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絵のお話

僕は絵が下手だ。

といっても絵を含むほとんどの才能は生まれ持ったセンスだけでなく血の滲むような努力の末に磨かれるものだと思うので、たまに1枚描いてすぐに諦めてしまう僕が上手くなれるわけないのである。

一口に絵が下手といってもその程度は人によって全然異なる。

僕は下手な人の横に並べても頭一つ抜けて下手なのだ。

例えば、小学生の時に授業中ポケモンのイラストを落書き帳に描いて順番に回していくのが流行った。前の子から回ってきた落書き帳にはボーマンダが描かれていた。とてもクオリティが高くてテンションが上がった僕は、対抗してバンギラスを描いた。

完璧だと思った。このバンギラスはもはや生きている!さぁ僕のバンギラスを見るがいい!

自信を動きで表現するかのようにゆったりと後ろの女子に手渡した。

するとわずか1秒ほどで悲鳴が上がった。

「これなに!?キモすぎるんやけど!」

少しキレ気味に迫られ戸惑う。すぐに周りの男子たちが女子、もとい落書き帳に群がり爆笑していた。授業中であったため先生が注意してその場は収まったが、この一件以降僕はずっと「絵が下手なやつ」のレッテルを貼られることになった。

描き終わった時はほんとに生きていると感じたバンギラスが、見返すと苦痛の末に死んだような顔に見えた。


しかしそんな僕にも一度だけ、美術コンクールで一番いい賞を授かるという快挙を成し遂げたことがある。前置きが長くなったが、ここからが本題である。

そのコンクールに出す作品のテーマはブドウ狩りで、遠足中に思い思いの絵を描くというものだった。

友達たちはみんなブドウを食べているところや、もいでいるところを描いていた。だがバンギラス事件以降自分の画力を知った僕はみんなと同じ土俵で戦うとまた恥をかいてしまうと理解していた。なにかないか。なにか。

その時、事件は起こった。

そのブドウ農園のトイレはシティボーイである僕たちには縁のないぼっとん便所だった。

トイレに向かうとどこからともなく声が聞こえた。

声はトイレに近づけば近づくほど大きくなるのである。

おそるおそる扉を開けた。なんとそこには、同じクラスのMくんがう〇こまみれになってはまっていたのである。

僕は爆笑した。

Mくんが泣きながら助けを求めているのを見てようやく事の重大さを理解した。急いで先生を呼び、Mくんの元に戻った。そのころには結構ギャラリーがいて見世物のようになっていた。

先生にはもう大丈夫だから戻りなさいと言われたが、僕はこの時すでに決めていた。これを描こうと。

決死の救出劇が目の前で行われている中、一心不乱で絵を描いた。

描き終えると、思わず「伝説だ、、、」と口から洩れた。


提出するときに他の生徒の作品を眺め、再び自分の作品に視線を落とすとその異様さは際立っていた。

鮮やかな紫の作品群の中にひとつだけ茶色と黄土色で構成されたゲテモノ。さながら異物混入である。

しかしなんとその作品が入選してしまったのである。

審査員もまさかう〇こに人がはまっている絵を描くとは思っていなかっただろうし、僕の絵が下手過ぎてなにを描いているのか分からなかったなど、色んな要因があったと考えられるが、とにかく入選してしまったのである、

「独特な色使いが素晴らしいと思いました!」

なにも知らない1つ上の学年の先生から褒められた。きっと審査員もこの色使いに衝撃を受けたというのが僕の予想本命である。

その後三か月間、Mくんの視線は常に僕にあったが、気づいていないふりをして乗り切った。

この話をするにあたって、久しぶりに絵を描いてみたがまるで成長していなかった。

僕は絵が下手だ。





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