プロ雀士スーパースター列伝 宮内こずえ編
【2021ファイナルの微笑み】
一瀬『最強位は一瀬以外だったらいいってコメント、傷ついたな。私は優勝を望まれていないんだ。でも、こんな素敵な舞台ですごい人と打たせてもらえて幸せ。なのに、夢のような時間はもうすぐ終わってしまう。4人の物語はもう終わり…悲しい…』
宮内『えっ、この子、試合中なのに泣いてる? なんで…? どうゆうこと?』
醍醐『俺が酷い麻雀を打ったから泣いちゃったのかな? だとしたらヤバい。どうしよう…』
瀬戸熊『倍満条件を成立させるには、裏ドラが必要…』
宮内『醍醐さんは気にしてるけど、瀬戸熊さんまったく気にしてない。何なのこの人…』
瀬戸熊『このリーチ、ツモれば裏ドラがのる。絶対のる! のってないならツモれない!』
2021麻雀最強戦ファイナルの決勝オーラスの、4人のモノローグをデフォルメするとこんな感じだった。
最後の親番で一瀬由梨が対局中に泣きだした。その理由は東川亮さんが書いたものを読んでいただければわかる。
彼女には彼女なりの理由があって、感情が抑えきれなくなっていたのだ。
前に麻生ゆりが最強戦の対局場を「魔窟」と表現していたが、たぶんあそこは本当に魔窟だ。赤木しげると鷲巣巌が見守る「魔」の「窟」なのである。
そんな「魔」の闘技場で戦っている最中に泣きだした女性プロがいて「自分の麻雀が酷かったせいで泣きだしたのかな」と思う醍醐大もおかしな人だ。そんなわけないのに、そう考えてしまう。
逆に、何も思わず、ひたすら「勝つためにどうするべきか」と麻雀に集中していた瀬戸熊直樹も、ある意味で異常だ。完全に「ゾーン」に入っている。
宮内こずえも瀬戸熊と同じ「ゾーン」に入っていたが、一瀬の涙で現実世界に引き戻された。
そして、シラフの状態で瀬戸熊の力強い「ツモ!」の声を聞き、運命の裏ドラ表示牌を見せつけられた。
宮内は何かを悟ったような表情で笑みをたたえ、瀬戸熊のアガリを静かに祝福していた。
【Mリーグドラフト会議の無表情】
2018年に発足したMリーグの第1回ドラフト会議で黒沢咲が「TEAM RAIDEN/雷電」から3巡目に指名された時、横にいた宮内は無表情のまま真っすぐ前を向いていた。黒沢が立ち上がり、周囲の人たちが拍手をしている時も、宮内はじっと動かなかった。
友人の黒沢が指名されたことで、悔しさのあまりそういうリアクションになってしまったのだろうか。
「ちょっとそういうのやめてくださいよ(笑)。私はそんなすぐ人に嫉妬しませんし、咲ちゃんにはあの後ちゃんと『おめでとう』って言ってます。悪意あるキリトリですよ(笑)」
宮内はそう言って否定した。
ただ、黒沢が選ばれたことが悔しいのではなかったとしても、自身が指名されなかったことの悔しさはあったに違いない。
「それはもちろんです。正直、選ばれたら嬉しいなという気持ちで会場には行きました。でも、3巡目に入って、私も咲ちゃんも選ばれることはないだろうなと思って見ていたら、急に咲ちゃんが選ばれたから頭が真っ白になったんです。ええっ! って。それなら私もどこかに指名されるかも? いやでも、もうそういうチームがないかなとか、変なこと考えてちょっとパニックになってああなったんです(笑)。本当、変な風に広めるの絶対にやめてくださいよ」
宮内は2016年に「女流桜花」になった。所属する日本プロ麻雀連盟の女流リーグの優勝者だから、連盟女性プロのトップということになる。
同じ年に「プロクイーン」も獲得した。こちらは他団体の選手も参加する女性プロのトーナメントであり、その年の女性プロの頂点に立ったことになる。
「女流桜花」と「プロクイーン」の2冠を同時に戴いたのは宮内が初めてだった。
しかし、2017年には両方のタイトルを失った。2018年のドラフト会議の際「タイトルを獲るのが1年遅ければ」という気持ちにはならなかったのだろうか。
「逆ですね。私がタイトルを獲る運命は変えられないと思います。私は2016年に強くて、2017年は弱かったから負けたんです。でも、藤田(晋)さんがもう1年早くMリーグ作ってくれてたらー! とは思いました(笑)。まあそれは冗談ですけど」
一方で黒沢は2017年にA2リーグに昇級し、翌年にはMリーガーになった。
もちろん、麻雀プロにとってMリーグがすべてではない。だが、世に出られている麻雀プロにとって、巨大な存在であることは間違いない。
絶対に宮内も悔しい思いをしているはずなのだが、そういった部分は微塵も見せない。黒沢との友情も変わらないし、麻雀への向き合い方も変わらない。
常にポジティブだというイメージを、私はずっと宮内に抱いてきた。
【幼少期に受けた虐待】
宮内は能天気で悩みのない人。そういう風にずっと見てきた。だが、ある時に聞いた「あまり母親とはうまくいっていないんです」という話がずっと引っ掛かっていた。
そのタイミングでタクシーが宮内の自宅に着いたので、続きを聞くことができないままになっていたのだ。
私と宮内はあまり話したことがない。だからそれっきりになっていたのだが、今回、原稿を書く上で取材させてもらった。
だが、聞いてしまってから、聞かなければ良かったと後悔した。
それぐらい酷い話が出てきたのだ。
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