスクはしていますが、目は笑ってました。

たしかに、”お互い様”という言葉は知っていましたが、ご主人が解説してくれてハッと気づくことがありました。どちらも、”様”なので、上や下だの上下関係もなく、その関係は対等であり、かつ相手を敬う意味でも、相手方に”様”、自身がへりくだり過ぎることもなく自身も”様”、改めてとても良い表現だと気づかされました。

「あいよ、おまたせ」とご主人がキッチンから出てきました。この日バイトさんはいませんでした。
「こっちが番号”*****”の炙りサーモン丼、ほんでこっちが番号”*****”のトロサーモン丼だ、番号を袋にも書いとるから、間違えんよう気ぃつけてな」とうっかり間違いが多い私には響きます。ダブルピック時にも先輩らの教えが活きました。食べ物をバッグ格納時に、配達順番を意識して入れる方法です。2件目に配達する丼を下段に置き、1件目を上段に置きます。隙間は緩衝材を入れ、ゆれてもズレないようにしてバッグへ収納します。
「ありがとうございます、じゃ行ってきます」とご主人に挨拶し、
「おう、雨だから気ぃ付けてな、配達員 様様や!」と腕組しているご主人の気持ち良い掛け声のもと送り出してくれました。

私の初めてのダブルピックは時間に余裕もあり、大過なく2件とも配達を完了することができました。

フードデリバリー業界は、システムを提供するプラットホーマー、注文するお客様、店舗、そして配達員、いずれを欠いても成り立ちませんが、とりわけ同じ顔と顔を合わす機会が多い、店舗と配達員は持ちつ持たれつの関係を色濃く感じました。

お互い様、いい言葉だと再認識できました。

店舗側の取り組み

何度もピックにいっていて、時折店舗内のお客さんが食べにいっている料理も気になった私は、深夜にプライベートでも食べにいきました。
普段はマスクして、帽子かぶって配達員らしい恰好をしているので、わからないだろうなぁと思いつつ、カウンターに座ったのですが、ご主人にはすぐばれてしまいました。

「いやぁ、わかります?僕わからないと思っていたんですよ」
「にいちゃん、こちとら客商売やで。何度もにいちゃん配達来とるし、いでたち違っても背格好や声ですぐわかったわ、今日は配達やらんのか、まぁええわ、お店来てくれてありがと」といった会話からはじまりました。

生ビールも注文し、生ハムの食べ放題が以前から目についていたので、こちらも注文しようとしたら、
「にいちゃん、生ハム120分間食えるやんか、今日はもう閉店まで1時間もないからやめとき、今度は時間余裕ある時に仲間もぎょーさん連れてきてーな、その代わり、サラダ注文してくれたらハム多めに入れとくわ」とのことでしたので、サラダを注文しました。そしたらそのサラダだけで満腹になりそうなくらいのボリュームでびっくりしました。

私が飲み食いしている時も、時折注文があり配達員さんが来てました。ひょっとしたら地域の顔馴染の配達員さんかもと思い、チラ見してしまいます。

閉店間際になり、お客さんも私だけになりました。
「出前の注文も多いですかね?」とご主人に話しかけました。
「ん~まぁまぁやな、うち運営側に広告料も払ってるんやけど、どこまで効果があるのかわからんのよ。」
私は店舗が運営側に広告料という枠があるのを知らなかったので、
「えっ、そんなのもあるんですか?何ですか?」と聞くと、
「まぁ、おれもよくわからんのにやったんやけどな、モノは試し、っていうやろ、だからやってみたわけよ。おそらく同じ類の店であっても、リストの頭のほうに表示されるとかそういう類だったような記憶がある。」
「で、効果はどうですか?」とすぐ聞き返すと、
「まだやり始めたばかりやから、大きな効果がわからんわ、きっと他のお店も同じようにやってるやろうから、そうなると結局は金次第なんかのう、広告代も高いのか安いのか、初めてのことだから相場感というのもわからんからね。まぁもうちっと様子みるわ」とのことでした。

店舗側も美味しい料理をつくる以外にも経営的に色んな取り組みがあるものだと感じました。配達時の袋の中に店舗のチラシを入れるところもありますが、その手のチラシも広義の広告でもあり、出前注文をトリガーにまた注文してもらうような取り組みの一環だと感じていました。サービス業はやはり新規だけでなく、継続的なリピーターをいかに獲得するか、という点も大事な要素ですから、地道なチラシなり広告宣伝というのも店舗側の取り組みとしては大切なものだと感じています。

「せや、にぃちゃん、端末の設定のことで質問したいやけど、ええか?」とご主人が店舗側の端末の向きを私のほうへ向けてきました。
「なんかなぁ、最近バージョンアップがあったのか、お店の調理時間を再設定したいんやが、やり方がどうもわからんのや。お客さんがぎょーさん来てるときは、出前館の注文でゴングならされても、その時間にできない時もあってな、にいちゃんら配達員を待たすのも申し訳ないし、かといってお店に来ているお客さんも余計に待ってもらうってのもなぁ、ほんで時間を調整したんやけどなぁ、やり方がわっからへん」
委託配達員の私は配達員用アプリなら触りますが、店舗側のアプリを触ったこともないので、その旨お伝えすると、
「そやったな、にいちゃんは配達専門やもんな、すまんな、でもどこに聞いたらええか知らんか」と聞かれたので、普段お世話になっている拠点の連絡先の電話番号を教えました。拠点で店舗側サポートまでやっているかどうかはわかりませんが、最低限適切な相談先などの情報は得られるだろうと思ったからです。

このコロナ禍で、従来のお客さんに来て料理・お酒だけを提供していた普通のお店が、お弁当やテイクアウトにも対応するお店も増え、あわせてフードデリバリーのプラットホームに登録するお店も時勢の後押しもあり、そういった店舗が急激に増えました。

お店側も生き残りかけて、時代の流れに乗り、さらに色んな挑戦をされているのだと強く感じました。広告・宣伝は水物のように感じるところもありますが、素人の私がやはり一番信用するのは、口コミ、それも自分がよく知っている方からのお勧めなどですかね。

最近はSNSもあるおかげで、美味しいものを食べたら「これ美味しい~」というような感じで、情報が公開されます。注目をひくようなものであれば、さらに拡散されます。ひと昔と比べて、その情報量や拡散するスピードはけた違いですが、雑多な情報や虚偽だと疑わしき情報も氾濫する中、店舗経営者観点でも、考えさせられるきっかけでした。

もちろん、安くて、美味しいという点はすぐ考えますが、値段でいえば、大手資本のファストフードは価格も手ごろで味のブレもがなく、まぁ美味しいです。小さな飲食店であれ、お店でのサービスや料理以外に、多くの取り組みがある中で、フードデリバリーのプラットホームでもより多くの顧客獲得、リピーター獲得の窓口になる可能性を感じた時でもありました。

苦手なお店でのピック:地雷店

ピックする時に、全てのお店で心地よくピックできるわけではありません。ピックに時間がかかるお店が代表的ではありますが、ピックするにあたってもその他色んなことがありました。

店舗側のお客さんといえば、いわずもがな、来店して食べ物、飲み物を注文されるいわゆる普通のお客さんですが、配達員はそうではありません。配達員とお店側の関係を「お互い様」と考えてくれるお店ばかりではありません。

嫌なお店で時間を失うことはすなわち、得られたであろう他の配達ができる時間、収入を失うことにつながるため、出前館の時間給のバイト配達員を除き、どの配達員も避けたいと思うお店です。

また時間がかかる以外にも、配達員に対して冷ややかな対応や尊大な態度のお店は残念ながらゼロではありませんでした。

配達員なんかいくらでもいる

フードデリバリーの配達員は急増していた時勢でした。コロナ禍も相まって、Uber、出前館の著名な会社以外にも複数のフードデリバリープラット―フォーマーが立ち上がり、そこに多大な広告・宣伝費が注がれ、注文するお客さん向けのキャンペーン、配達員への配達料に対しても、大盤振る舞いともいえる規模でした。

店舗側は急増するフードデリバリー注文により、多くの配達員がお店を出入りしており、それこそ無数の配達員がいると思われてもしょうがないでしょう。加えて、配達員はあくまでも配達員であり、お店のお客さんではないとうことで、悲しいかな、配達員を邪険に扱うお店も経験しました。

配達員のかわりなどいくらでもいる、配達員などただの「コマ」、店舗側のほうが立場が上、お前らはただの「お使い」だ、と言わんばかりの態度や扱いを受けることもありました。

しかしそれは大きな間違いであると感じていました。配達員も感情ある人であり、仕事をしていないときは、一消費者であり、お客さんになる可能性がある中、ぞんざいな扱いは、お店の評判を落とす行為へすぐ繋がります。良いお店の評判よりも、悪いお店の評判のほうが伝播するスピードが早いと思うところあります。とりわけ、一人一人が発信者となり得るのが容易であり、各種SNSで「負」の情報は人々の怒りと関心を誘い、あっという間に伝播します。

SNSの時代にあって「炎上」という表現が使われますが、行き過ぎた行為は容易に炎上しますし、炎上せずともお店の評判は下がるでしょう。

もちろんお店側にとって、過去に配達員によって、嫌な思いをしたお店もあるのかもしれません。待たせてイライラした配達員が恫喝紛いにせかしてきたり、待ちきれなくなった配達員がキッチンにまで入り込んだ、というケースもあったかもしれません。

お店側のいろんな事情はあったにしろ、あるいはなかったにしろ、
「配達員なんぞ、いくらでもいる」、私が実際に言われた残念な表現でした。

嘘は ばれるもの

私は地雷店だと感じたお店でも案件を受諾することもあります。お店からお客さんまで1キロ未満、或いは1キロ少しと感じた場合は、地雷店であっても受諾します。お店の調理に時間がかかり、受け取り予定時間を過ぎたとしても、配達含めたトータルのお届け時間内におさまるであろう見込みだからです。

ある日、程よい距離感の地雷店を敢えて受諾し、お店へ調理開始願いとなる、ゴングを鳴らして10分経っても予想通り食べ物が準備できていなかったケースです。店内にて低姿勢に、
「あと、どのくらいでできそうですか?」と質問します。この回答もたいてい正確なものではなく、言われた時間から超過することもしばしばです。

またバイトさんの経験値などにも影響します。よく見るバイトさん、新顔っぽいバイトさん、慣れてなさそうなバイトさんによって精度も変わりますし、店内のお客さんの入り状態によってもばらつきがありますが、結局経験と勘便りのところがあります。しかし、出前館はその他の新規案件も常にリスト内に案件が表示されるため、待っている間にショート案件受諾のみに画面に集中し、ショート獲得を狙います。

幸いにして、私はファストフード店のショート獲得に成功しました。ファストフード店、これもお店によりますが、出来上がるまでの時間が短いことやピークタイムでのピックリスクが他の一般的なお店よりも低いこともあり、ファストフードのショート案件は配達員だれもが狙う案件です。早押し優先の出前館は集中して構えていないと取れないことが多いですが、この日は運よく受諾することができました。

急ぎ1件のショートを運び終えて、当初の地雷店に戻るとまだ出来上がっていませんでした。今受領できたとしても、予定時間から遅れての配達、いわゆる『遅配』になることは避けられませんでした。

私は、以前拠点で委託配達員さんと交流している時に、「お店に起因する受領遅れは、お店側がお客様に連絡する」というルールを聞いたことがあったため、毎度多くの待ち時間が発生するこのお店には、一言いってやろうという気持ちが兼ねてからあり、お店にそれを伝えました。私は定刻通りに来ていたし、お店が言った予想時間よりも多く待っている、ということもあったため、丁寧に「ルール」としてそれをお伝えしました。

ホールのバイトさんは、キッチンのチーフらしきところに、それを伝えにいきました。キッチンのチーフらしき男性が私を睨んできます。
「すいませんが、お店の方からご連絡をお願いします」と再度申し入れしました。渋々お店の方がコードレス電話でお客さんに電話して放った言葉は驚くものでした。
「配達員が来てないから遅れている」といった内容でした。

まったく事実と異なるもので、遅配を配達員へ転嫁する虚言だったのです。お店のチーフは、「フンッ」といった顔で私を再度睨みました。そこから待つことさらに10分くらいでしょうか、ようやくお客さんが注文された食べ物を受領した私は急ぎドロップ先の住所へ大急ぎで向かいます。”置き配”ではなかったので、お客さんと相対してお渡ししなければなりません、お客さんのお怒りは回避できないだろうなぁと思いつつお客さんの元へ急ぎました。

お客さんのところへ到着し、インターホン経由でお客さんがドアを開けてくれた時から、「申し訳ありません」とお詫びし、階段を急いで上がり、お客さんのドア前まで来たころには急いで自転車漕いで階段も急ぎ駆け上がってきたこともあり、心拍数が速くになっていたことに加え、緊張でさらに速い鼓動を感じました。

ドアが開きました。
「お待たせしまして大変申し訳ありません」、ただただお詫びする他ない配達員としては、ヒラにお詫びしました。お客さんは仏頂面でした。目論見よりも30分近く遅れれば、気持ち穏やかではないのは容易に想像できます。バッグから食べ物を渡し、再度
「遅れて申し訳ありませんでした。」とお詫びしました。

「あなたは悪くないですよ」とボソッとお客さんは言いはじめました。
「アプリの地図で見てました、早い時間にお店に到着していましたね。しばらく待ってお店から電話もらった時は、『配達員が来ていない』とのことでしたが、その時もお店にいたように見えました。かなり待ちましたが、お店の都合で後回しにされたんでしょうね、もうあの店で注文することは今後ないです、急いで運んできてくれて、ありがとう」

私は救われました。長くない距離でしたが、自転車で急いできたことと、長時間の遅配で緊張していましたが、その緊張が一気に緩み、溺れていた沼地から拾い上げてもらったような気持ちになりました。怒られることを覚悟していました。なぜなら、お客さんが注文したアプリの画面で配達員の現在位置を見れているとも思っていませんでしたし、お店が遅配の理由を配達員に責任転嫁する連絡をしたことこともあり、お客さんとの直接的な接点は配達員ですので、怒りの矛先が私に向かうのを自然なことだと思っていたからです。
しかし、お客さんに恵まれたのか、運が良かったのか、結果としては遅配でありながらも、お客さんの憤慨を怒声として受けることはありませんでした。

「あなたは悪くないですよ」、に本当に救ってもらいました。この時、私からお客さんには、ただただ遅配したことのお詫びしかお伝えできていませんでしたが、心の底から、「ありがとう」と伝えたい。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。配達にあたって、私の過失による遅配になるケースも、もちろんありました。自分のミスや誤りによるものでした。でも失敗しても、それは次の配達に必ずつながります。それについては、また後日に奮闘記に中に書いていきたいと思います。

もし許せば、「スキ」をクリックしていただけると今後の励みになりますので、ポチっとしていただけると嬉しいです。



励みになるサポートいただければ嬉しいです。でもお金もったいないので、 いいね!やシェアのほうが実は嬉しいです! まだサポートもらうレベルではないんですよ。(笑)