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◇2 日本の森は伐られないために破壊が進む、その本当のわけは?


2022年12月10日

20年前に奥武蔵の森の木を使って家づくりをしたいと考えて始めた木の家だいすきの会。100棟の家づくりのお手伝いを振り返って、感じたこと、乗り越えてきたこと、やろうとしてやりきれなかったことなど奮闘の記録です。

目次
木を伐ることは、森林破壊ではないの?
森林破壊と文明崩壊
伐られないから破壊が進む森
住まいに木を使うことで森を守る



木を伐ることは、森林破壊ではないの?

 木の家だいすきの会の活動を始めた20年前と今では環境問題に関する意識が変わりました。当時、専門家は別として現在ほどに世の中にSDGsの意識はありませんでした。活動を始めた当時、何から手をつければよいのか考える中で、まず手掛けなければならないことは、「近くの森の木で家をつくる」ことを消費者の方に身近に感じてもらうことだと見定めました。このためには、まずは森に足を運んでもらうことから始めよう、ということで、伐採見学会をどうしても開きたいと思いました。
 しかし、「木を伐ることは森林破壊ではないの?」と受け取られる懸念がありました。そこで、セミナーで「日本では木の伐採は森林破壊になりますか、それともそうではないですか?」という質問をしてみることにしました。現在では質問する意味もほぼなくなりましたが、当時は「森林破壊になる」と回答した方の割合が3割程度もあり、さらに、日本で「木を使うことが森林保全に役立つ」という理由を正確に回答できる人はごく少数でした。

 こんな状況だからこそ、伐採見学会を実施すべきと確信し、翌年の2002年10月に埼玉県飯能市で記念すべき第1回の伐採見学会の開催に漕ぎつけました。これ以降、伐採見学会は、紆余曲折をしながら現在まで続く大切なイベントとなり、森に携わる人たちの森への思いを伝える貴重な機会になっています。

Mさんの森の木を伐る(埼玉県ときがわ町)



森林破壊と文明破壊

 2018 年1 月から3 月にかけて、NHK が進化生物学者のジャレド・ダイアモンド博士の「ヒトの秘密」全12 回を放送しました。ヒトと動物の違いと共通点に注目し、言語やアートの本質、夫婦の不思議、格差、環境破壊や、戦争と大量虐殺など人間が抱えている問題を解き明かすという内容でした。そのダイアモンド博士は、自然破壊・環境破壊による人口激減や文明崩壊をジェノサイドにならって「エコサイド」と呼んでいます。

 1995 年に世界遺産に登録されたイースター島は、今では草原に巨石が点々と立つ景観で観光客を誘っていますが、かっては森林に覆われた島であったことを誰が想像できるでしょうか。200 年前の1774 年にイギリスの探検家のジェームズ・クック船長が島に上陸した際には、「島中が骸骨で覆われていた」と語っています。ジャレド・ダイアモンド博士によれば、18 世紀前後に『人口爆発』が起こり、モアイ像作製と焼き畑農法のために森林破壊が進み、深刻な食糧不足を引き起こしたため、部族間の武力戦争が勃発したそうです。イースター島のように、かっては文明が栄えた地で森林破壊が進み、人が住まいなくなってしまった土地は全世界の各地に見られます

イースター島:かっては豊かな森林だった
1774 年にクック船長が上陸したとき、「島じゅうが骸骨で覆われていた」

 日本列島の場合、歴史的にははげ山であった時のほうが長く、極言すれば森林国になったのは戦後の植林の努力の結果です。今後も森林国であり続けるためには、ジャレド・ダイアモンド博士の警鐘を肝に銘じて、森林国になった今、これからどう取り組むか真剣に考えなければならないと思います。
 


日本の森の木は、伐られないことで破壊が進む

 日本の国土の約3 分の2 は森林で、先進国の中ではフィンランドに次いで第2 位の世界に冠たる森林国です。しかし、その森林が現在危機に瀕しています。熱帯雨林が伐採によって破壊が進んでいるのに対し、日本の森林は伐られないことによって破壊が進んでいるのです。この逆説的な状況も、最近では理解されるようになってきましたが、日本の森の多くが人の手が入って初めて保全される人工林であることに理由があります。森の木が使われず、仕事が無ければ土地を離れざるをえません。戦後林業従事者は激減してしまったのです。

 第2次世界大戦によってはげ山になった日本は、戦後、国民運動として植林に励んだ結果、国土の3分の2が森林となりました。現在、植林後50年以上が経って使えるようになったにもかかわらず、毎年の森林蓄積量(成長分)さえ使われていません。森は若返ることができずに高齢化し災害に弱い、人間でいえば成人病にかかったような不健康な森になっています。

戦前、日本の多く里山ははげ山だった、
戦後、国民的運動として植林に励んだ

 都市住民はこの森の破壊を他人ごとのように感じていますが、森と切り離された都市はやがて危うくなる、のではないでしょうか。今はまさにその時であるというのが私の危機感です。

森林飽和=もはや植林する空間がない、日本では、森の木は伐られないことで破壊が進む



住まいに木を使うことで森を護る

 木の家だいすきの会は2002 年3 月29日に特定非営利活動法人として設立し、20 年あまりが経過しました。この間、木の家づくりに取り組むなかで、その実現には思いのほか困難が伴うことがわかってきました。それはとりもなおさず、我々が身をおく工業化社会の持つ矛盾、森と切り離された都市文明の一断面を実感させるものでした。

 こうした状況から脱却するため、木の家だいすきの会は「森の循環」と「住まいの循環」の2つの輪をうまく回して、「植える→育てる→収穫する→使う」という森林の循環利用を推進することを目指しています。そして、その際肝に銘じておくべきことは、「50年かけて育てた木は、50年大事に使うことができる住まいをつくる」ことだと考えています。

50年かけて育てた木は、50年大事に使うことができる住まいをつくる


鈴木進 木の家だいすきの会代表理事
木の家だいすきの会は2000年に活動を開始したNPO法人。ニーズに合わせて専門的な設計士や工務店をマッチングし、木をはじめとする自然素材を活かした家づくりをコーディネートする。家づくりだけでなく、森林保全や林業に関するセミナーなどを行い、森の大切さを発信し続けている。
https://www.kinoie.org/


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