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プロ雀士スーパースター列伝 石川遼(すずめクレイジー)編

【最速天鳳位】

 もしあなたが、仕事相手に電話をかけ、その人にとって悪くない条件の話を持ち掛けたとしよう。
 その返答を待つ間、相手がずっと無言だとして、何秒ぐらいまで耐えられるだろうか。
 大げさではなく、私は7秒間待ったことがある。そこでこらえきれず「あの、どうでしょうか?」と口を挟んでしまった。

 電話の相手は4代目天鳳位・すずめクレイジーこと石川遼だ。
 
 天鳳位はみなさん麻雀に対してストイックだ。
 天鳳位になるためには、何千試合とこなさなければならないのだから当然なのだが、その「ストイック集団」の中でもさらにストイックな、ストイックオブストイックが石川なのである。

 改めて説明する必要はないかもしれないが、天鳳位とは、インターネット麻雀サイト「天鳳」で「ある一定の条件」を満たした者に与えられる称号だ。
 ものすごくざっくりと言うと「天鳳」の頂点だ。チャンピオンである。
 それも短期間のトーナメントで勝ったチャンピオンではなく、何千という試合を行い、積み重ねていった実績が評価された王者である。
 しかも、天鳳のシステムは普通の麻雀と違って順位点がいびつになっている。
 階層によって違ったりもするのだが、たとえばこんな順位点がついていたりする。

トップ +50
2着 +20
3着 ±0
ラス ▲70

 このように、とにかくラスがキツい。トップは大きいけど、それよりもラスのリスクが大きすぎるので、まずはラスを避けるという「ラス回避ゲーム」の麻雀なのである。
 だから「天鳳」の上位に「偶然勝った」人はいない。
 ツキを背景にした勢い麻雀の人はいるかもしれないが、それはそれで「技術」だ。対戦相手に「何らかの力」を感じさせ、怖がらせて勝つというのも麻雀で勝つ手段のひとつだからである。
 それぞれが何らかの「武器」を持って「天鳳」という「高い山」の頂上を目指して戦うのだが、石川のそれは「我慢強さ」「誠実さ」だと私は思う。
 
 石川はこの「天鳳エベレスト」の頂上に最短距離で到達した。
 2022年7月5日現在22名の天鳳位が存在しているが、その到達の試合回数が2403回なのである。
 最も多く試合をこなして天鳳位に到達したのは10代目の「ウルトラ立直」で12763回である。
 
 これだけを見ると石川が効率よく勝つ天才みたいに思えるかもしれないが、実際は真逆だと私は思う。
 石川は非効率的でもなんでもいいので、とにかく着実にゆっくりと積み上げていくタイプだ。

 石川はサラリーマンだ。基本的には土日祝日など、仕事が休みの日にしか「ガチのプレー」をしてこなかった。
 プロ雀士がリーグ戦の前にそうするように気持ちや体調を整え「天鳳」に臨む。
 そうやって、せっかく整えて対局を始めてみて「あ、今日はダメ」と思ったらすぐにやめてしまう。
 1回だけで打つのをやめたことも、何回もあったという。
 頭の働きが悪いと感じたり、精神的に揺れたり。何かしら不安材料があれば、もう打たないのである。
 この我慢ができたからこそ、最短距離で登頂できた。

 もちろん、麻雀を打ちたい欲は残るから、違うアカウントで打ったり、三人麻雀を打ったりしてその欲は解消してきた。

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【仕事を断る誠実さ】

 石川がそこまで我慢できたのも、麻雀に対して誠実だったからだろう。

 冒頭に言った電話の相手は石川で、私が「三人麻雀の戦術書を出しませんか」という依頼をしたのであった。

 「天鳳位vs連盟プロ」という対抗戦のような対局番組があり、石川はそれに出ていた。
 やはり天鳳位たちは強かった。そして麻雀に対して真摯だったから、日本プロ麻雀連盟理事会は「天鳳位であれば無試験かつC1またはB2リーグからの出場を認める」という発表をした。
 
 天鳳位の中で唯一、石川がプロ連盟入りを表明した。

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 私は、せっかく入ってくれた石川に仕事を回したいと思った。
 書籍の依頼が「天鳳の三人麻雀の戦術論」だったので、天鳳位の石川にオファーした。

 電話で依頼したのだが、石川はずっと黙っている。
 5秒、6秒、7秒。もしかしたら電波が悪いのかもしれない。
 
 あの。

 「はい」
 
 電波は悪くなかった。

 で? どうでしょうか。

 「うん。あの。そうですね」

 それからまた何秒も黙る石川。

 「えっと」

 また数秒の沈黙。

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