茸内木ノ子

zine制作者 おとめばなし他執筆中

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最近の記事

おとめばなし第五話 泣いた青鬼

青鬼がそのバーの木製の扉を開けると、カウベルが鳴った。 「いらっしゃい」 客と談笑していた店主が、そのままの笑顔を入り口に向けた。 カウンター席の入り口側には中年の男と若い女が座り、奥の端には大人の女性が座っている。 青鬼はちょうど真ん中の席に腰を下ろした。ウィスキーのロックを注文する。 ナッツを乗せた小皿を差し出した店主が自分の顔の目じりの下あたりを指さしながら言う。 「どうしたの、その顔」 青鬼は自分の顔に触れた。そこはまだ熱を帯びていて、軽く触れるだけでも痛かった。 「

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    • おとめばなし第四話 竹取の翁物語

      昔々のことです。さぬきの村と呼ばれるところに、竹取の少年がおりました。野山に入って竹を取りに行き、それを細工していろいろなことに役立てていました。 ある日のこと。いつもと同じように野山に入りますと、年のころが同じくらいのむすめが倒れているのを見つけました。むすめのからだは微かに青白く発光しているようでした。 少年は慌ててむすめを抱え家に帰りました。意識を取り戻したむすめに聞くと身寄りがないとのこと。少年の老いた両親はむすめを迎え入れ、わが子のようにかわいがって育てました。

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      • おとめばなし第三話 はだかの女王さま

        むかしむかしのお話です。 あるところに何不自由なく暮らしている女王さまがいました。 ある日のことです。お城から遠く離れた異国から、女王さまのためにドレスをつくらせてほしいと仕立て屋がやってきました。 「いまからお見せします生地は、この世に二つとない世にも珍しいものでございます」

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        • おとめばなし第二話 赤い靴

          『今月のゲストは世界的に活躍されているダンサーである、 カレンさんにお越しいただきました。波乱に満ちた半生についてお話を伺います。カレンさん、よろしくお願いします』   私の生まれた家は貧しかったので、子どもの頃は靴も買えずに裸足で過ごしていました。足にはいつもあかぎれができていて。 …今にして思えば私の足は、その頃から赤かったのですね。   あるとき優しい靴屋のおかみさんが、赤い端切れで靴を作ってくれたんです。 それがすべての始まりだったのかもしれません。 母は、その靴をは

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          おとめばなし第一話 人間姫

          第一章『人間姫』   「お父さま」 「なんだい人間姫」 「ふふふ、またそんな呼び方をして。わたしを子ども扱いしてらっしゃるのね」 「そんなことはないさ。 お前はわたしにとってたった一人の大切な娘であり、それはつまりお姫さまだってことなんだからね」 「そんなことをおっしゃったらあちらもこちらもお嬢さんはみんな人間姫ってことになるじゃない」 「そうだよ。人はみんな生まれながらにお姫さまなんだよ」 「お父さまはロマンチストだわ。あのね、わたし、父さまにお聞きしたいことがあるの」 「

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          なっとくの味

          先日、仕事帰りにコンビニに立ち寄った。一日頑張った自分へのご褒美として、何か気分の上がりそうなものを買うためだった。店内をぐるりとして手に取ったのは納豆巻き。ひきわりの納豆が細巻きにされ、九等分になってキレイに並べられているタイプのやつ。私にとってのパワーフードはなんと納豆だったのかと拍子抜けしたような気持になった。 実家に帰るたびに母が作る納豆料理がある。料理名は知らない。「私の好きなやつ」で通じてしまうからだ。調理法は、まず四角いはんぺんを斜めに切り三角形にする。ピタサン

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