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【無料記事】私が「最強戦」で配牌時の少牌を「やり直し」にした理由

【何が起きたのか】

 8月13日に行われた「麻雀最強戦・超頭脳バトル」予選B卓の東4局、北家の福本伸行さんの配牌が映し出されたところで「あれ?」ということになった。
 福本さんも異変に気付いていたが、配牌が12枚しかなかったのだ。
 何でそのようになったかというと、配牌時の最後の1枚を福本さんが取らなかったからだ。否、取らなかったのではなく、もしかしたら取る前に親が第1打を切ったのかもしれない。だとすると「取れなかった」ということになる。それは現場で見ていなければ分からないことだった。
 後から選手に聞いたのだが、親の瀬川瑛子さんが配牌の最後でチョン、チョンと2枚を取る時に、福本さんから「あれ? それで合ってますか?」という指摘があり、確認したところ結局は問題なかった、というやり取りがあったという。
 こうなると他の3人、親の瀬川さんも南家の森川ジョージさんも西家の香川愛生さんも油断する。
 本来、配牌を全員がちゃんと取ったかどうかは、選手4人でお互いに確認するべきことなのだが、指摘が入ったことで油断が生まれたのだ。まあ、大丈夫だろうと。そう安心しきって自分の手の理牌にいそしみ、他人の動向が目に入らなかったのだ。
 そして北家の福本さんも違う意味で油断してしまったのであった。福本さんが最後の1枚を取らずに理牌をしている間に、瀬川さんが第1打を切り、森川さん、香川さんとツモ・捨てが繰り返されて初めて「あ!」となったわけである。
 この状況、どう裁くべきか?
 私は控室前のたまり場から対局室へ走りながら考えた。

【やり直した理由】

 対局室に着く前に、私は「やり直し」だと決めていた。
 この裁定に対し、コメント欄に「おかしい」という声もあがったが、私も「競技としてはおかしい」と思う。
 まず、麻雀をガチガチの競技だと考えるなら、すでに始まってしまった局を「やり直し」にするのがおかしい。麻雀においては、唯一チョンボの時にやり直しがあるのだが、その場合はチョンボをした人にペナルティが課せられる。
 だからこの局は「現状のまま」つまり福本さんが少牌の状態のまま進めるか「誰かをチョンボにしてやり直す」かの2択しかない。そしてその2択のどちらが正当かを決めるのが難しい。
 実はこれ、私が所属する日本プロ麻雀連盟の競技部内でも議論が続いている。以前はこのケース、親にペナルティが課せられていた。つまり、全員が配牌を取り終わっていないのに第1打を捨てるのは、ある意味で先ヅモ・先切りをしているのと同じ、という理屈である。
 おそらく、これがもっとも「競技的」であろう。スジも通っている。
 が、実際にこのルールが適用されると、選手たちから不満の声が上がった。このトラブルが起きるのは、主に親と北家が集中力を欠いた時だ。なのに親だけにペナルティがつくのが不公平だというのである。
 そこで少しだけルールが変わった。「南家の第1ツモの前に気づけば、北家はその時点で配牌の最後の1牌を補充し、全員ノーペナルティで続行」となったのである。
 これでかなり「配牌いきなり少牌」というトラブルは減少した。北家が最後の1枚を取らなければ、南家が第1ツモをする際、下ヅモが2枚あるという不自然な状態になる。これに気づくことが多いから、だいたいは「セーフ」になるのである。
 もちろん、親の第1打に誰かが「ポン」とか「チー」と言ってしまったら話は別だ。アクションが起きたら北家に補充することはできないと判断されるかもしれない。
 また、今回の最強戦のように、南家や西家も気づかず、ゲームが進行してしまった場合も同じで、補充することはできない。
 そうなったら、結局は親がチョンボになる。
 これがプロ連盟のルールなのだが、果たしてそれをそのまま最強戦に適用するべきかどうか、難しい。
 そもそも、私はこのプロ連盟のルールを熟知していたわけではなく、最強戦でトラブルがあったから競技部に確認して知ったことだった。だから、対局場に走っている時には、自分なりに考えて結論を出した。
 これ、もし「競技だ!」というなら親の瀬川さんがチョンボでやり直しだよな。でも、それで納得感あるかな? 瀬川さんだけじゃなく、南家も西家も気づかなかったわけで。でも、複数をチョンボにするという裁定は麻雀ではあり得ない。
 じゃあ、そのままか? 福本さんが少牌のまま続行か? それはそれで、納得感があるかもしれないが、違うケースでもそれを適用することができるだろうか。今回は配牌の最後にちょっと確認作業があってゴタゴタした。だからケースは違うのだが、もし、めちゃくちゃ配牌取るのが早い人たちで、親も第1打が早く、南家も第1ツモを高速で行ったらどうか? 北家の人は素早さが足りないという理由で少牌にさせられるのだろうか?
 そんなことになる確率は低いが、悪用しようと思えばできるようなルールは作らない方が良い。
 そもそも、見ている人たちはどういう最強戦が見たいだろうか。選手同士の過失で、配牌からいきなり誰かがペナルティになっているが、でも「競技的」な麻雀だろうか? それとも、ある意味で「なあなあ」ではあるが「お互いごめんなさいで、やり直し」の麻雀だろうか?
 私は後者の方がスッキリすると判断して、配牌の開門場所間違いや、配牌取りすぎて間違えたケースや、配牌時に牌がこぼれてしまった時と同様に「やり直し」とした。これがもっとも「納得感がある」と考えたからだ。選手同士の納得感と視聴者の納得感だ。
 問題は「すでに西家の第1打まで終わっている」ことだったが、幸いにもチー、ポンなどのアクションはなかった。「競技的」には麻雀は始まってしまっていたが、私は「やり直しても選手は不満に思わないだろう」と判断して「全員で確認しながら行うものなので、今回はやり直しとさせてください」と対局者たちにお願いした。
 選手の皆さんは「そうしましょう」と従ってくださった。
 
(了)

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