mimicが話題になった時期に法学部で知財法履修したらその半分以上がAI知財関連だったオタクがやすゆきさんの訴訟関係を見て思ったこと
最初に
Q.どっち派閥なの?
A.法律が正しいよって言った方。判例がないなら主要学説が正しいとしている方。
Q.知的財産基本法どの程度理解してるつもりなの?
A.レポートで100点満点中95点以上の評価はされたから特にAI部分についてその段階の議論においてはその程度には理解しているつもり。
Q.やすゆきさんに当該案件の著作権あると思う?
A.過去のポストからするとないんじゃないかなとは思うけど、とりあえず本記事では本人が有利に動ける著作権があるという仮定で進めます。
そのためどっち側の人にとっても不愉快になりうる要素が含まれているのでそれが嫌だったら読まないほうが良いです。
1.CFのページを読んで思ったこと
「一体この人は裁判をして何を争いたいんだろう?」でした。
裁判をする際に必要な情報が殆ど書かれていません。
争点が読み取れないのです。「AI(あるいはそのユーザー)に権利を侵害されました!」というのは争点ではなく、ただの動機です。
争点というのは「AI(あるいはそのユーザー)にこの作品において◯◯(具体的な被害内容、自称・コラージュ等)をされたので、これは私のもつこの権利と利益を侵害しているため、□□(損害賠償? 差止? 現状回復? 謝罪?)を要求します」という部分です。
この文章には、「されたことが本当か否か」「権利と利益は侵害されたか、その場合金額にしてどの程度か」「請求は通るのか、あるいは一部通るのか、棄却されるのか」ということが争点として含まれています。
これがわからなければ裁判がどうこう以前の問題です。
裁判というのは裁判官の前でレスバをして言い負かした方の勝ちというルールではないですから、これらの情報を事前に公表しても勝敗には何も影響ありません。
AI知財法関連の判例は非常に欲しかったですが、裁判の全容が一切見えないため、私は現状支援できないでいます。するとしたらスパチャをする気持ちでしましょう。
次点で思ったことは、「裁判費用流石に浪費しすぎじゃないか」ということです。
それが読み取れるポストが以下です。
今回のやすゆきさんの動きで「AI相手の訴訟だとお金がかかる! 現行法で対処可能なんて嘘だ!」といった意見がありますが、これは誤解が含まれます。
弁護士から勝ち筋が指摘されているにも関わらず、意図的にその勝ち筋を捨てて別の方向から戦おうとしているからです。
そんなことをしていればそれは当然いくらだってお金がかかります。
もちろん役に立たないヤバ弁護士がいることも事実ですが、勝ち筋が提示されたにも関わらずそれを却下して浪費することを「費用がかかる」とはいいません。
また、このポストについて浮かぶ疑問と回答は後述します。
以上、大きく2点がCFページを読んで思ったことでした。
2.どうしてやすゆきさんは過去の判例に沿った勝ち筋を蹴ったのか
これを書きたくてこの記事を書きました。
もう一度ポストを引用します。
裁判で勝訴しているのに後々著作者に悪影響が出るとは一体どういった状況が考えられるでしょうか。
一般に、権利保護がされるということですから、悪用しようとしない限り不利になるなんてことは生じません。
では何が問題となるか。
それは「二次創作の存在」が大きく関わるためであると考えられます。
わかっている人間からすると小泉構文になってしまいますが、「AIによる著作権侵害は現行法で対処可能だろう」ということは、「現行法とその判例で著作権侵害を問うことができるだろう」ということです。
やすゆきさんは当該案件の一次創作者である以上に本人も二次創作で利益を得ている面もありますし、著作者全体への権利に影響を与える判例を残したいとされていることからも、間違っても「二次創作と同じように類似性・依拠性が認められれば権利の侵害です」という判決を得てはいけないのです。
あくまで「手書きとAIによる出力は違う」という主張をしなければならないために、意図して勝ち筋を減らしているのが現状です。
では、どうして手描きとAIによる出力は同じであると考えられているのでしょうか。
これは法律で広く言える考え方がありますが、前提条件から説明します。
まず、現状の学説において、「AIは道具」とされています。これは「絵を描く道具」といった派閥的な意味ではなく、「人権を持たず、人間によって左右するもの」という意味です。
なぜそう解釈されているかは、「サルの自撮り事件」をはじめ様々な判例を学ぶことになりますが、それだけで非常に長くなるため各自調べてみると面白いかもしれません。
次に、法律の多くは事件における争点は「結果」で判断され、手段はあまり区別されないことが多いです。
わかりやすい例を挙げましょう。
AさんはBさんを殺害しました。
殺人罪で刑事告訴されました。
この時、AさんがBさんを殺した手段が毒殺だろうが撲殺だろうが刺殺だろうが轢殺だろうが、「殺人罪」というくくりで争います。
もちろん、手段そのものが不法行為である場合、それはそれとして別の案件として争うことになります。
上記の例であれば、毒殺に用いた毒物が盗品であれば別途窃盗罪で争いますし、刺殺に用いた道具が銃刀法の規定を超えた刀であれば銃刀法で争います。
盗品の毒物を使って殺人したから殺人罪なのではないですし、銃刀法に違反した刃物を使って殺人したから殺人罪なのではありません。
AさんがBさんを殺したから殺人罪なのです。
つまり、手段の合法性という争点は本筋とは別の案件として同時進行するだけであって、その訴訟自体の結果を左右することが殆どありません。
それが「AIは道具である」という考え方にどう繋がってくるのか、改めて例を見ます。
まずAさんの描いた魔法少女の画像があります。
これに対して、Bさんが紙とペンを使って以下のような画像を公開しました。
これは当然ですが、BさんがAさんのイラストを盗作したと言えます。
構図や画風どころでなく下手なトレスを超えた丸パクリです。
訴訟が起き、類似性と依拠性が認められればしっかりと著作権を侵害した行為であり、Bさんは負けます。
次にCさんがAIで出力した以下の画像を公開しました。
これまた当然ですが、CさんがAさんのイラストを盗作したと言えます。
構図や画風どころでなく下手なトレスを超えた丸パクリです。
訴訟が起き、類似性と依拠性が認められればしっかりと著作権を侵害した行為であり、Cさんは負けます。
AさんがBさんやCさんに対して起こす訴訟というのは、「類似性があり依拠性も認められる当該画像を公開したことで魔法少女の画像の著作権を侵害された」ということが争点であり、「ペンと紙」「AI」はいずれもただの道具である、という考え方です。これは用いた道具が「スキャナー」だろうと「タブレット」だろうと「Excel」だろうと変わることはありません。
この考え方から「AIによる著作権侵害は現行法で対処可能」という学説が有力になっているといえます。
そのため、「AIでは著作権侵害であり、手描きでは著作権侵害ではない」というゴールを目指したいやすゆきさんは「現行法で対処可能」の根底を否定し、必死に弁護士ガチャをすることになっているのです。
問題点として、この学説はかなり主流であり、AI知財を勉強した人間ほど当然に受け入れている可能性が高い考え方であることで、ここに知的財産基本法を理解しているわけでなくモラルでもって自治してきたクリエイターと法律家の間での対立が発生し、「クリエイター視点でAIに詳しい弁護士がいない」という状況に陥ります。
3.まとめ
CFの内容はふわっとしすぎていてもう情報出してもろて、以外に言及することは無いので上記に書いたとおりです。
二次創作という立場の難しい存在が本件を余計に難しくさせているなということが印象に残りました。
私自身、著作者に対してごめんなさいの気持ちをもって謙虚に動くように意識はすれど、動画も作ればボドゲも作り、果にはコスプレまでしてる二次創作オタクですから、他人事ではありません。
知財の裁判については、判例を見ても弁護士以上に裁判官によっての判断差も大きく生じます。「これが類似性認められてこれが類似性認められてないの意味わからん」とか「独創性がなくても著作権は認められるっていう割に、いざ裁判で権利を争うと急に『それって誰でも思いつくじゃん』って理由で棄却する」とか。
弁護士探し以外にも多くの障害があるとは思いますが、『知的財産法によって定められた著作権』でなく、『インターネットにおける慣習法としての著作権』はどこまで戦えるのか、という観点でも注目はできる紛争かなと思っています。
以上、長ったらしい記事でしたが、読んでくださった方はありがとうございました。
余談1 『享受目的』の難しさについて
AI学習において、例外として設定されているもののひとつに『享受目的の学習』が挙げられます。
ですがこれは、実際に権利侵害の根拠にすることが非常に難しいものであると言えます。
なぜならば、実際に享受するにはあくまで出力・公表する必要があるからです。そして、出力・公表していないものは、享受目的で学習した場合と享受目的でなく学習した場合とで客観的に区別することができません。
例えるなら、おにぎりです。
食べようと思って作ったけど食べなかったおにぎりと、食べようとは思わずに作っておいたおにぎりはどちらも「食べられなかったおにぎり」でしかなく、動機というのはその本人の中にあるだけだからです。
その動機が根拠になってしまうと何が起こるかというと、もし意図して公表しても、SNSなどで「画像欲しくて作って公開しましたw」のように自白していない限り、「流出だった」「享受目的ではなかった」と言いくるめられてしまうと反論が難しいということが発生します。
その点で、『享受目的』というのは法律上制限されていても、実際の紛争においてはアホ相手にしか通用しない点で使い勝手が非常に悪いのではないかと考えています。
余談2 どうしてAIだけを罰する法律が作られないのか
AIも二次創作も一緒に滅ぶのがだめだからAIだけを罰する法律があればいい。そう思う方は少なからずいらっしゃると思います。
しかし「AIだけ」として限定する法律が作られないのは、「AIだけしか罰せない法律になる」からです。法律というのは柔軟性が重要です。柔軟性がない場合、本当に書かれた通りのことしか処理できないため、ちょっと手法を変えるだけで罪に問うことができなくなります。
ブラックリスト式で処理をしていた違法薬物に対して、ちょっと構成が違うけど同じ効果を生じさせる脱法ハーブが大量に出回って追いつかなくなった例などは覚えがある方がいると思います。
法律においてブラックリスト式にすることは対応の遅れを助長する点で、包括的な法律を用意して、様々なケースに当てはめる方が適切でしょう。(勿論、それで対応できない場合は個々別のケース用に特別法を制定するわけですが)
余談3 民事訴訟と刑事訴訟の違い
X上などでは勘違いされている方が散見されますが、やすゆきさんの訴訟は民事訴訟ですから、被告人が敗訴しても犯罪者にはなりません。
民事訴訟と刑事訴訟の区別をしっかりとつけると、見えている裁判の世界の色が一色増えると思います。
余談4 シンプルに好きな言論
これまたX上で見つけてかなり気に入った投稿がありました。
晒し上げのようになってしまうので直接の引用は控えますが、「この裁判でやすゆきさんが勝てばAIは著作権侵害だし、負けたら法律が間違っているからどっちに転んでも良い」というものです。
あまりにも法律の世界版無敵の人って感じでかなり面白かったです。
自分はそうはなれないですが、見るぶんにはお気に入りでした。
余談5 やすゆきさんのガイドラインについて
触れようと思っていたのにすっかり忘れていました。
ご指摘くださった方、ありがとうございます。
こちらは民法の領分になってしまいますが、ガイドラインを根拠とした請求をするということは、一般的に契約による債務不履行を争うこととなるため、ただHP上で一方的にガイドラインページを設けて通告している場合は「双方の同意があった」と見なされずに不成立になるのではないか、という問題点があります。
なぜそんなことになるかというと、やすゆきさんのイラストは別にHPを閲覧せずにGoogle画像検索などそのガイドラインを見なくても表示される場所にあるというインターネット上の仕組みの影響があるからです。
そのため、インターネット上で規約を守らせたい場合「同意をしないとそもそも閲覧できない作り」にしているかというのはひとつの争点となります。
やすゆきさんのHPはXのプロフィールにあるリンクではガイドライン部分にスクロールされるもの(ページ番号付き)となっていますが、検索エンジンで検索して閲覧する場合そうはなっていませんし、同意をしなければほかを閲覧できないようにもなっていません。
同意しないと閲覧できないようにしないガイドラインが有効だった場合、私が今ここで「ではここまでお読みくださりありがとうございました、読んだ文字1文字につき1万円お支払いください。そういうガイドラインです」などと言い出してもそれが有効になってしまいます。
現実世界に置き換えるなら、人通りが多い地域にあるガラス張りの会場で展覧会をやって、会場外の人に「お前ら見物料支払え、見ただろ?」は通用しないというわけです。
一方的な意思表示の押しつけは契約の成立にはなりません。
「以下のルールを守ってください。その債務(やらなきゃいけないこと及びやらないことをやらなきゃいけないこと)を果たすのなら、あなたには私の絵を閲覧する債権(それをする権利)を与えます」
「はい、わかりました」
というやり取りが言葉遣いや手段の形式は問いませんが、あったと証明できなければ難しいでしょう。
ソーシャルゲームやWebサービスなどを初めて利用する時、利用規約を開いて「同意」にチェックしないと利用することができない作りになっているというのが我々オタクとしては身近な例でしょうか。
利用規約の改定があったときも最低限目に付く形で告知されますし、同意するように求められる場合もあります。
このようにインターネット上のデータと通信のやり取りのみでの契約関係というのは意外としっかりケアされています。
やすゆきさんHPが、どのページに行ってもガイドラインのみのページに飛ばされて、同意ボタンを押して初めて閲覧できる。そして画像検索エンジン上で閲覧できない(=本件の場合は機械学習できない)といった形であれば、認められ得るのではないかな、と思います。
現在、イラストを取り巻く公開環境では、有料会員サイトにおけるサブスクライブ限定公開など、検索エンジン等では画像そのものを閲覧できず、サブスクライブという行為によって同意したことを明確にできる手段が存在していますから、そういった手段をとってやっと「双方の同意」が認められるのではないかと考えています。
「有料会員サイトのものを無断転載されて検索エンジンで閲覧できる場合はどうするんだ」という声は出ると思いますが、それは「無断転載されたことを著作権侵害で争う」という別の案件で対処することになります。
このあたりはインターネットが急速に発達したからこそ問題点となってきた部分で、まだまだ議論されうる部分だとは思いますが、個人的にはこのように噛み砕いて理解しています。
以降、余談が増えすぎて構成が汚くて恥ずかしくなったので追加の余談は別記事にしました。
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