見出し画像

副業リーマン:フードデリバリー奮闘記②~出前館にも登録~

前記事:副業リーマン:フードデリバリー奮闘記①~やってみよう!~

出前館配達員との出会い

それは2021年6月下旬、梅雨の時期の週末でした。しとしとと雨が降ってました。ただ気温は低くなく、少し濡れるくらいで事前に防水スプレーしたバッグやウェア、そして長靴を履いて、その日もせっせと配達を楽しんでました。

夕方から夜にかけては夕食時のピークタイムでした。とある弁当屋さんへピックにいきました。Uberの仕組みは配達を受諾してお店にいった場合、たいていは出来上がった状態で提供されるのですが、店舗のアルバイトの方が端末の使い方に不慣れだったり、作り間違いや店内の混乱などがあると店舗に到着しても待たされることがあります。

店内に入ると、赤色の帽子と紺色の帽子をかぶった配達員さんがすでに受け取りを待っているかのようでした。私は自然な感じで挨拶を交わしました。どうやら先着の配達員さんはすでに15分以上待っておられるようでした。Uberではなく、出前館の配達だとわかりました。私はUberしか知らなかったので、出前館について質問したところ、出前館の配達員用のアプリを見せながら赤帽子の方が説明してくれました。

赤帽子:鳥居さんとの出会い

この時点では、赤帽子の方のお名前を知ることはなく、お名前を知るのはもう少し後になります。鳥居さんは当初Uberをしていたのですが、クエストに追われるような心境になってしまう点と、自分がよく知っている地域で配達がしたいという点、1件あたりの配達単価がUberより良い点についてお話してくれました。さらに出前館はUberの配達アプリと異なる部分が多くある点についても言及されていました。例えばこの時鳥居さんは一つのお店で複数のお客様向けの配達をするところでした。
「えっ、そんなこともできるんですか!?どうやるんですか?」私はびっくりして、ここから質問をぶつけてみました。
「出前館は、案件がリストのようになって表示され、その中で自分にとって都合の良い配達案件を選ぶことができるんだよ。俺は同じお店のものを選んで、ここで2件待ってるわけよ」
「えっ、出前館は運ぶ先が近いとか遠いとかもわかるんですか?」と私は質問を重ねると、
「わかるよ、丁目単位で住所が出るんだよ。俺はその中で指定時間内で回れるベストな案件を選定している」
「ということは、界隈の住所を丁目単位含めて全部頭に入っているんですか?!」と私はさらに質問すると、
「当たり前だよ、俺はこの界隈に住んでることもあるけど、地図は丁目・地番単位で徹底的に頭に叩き込んだから。」とサラッと回答してくれました。
「それは、すごいですね!私なんかまだ配達はじめて2ヵ月経ったところですが、丁目の住所なんか家の周りくらいしかわかりませんよ。」
「まぁ、やっていれば、自ずと覚えるけど、詳しく知っておくにこしたことないよ。出前館は距離に関係なく、1件あたりの報酬だから、わかりやすいし、Uberみたいにとんでもなく遠くへ飛ばされることも少ない、だって自分で案件をリストの中から選ぶことができるからね。」鳥居さんは私に説明している間でも、店内を伺ったり、出前館ドライバーのアプリを操作してました。

「ほら、見てごらん、これなんかお店とお客さんとの距離が目と鼻の先だよ、皆雨だから外に出たくないんだろうね。」とリストの中の案件を見せてくれました。
「俺は、今から運ぶ配達先とは向きが違うから取らないけど」と鳥居さんが話し終わるか終わらないうちに、リスト内の案件は消えてました。私は、
「あれ?さっきの案件、もうないですよ?」と質問したところ、
「ショート(お店から客先までの距離が短い)だから、他の配達員がすぐ取ったんだよ、だから良い案件は早取り競争なんだよ」とニヤッと笑いながら、教えてくれました。しばらく会話してても、まだ鳥居さんが待っているお弁当は出てきませんでした。鳥居さんは、
「遅いなぁ、指定時間までにお客さんに届けることができないから、事前にお客さんに電話してくるよ」と言って鳥居さんは一度店外に出ました。

紺帽子:バイトさんとの出会い

店内にはもう一人紺色の帽子をかぶった女性もいました。帽子には出前館のイラストがありました。
「出前館の方ですよね?」と私が聞いたところ、
「はい、そうです。普段は拠点にいるのですが、今日はオーダーがとても多く、配達を手伝っています。」と気持ちよく答えてくれました。

いわゆる案件当たり配達数によって実入りが変わる個人事業主的な配達以外にも、出前館は時間単位のパート・アルバイトのような配達員もいることを知りました。

忙しい時、忙しくない時、配達有無にかかわらずバイト代が支給され、配達に必要な原付バイクから制服、スマートフォンなど全て貸与してくれるので、とても気軽だと紺帽子のバイトさんは説明してくれました。

「私もやってみようかな。」とつぶやいたら、
「やってくださいよ、今配達がすごい増えてるんですよ」となんだか嬉しげに、そしてまるで誘っているかのようでした。

そうこうしているうちに、お店から
「Uberさーん」と呼ばれ、私は番号を伝えて、ピックを完了しました。紺帽子の女性に会釈をして、店外に出ると鳥居さんがまだ電話していました。鳥居さんは私と目があうと、片手を振ってくれました。なんだか2人よりも後にお店に入ったのに、先に受け取ってしまって申し訳ない思いでした。ただ、この時はUberと出前館の仕組みの違いで、お店が料理を作りはじめるタイミングが異なることはこのときは知る由もありませんでした。

この日もなんだかんだで遠くまで配達で飛ばされてしまい、さぁ帰ろうと家に向けて、疲れた足腰を無理させずに、ゆっくり自転車を漕いでる道中に、赤帽子の配達員さん(鳥居さん)、紺帽子のバイト配達員さんらが教えてくれたことを思い出しました。クエストによる達成の焦りがない点、単価が比較的良い点、稼働範囲が逸脱して遠くにならなくて済む、この3点に魅かれた私は早速出前館にも配達員として登録することを決意しました。

出前館に配達員登録

出前館への配達員登録への申し込みはパソコンから実施し、仕組みやルールなどを説明する動画を参照し、そしてリモートでの面接がありました。それらをいずれも常識的な範囲のものでした。その後、今度は稼働拠点に配達員としての帽子を取りにいくことと、稼働地域単位での説明があるということで、私は週末の午前にアポを入れ、自分が稼動するエリアを統括している拠点まで行きました。地図を見ると家から5キロほど離れていたため、地下鉄でいきました。

拠点はビルの1階で、拠点内にはバイト配達員が使うであろう、出前館配達用の自転車や雨合羽やユニフォームをかけておくハンガーラックやら各種備品用のメタルラックなどもあり、まさに配達用の拠点でした。新しく配達員として登録したことと自身の名前を伝えると、
「あ~、木野さんね。ちょっと待ってくださね、これから説明しますから」といって、私よりも1回りくらい若い年齢の方が説明用のマニュアルシートを持って、拠点内の空きスペースに椅子を2脚並べ、説明が始まりました。てっきり集団での説明会かと思いきや、個々に実施してる様子でした。

これまでUberで配達していたことを伝えると、Uberとの違いについて重点的に説明してくれました。個別個別に細かいことを教えてもらいましたが、とりわけ強調して説明していたのは、
「ラーメン、或いはマクドナルドのダブルピックはやめてくださいね」といった点だった。私はUberでもしたことがなかったので、その時は気にも留めませんでした。きっとラーメンが伸びてしまったり、ポテトがへなへなになってしまうからだろう、くらいにしか思っていませんでしたが、その詳細な理由がわかるまでそれほど時間はかかりませんでした。

説明は20分ほどで終わりました。何点か質問をしましたが、回答に専門用語なのか略語なのかわからないのもあり、回答を受けて再度質問をするというやり取りをさらに20分くらいしたでしょうか。委託配達員には、赤い帽子が貸与されるはずでしたが、配達員が急激に増えているのか、拠点の帽子在庫が底をついていたため、私は紺色の帽子で渡されました。
「赤帽子が入ったら、すぐ渡しますので、それまでは紺色の帽子でお願いします。じゃあ、今日からでも稼動できますので、お願いしますね」とのことでした。さて諸々説明や質問が終わったようでしたので、私は
「それでは失礼します、ご説明ありがとうございました、頑張りますね」とお伝えして拠点のドアから出ようとした際、
「そうだ、木野さん、配達員全員をグループにしたグループLINEがありまして、そこに登録してもらえますか?拠点からの各種一斉連絡や、個別の連絡などにも使えます。」とのことで、拠点の方は机にあったスマホを取り、私のLINEアカウントを友達登録しました。
「お名前は、木野さんでしたよね。」と手早くLINE表示名の名前も変更されました。
「何かわからないことあったら、LINEしてもらっても、電話してもらっても良いのでお気軽に聞いてください」と言われたのは心強かったです。Uber配達員をしていた際は、そういった気軽にきけそうな拠点というそのものがなかったこともあり、なんだか安心しました。ただUberでの稼動を振り返ってみると、私がUberで2ヵ月と少し稼動した中では、そこまで困ることがなかったというのもまた事実でした。

実際にまだ出前館で稼動もしていなかったので、Uberの時のように、(まぁ、やりながら覚えていくか)と軽くとらえていましたが、実際に稼動をするとUberとの違いを思い知ることになりました。

出前館で配達開始

さぁ、出前館で配達開始です。配達員用のスマホアプリをダウンロードし、IDとパスワードを入力するとハチの巣のような六角形のバック画面だけが立ち上がりました。自分が今地図上のどこにいるのか、という地図と連動したそれではなく、画面らしい画面が当時全くありませんでした。

しばらくすると、アプリが鳴りました。注文が入ったわけです。アプリ内にはリストのように、店舗名、店舗住所、配達先住所が表示されます。住所は丁目まで表示されます。フードデリバリーをはじめてまだ3か月くらいで、色んな地域にいって配達していたので、自身が稼動する出前館対象地域内ではまだ知らないお店のほうが圧倒的に多く、住所も丁目レベルで知っているのは自分の住んでる界隈くらいで、あとはおおまかな地名くらいでした。注文を受諾するかどうかで迷っているとあっという間にリストから消えてしまいます。

出前館で1件目の配達

最初はどのようなお店が鳴るのかしばらく見ていましたが、当然受諾操作をしないと、配達ができないため、自分が知っているお店を中心に受諾を開始します。最初は京橋のマクドナルドからでした。当時、出前館とUberの大きな違いの一つとして、「ゴング」制度がありました。これは配達員が「今から注文あった食べ物を取りにいきますよ」ということをお店へ通達する仕組みで、おおよそ10分が目安とされていました。つまりお店は配達員からのゴングが鳴った際には10分で食べ物を準備する必要があります。
文字通りファーストフード店のようにすぐ提供できるお店もあれば、時間がかかるお店もあります。また注文量によっても異なりますから、一概に10分とでいつも食べ物が準備できるわけではないのは素人でもわかってました。

マクドナルドだけはお店到着前の3分前にゴングを鳴らす、というのが拠点の方も念入りに説明したところだったので、お店に近いところでゴングを鳴らしました。昼食ピークタイムではなかったこともあり、それほど待つこともなく、Uberと同じように5桁の番号をお店の伝え、食べ物を受け取り、お客様まで配達がはじまります。Uberと同じように、注文したお客様の住所がスマホのGoogle mapに表示されます。

地図のナビにしたがってお客さんの住所までいきます。もちろん地図での表示が最適というわけではなく、ドロップが自分がよく知っている界隈だったこともあり、臨機応変で自分なりのルートでいき、お客様先まで到着です。そこから先はUberとほぼかわらないやり取りでした。

出前館のピークタイム経験

ピークタイムになると、注文を配達員用アプリのリスト内で多く確認できます。注文が入った時には、アプリから音が鳴るのですが、その音といったら、まるで脳みそをキツツキがつっつくいているかのようであり、その音の質も、なんだか金属をガンガン叩いているようでもあります。さらに次から次へと注文が入ってくると、それらが重奏のようになり、さながら夏の世の田んぼにいる無数のカエルらが耳元で大合唱してるのようで、決してUberのように心地よい音色ではありませんでした。
この大合唱をスマホのスピーカーで聞いていたら、周囲の人がきょろきょろするくらいのものですので、私はワイヤレスイヤホンを装備し、片耳に入るか入らないかのようにしました。もともとUberで遠くの場所から家へ帰る際、ただもくもくと帰るのが退屈だったので、ポッドキャストか音楽を聴きながら帰るために購入したものですが、まさかこんなことで使うことになるとは思いもしませんでした。

カエルの大合唱の中で、どんどんリストにたまっていく注文。「おっ、これはいいなぁ」と思って受諾しようとした案件はあっという間に消えてしまいます。もしくは受諾しようとタップしたものの、サーバー側からは受諾できない通知がきたりと、なかなか自分が受諾したい注文は取れませんでした。

それでも非常に多い注文のため、なかには受諾できる案件があり、それらを一つ、また一つと配達していきました。まだまだ出前館初心者だったこともあり、平日の仕事終わった時は2件ないし3件ほどでした。それでもUberで運ぶよりかは時間あたりの実入りが多かったです。理由は2つありまして、1,Uberは、(当時では)受諾しないとどこまで運ぶかわからない、2,出前館は配達員のモチベーションを上げる追加割り増しの手当がつき、1件あたりの単価がUberと大きく差があったからです。

クエストをクリアし続ければ、トータルではUberでも同じくらい稼げたのかもしれませんが、平日の稼働が限定的で稼動する日もしない日もあり、遠くまでいくこともないので、自転車で副業する私としても手ごろなものでした。

赤シャツ:三田村さんとの出会い

それは出前館として稼働しはじめて、3日目のことでした。私は火曜日、木曜日とそれぞれ数件配達し、その日は金曜日でした。この日も在宅勤務日でしたが、19時半くらいに仕事が終わり、さぁ2件くらい配達でもするか、ということでいつも通り私がフードデリバリー時に根城にしていた大阪 京橋界隈まで移動し、案件の受諾しました。お店まで近かったこともあり、すぐゴングを鳴らし、あっという間にお店前に到着します。注文内容は天ぷらでした。しかし住所にあったお店はお寿司屋さんであり、配達員アプリで表示されている店名とも異なり、本当にここかなと不安になりました。

出前館のアプリにはUberにはない良いところとして、ピック対象のお店のメモがあることでした。過去配達された方がお店に関する情報をテキストベースのメモとして残すことができます。このメモ機能や共有され、ドロップ先となるお客様についても同様にメモ共有機能があり、建屋の特長などの記載がありました。今回、初めてこのメモに救われました出前館で登録しているお店と、実際の店舗名が違うため、メモになるそれがわかるよう、実店舗名の記載がありました。こうしたメモに今後も多くも救われることとなります。お店内で挨拶すると、まだ時間がかかる、とのことでしたので、
「早すぎましたよね、ゆっくり待ってます」と伝え、私は店の入り口脇で待つこととしました。ゴングしてから2分かそこらでしたから。

そうこうしているうちに、お店の前に一台のクロスバイクが止まりました。フードデリバリーの配達員用のバッグを持っていたので、配達員だとすぐわかりました。赤い半そでのシャツ、赤いヘルメットが印象的でした。出前館の委託配達員であるを示す赤い帽子は、赤ヘルメットのさらに内側にかぶられたので、ヘルメットの隙間からわかりました。自転車から降りてきたその配達員さんは、筋肉の筋で凹凸ある太い腕、腕から肩にかけての盛り上がった肩周りの筋肉、そしてシャツの上からでも容易にわかる分厚い胸板、その逆三角形の身体は夏の薄着でも恥ずかしくない立派な体躯でした。上半身はひょろひょろで腹回りに浮き輪のような贅肉がついている私とは大違いです。

その配達員さんも私同様にピックに来ていましたが、どうやら私と様子が違いました。配達員さんは、店員さんと交渉をはじめました。
「実は私、もう一つ配達があって、これも同じタイミングでいただけないでしょうか、おそらくすぐできる注文かと思います。」と配達員さんは注文内容が記載されているスマホアプリを調理担当の店員さんに見せており、
「そうだね、これならすぐ準備できるし、すまんがあと3、4分待っててくれるかい、同じタイミングで出すよ」と調理担当の方はその配達員さんに言いました。
”ダブルピック”、その言葉が私の頭によぎました。初めて会った鳥居さんが弁当屋でしていたのはこれだったのか、出前館拠点の方が、「ラーメンとマクドナルドの”ダブルピック”はダメですよ」と説明していた”ダブルピック”とはこのことか、と記憶の点がつながり始めました。

きょとんとしている私を横目に、その配達員さんは親しげに私に話しかけてきました。
「拠点の方ですか?お疲れ様です」と。私が紺色の帽子をかぶっていたので、業務委託配達員ではなく、バイト配達員・もしくは拠点勤めの方として勘違いされるのも無理はないです。私は、
「いえ、委託配達員です、出前館ではじめたばかりなんですけど、赤い帽子在庫がないとのことで、入庫するまでは紺色の帽子で稼動するよう言われました。」と答え、赤シャツ・赤ヘルメットの配達員さんは、すぐに
「そうなんですか、最近このあたりで、フードデリバリーはじめたばかりですか?」と。
私はびっくりしました。なぜ私が初心者だとわかったのだろうか、と。もちろん出前館の真新しい紺色帽子をかぶってはいたことや、おそらくこのあたりで見ない顔、タイヤも擦れてなくまだ真新しい自転車、使い込みで馴染んでないデリバリー用のバッグ、きょどってる感じもあったのか、それら諸々の情報で洞察したのでしょう。
「あっ、はい、出前館をやって今日で3日目になります。前はUberを少しやってまして。」
私はこの赤シャツ・赤ヘルメットの配達員さんを一目みて、見た目のがっちりした体格、お店に入ってきた時の初動から驚いてましたが、熟練配達者の方だとすぐ感じ、見た目の立派な体格もあって、やや気おくれしていました。
「出前館、いいよね。最近注文多くてね、この界隈ではいつも運んでいる委託の人達だけでは足りないくらいだよ、一緒に頑張ろうよ」となんだか手を差し出してくれるかのように言われ、それまでUberでは良くも悪くも個人事業主的に孤独で仕事していた感覚と、昼間の勤め人としての仕事でもどこか淡々と仕事だけしている私の感情が良いほうへ揺れました。私は先ほどのお店との交渉についても触れました。
「さっきの交渉、ダブルピックってやつですか、すごいですね。大丈夫なんですか?」と素人丸出しで聞くと、
「どちらもお店からは遠くないし、2つ目のお客さんも1つ目のドロップ先から遠くない、時間内には余裕でお釣りがでるくらい間に合う距離だよ」と自信に満ちた回答が返ってきました。同じ地名であっても丁目によっては離れているところもあり、ろくに地名・丁名を覚えていない私にとっては、神業のように感じました。
「へ~、そうなんですか、私はまだ1件、1件運ぶのがやっとですよ、複数案件とか受諾できないです。」と回答すると、
「そのうち、慣れてくるよ、出前館の仕組みはUberほど洗練されてはいないけど、客先のおおまかな住所がわかったり※、工夫次第でもっとたくさん配達できるようになりますよ」と今後の励みなる言葉をかけてもらいました。この時まだ私はその内容全てを理解することができませんでしたが、今まさに目の前にいる熟練配達者とおぼしき方の発言一つ一つには余裕と自信があったので、慣れることもそうですが、地域のことももっと覚えていこうと思いました。
※2021年当時、Uberは配達先となる客先の住所表示は、案件コール時には未対応でした。

そうこうしているうちに、赤シャツ・赤ヘルメットさんが配達する食べ物が出てきました。ダブルピックのうち、1件目はおそらく私よりも早いタイミングでゴングを鳴らしていたのでしょう。そして2件目は1件目の食べ物に似た料理であり、かつ私が配達する食べ物よりも短い時間でつくれるものだったと思います。

受け取った2件分の食べ物をバッグへ丁寧にしまい、いざ自転車に乗ろうとした熟練配達員の先輩に私は質問しました。
「あの~1つ質問して良いですか?」
「ん?なんだい」とこれから向かおうと際の質問に嫌な表情せず、こちらに顔を向けてくれました。私の昼間の職場にはタイミングを見計らって質問しても、パソコンに顔を向けたまま面倒くさそうに返事をする先輩もいるなか、こうしたわずかなことでも私の感情は嬉しく反応しました。
「初日と2日目に、お客さんから受け取った現金精算はどのように処理したら良いですか?」と聞くと、驚いた表情で、
「えっ、それはまずいよ~、お客さんから受け取った現金はその日のうちに拠点まで行ってしっかり納める必要あるんだよ」と目を大きくして、早口でいいました。私の行為がかなりまずい分類に入るものだとすぐわかりました。
「え~、そーなんですか、拠点って、あそこ遠いじゃないですか、だから週末にいこうと思ってまして」と呑気なことを言っていた私に対して、
「すぐ行ったほうが良いよ、基本は当日清算だから、初日の現金もため込んで、連絡なかったのかい?ペナルティがついて稼働できなくなるよ、そんな配達員さんはそうそういないよ。」と諭され、私はコトの深刻さを痛感しました。おそらく事前に説明があったはずですが、私は聞いていなかったのでしょう。
「今日にでもすぐ行ったほうが良いよ、じゃ行くよ」と配達員さんは自転車のスタンドを蹴り上げ、自転車に跨りました。
「ありがとうございます、今日すぐに行くようにします」と言った私を跡目に、自転車はぐんぐん進んでいきましたが、私に振っていたその左手は、
「拠点いくんだぞ~」と語りかけているようでもありました。

私に拠点へしっかり清算いくことを諭してくれたこの日お話しした赤シャツ・赤ヘルメットの配達員さん、三田村さんという方でした。ただ、実のところ私がこの配達員さんのお名前を知るのはもう少し後になります。

会話した親切な配達員さん、何かの映画で出演していた俳優さんに似ていたような気がしました、いつ見た映画、どの映画だったのか、記憶があるようで思い出せずじまいでした。その記憶にヒットするのはしばらくして拠点でお会いしたときでした。

決済種別の整理

この日は2件ほどの配達で、お客様からの現金案件はなかったのですが、私は稼働初日と2日目にお客様から頂いた現金を拠点へ支払いに向かうことにしました。フードデリバリーを注文した時の決済方法は大別すると、2種類ありまして、クレジットカードや電子マネーによる事前決済か、配達員にその場で代金を渡す現金決済があります。私はUber開始時から現金決済もやるようにしていました。配達員目線では現金案件を受ける・受けないは選択できるものであり、私は1件でも多く配達したかったので、現金案件を受ける条件で申し込んでいました。もちろん、現金案件は紙幣、硬貨をあらかじめ準備しておく必要があり、客先での現金確認などもあり、雨天時などではお金の取り扱いも大変なものでした。頂く紙幣や硬貨はしっかり数えなければいけませんし、それはお釣りにおいても同様でした。

Uberと出前館との現金案件の違い

Uberの仕組みは先進的で、現金案件の時はその日に配達した案件の配達料から相殺する仕組みになっており、事前決済されたお客様への配達報酬よりも多く現金をお客様から受け取っていた場合は、その差額を配達員が登録するクレジットカードで清算するという仕組みになっていました。よってUberは拠点に現金を納めにいく、というものではありませんでした。一方、出前館は配達員への手当との相殺やクレジットカード払いの仕組みには対応しておらず、都度その日に受け取った全ての現金案件の合計額を拠点へ納める必要がありました。

出前館は地域毎にバイト配達員を抱えており、拠点性というやり方だったため、各拠点を確保する必要があり、一方でUberは配達員は全て委託配達員ということと、決済の仕組みも先進的なものであるため、拠点そのものが不要だったわけです。

どちらが合理的かはすぐわかりますが、流石タクシー業界にて世界中で先駆けて、「自社で持たざる」サービスを立ち上げた会社、米国のIT企業はその合理性が際立っていたのに対して、出前館とのオペレーション力やそれを実現する技術などには様々なところで違いはある中で、この現金対応という部分でも2021年当時の段階では、大きな差があると感じました。


拠点での初清算

三田村さんと初めてあった日、私が出前館の配達員として稼働して3日目、その日は現金案件はありませんでしたが、三田村さんのアドバイスを重く受け止めた私は拠点までいきました。拠点までは遠かったのですが、2件目の配達のドロップ先を拠点方面だったこともあり、ドロップを終えて拠点までいきました。拠点は、私の自宅から5キロほど離れていたこともあり、当初は遠く感じましたが、配達先を調整すれば、そこまで遠くはないかと思いました。拠点への訪問は、出前館配達員としての拠点の説明、配達員の帽子を受領して以来です。

その日は出前館の注文受付の修了時間までまだ時間があったこともあり、拠点での人はまばらで、バイト配達員の方々が拠点へ帰ってきはじめた時間帯でした。私はお叱りを受けることを覚悟してとにかく申し訳なさそうに、
「あの~、今週の配達で受け取った現金、納めるのを失念していまして、申し訳ありませんでした。」とマスクをしながらでしたが、ただただ申し訳ない表情でお伝えしたところ、
「あーー、木野さん、いやまさに電話しようとしたんですよ、原則として当日清算なんですよ、お願いしますよ、忘れたでは済まないですよ。」、やれやれといった表情でしたが、
「ただ、まだ稼動されて間もないし、こちらの伝え方にも不備があったのかもしれないです、今回はいいですよ、次からは絶対に気を付けてくださいね。」と言われ、ホッとしました。

初日、2日目の現金を拠点に納め、私は家路へつきました。

Uberをやっていた際は、拠点の方々と会話することなどなかったし、配達員の方々と会話を交わすことなどほとんどなかったのですが、限定エリアでの稼動と、現金案件があった際は、必ず拠点まで清算にいく、といった異なる要素はあったものの、何かあったら拠点で聞けば良い、という安心感もあり、今後は出前館一本でやっていこうと思いました。

副業リーマン:フードデリバリー奮闘記③~拠点での交流~へと続く

第二部を最後までお読みいただき、ありがとうございました。第三部についても、もし時間許せばお読みいただければ嬉しいです。




励みになるサポートいただければ嬉しいです。でもお金もったいないので、 いいね!やシェアのほうが実は嬉しいです! まだサポートもらうレベルではないんですよ。(笑)