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一瀬由梨、涙の理由

文・東川亮

「私は、優勝を望まれていないと思った」

麻雀最強戦ファイナル、2ndStage当日。筆者は新たに誕生する最強位を取材するため、会場に足を運んでいた。醍醐大の痛恨の放銃、宮内こずえが最強位に王手をかけた南3局・・・そして、奇跡的なフィナーレ。

瀬戸熊直樹の倍満ツモは、多くの人に興奮と感動をもたらした。司会の小山剛志、実況の日吉辰哉といった、本来感情を押し殺して進行を務めなければならない役割の人たちすら、涙でそれが滞ってしまうほどだった。おそらく、モニターの前で涙した人も、少なくはないだろう。

一方で、この戦いの一部始終を見ていた方であれば、彼女の涙についても鮮烈に記憶に残っているはずだ。

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一瀬由梨。
プロ歴わずか4年の彼女は、最強戦ファイナル決勝、南4局の親番で2000オールをツモった後、対局中にも関わらず、涙を流した。麻雀ファンの注目を一手に集める大舞台、対局する3者はいずれも、今の一瀬のキャリアでは到底対戦がかなわないはずの超大物ばかり。その中で、彼女の一打にかかる重圧は、想像すらできない。筆者は、「極限状況下のプレッシャーに耐えきれなくなったのかな」と思った。

麻雀最強戦ファイナルでは、中継が終わった後、優勝者のみが対局場に残ってインタビューを受ける。

つまり、負けた3者は先に控え室へと戻ってくる。一瀬が戻ってきたとき、やはり涙についての話になった。

「凄いメンバーと大きな舞台で打たせてもらっていて、この幸せで貴重な時間がもうすぐ終わってしまうんだと思ったら、急に涙が出てきてしまったんです。 決勝に残った4人の思い、そして最強戦の戦いがこのオーラスで終結するのは、大きな物語が終わってしまうような、とても切ない気持ちになりました」

他にも、プレッシャー、喜び、不安・・・いろいろな思いが、彼女の内に渦巻いていた。そして、その中でぽつりと語った言葉が、強烈に印象に残っている。

「私は、優勝を望まれていないと思った」

この話の前にまずは麻雀プロ・一瀬由梨の2021年について触れていきたい。

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