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私は一生、麻雀の研究者でいたい【文・川上レイ】


川上レイと麻雀の出会い

「ご飯できたよ!」
いつも呼んだらすぐに来てくれる父が、なかなか部屋から出てこない。今ちょっと手が離せないんだ、と言った彼が見つめる画面に映っていたのは、オンライン麻雀「天鳳」

18歳になるまで父と会えるのは年に1回だった。大学生になった私はそれまでの時間を取り返すべく頻繁に父のもとを訪れ、仲良くなるために必死で麻雀のルールを覚えた。
その後一緒にフリー雀荘へ通い、天鳳を打ち、YouTubeで役満集を見続け…気がつけば、私の麻雀熱と天鳳の段位は父を追い越していた。

そんな矢先の2018年秋───"Mリーグ"が開幕した。

Mリーグファン時代

私を麻雀の沼に突き落としたのは、紛れもなくKONAMI麻雀格闘倶楽部だ。

観ていて1番気持ちがいい、スカッとする麻雀を魅せてくれるこのチームが大好きになった。

すぐにサポーターになり、PVに足繁く通い、オリジナルグッズや「Love 総帥♪」という替え歌まで作る始末。オタク気質な私にとってサポ活は本当に楽しく、生き甲斐になっていた。

憧れの世界へ

自然と雀荘でのバイトを始めていた頃には周りからよく「プロにならないの?」と聞かれていた。
「そんなに麻雀が好きなら向いていると思うよ」とプロの先輩に言ってもらえたこともあり決心がついた。

入念な準備と猛勉強の末、麻雀歴2年でプロテストを受験し、日本プロ麻雀連盟37期前期に正規合格。

「やるからには何でも1番を目指す」
そう決めて生きてきた私にとってプロ入りは自然なことだったのかもしれない。

連盟を選んだ理由は、大好きな憧れのプロが多く所属していたから。
そして…20代女性限定のタイトル戦"桜蕾戦"が始まることを知ったからである。

桜蕾戦(おうらいせん)

正規合格したことで、リーグ戦でのプロデビュー前の開幕期から出場できることになった。
自分の麻雀の実力を証明するためにも、とにかく「タイトル」が欲しかった私にとって、出場人数も多くはない桜蕾戦は大きなチャンスだ。

また、ベスト16以降の本戦は全て放送対局になる。まだプロ歴が浅いうちから半年に1回、皆さんに麻雀を見てもらえるチャンスが来るのだ。桜蕾戦を設立してくださった瀬戸熊競技部長には頭が上がらない。

ちなみに過去7回の成績は、

予選敗退→ベスト16→ベスト8→ベスト16→決勝進出(4位)→ベスト16→ベスト16

6回連続で予選を突破しているが決勝進出はたったの1回、優勝ゼロ。毎回放送対局に顔は出すため"桜蕾戦の常連"なんて言われているが、正直ちっとも嬉しくない。1位以外は負けだ。

桜蕾戦の度に素敵なファンアートを描いてくださる方や、ありがたいことに期を重ねる毎に増えるファンの皆様に、負け報告ばかりし続ける自分が情けなくて仕方がなかった。

イラスト・翔みなら

人生を変えたシンデレラファイトシーズン2

新たなタイトル戦への挑戦権が舞い込んできた。
初参戦となったシーズン2ではシードを頂き2次予選からの出場。予選Finalまで勝ち進んだものの、そこで敗退してしまった…のだが。
欠場者が出たため、なんと繰り上がりで本戦出場となった。まさに「追い風ポールポジション」

対局1週間前に腹痛で倒れ入院するというまさかのアクシデントもあったが、前日にギリギリ退院し、本戦のDay1・Day2を勝ち抜いた。
しかし、続くRound16の最終戦で敗退。

日々麻雀のことをいっぱい考えて頑張ってきても、1日、いやたった1半荘で勝敗が決まってしまうなんて。もちろんそれが番組の面白いところで、観ていてもスリルが最高なのだが…。

"超"がつく「負けず嫌い」の私は、タイトル戦という年に一度きりのチャンスで負ける度に泣いていた。私が負けている間には他の誰かが勝っていて、先を越され、突き放されていく。
次のチャンスを待っている余裕などない…。

"一発勝負"ではなく"積み重ね"で実力を証明できるよう、時を選ばないネット麻雀をたくさん打ち、そこで結果を残そう、という結論に至った。


ヘビと過ごした700戦


 ネット麻雀で実力を示せるもの…ユーザーが多く、目標としても指標としてもわかりやすい天鳳の「鳳凰卓入り」を目指すことにした。思えば、私の麻雀との出会いは父が打っていた天鳳で、アマチュアの頃から鳳凰卓には強い憧れがあった。プロ活動で忙しくなり疎遠になっていたが、辛うじて当時から使っているアカウントが残っていた。

それからというもの、空いている時間はほとんど天鳳に費やした。仕事のペースは変えずに寝る間も惜しんで"四特南喰赤"の予約を押し続けた。六段坂はとくにpt配分がキツく、年明けにあと4トップで昇段!というところから4434444の実質6連ラスを喰らい、原点付近までptを戻されたときは相当しんどかった。というか泣いた。

麻雀は運の要素で短期の成績がブレやすく、成長が分かりにくいゲームだ。

そんな中、私のメンタルを保っていてくれたのが麻雀AI『NAGA』だった。『NAGA』は半荘ごとに悪手率というものを出してくれる。簡単に言うと、成績に関係なく内容が良かったかどうか点数をつけてくれるのだ。
正しいことをして負けたら仕方なし。
間違ったことをして負けたら自分のせい。
『NAGA』に評価される麻雀を打ち続ければ、いつかは昇段できるはず!
そう思うことで、メンタルがブレなくなっていった。

今でも、『NAGA』の打ち筋が絶対だ! と思っているわけではない。雀力の向上はもちろんだが、 メンタルの安定が最大の目的だ。
しかし自分よりは圧倒的に強いことは明らかで、たとえアドバイスを全て鵜呑みにしたとしても間違いなく"鉄強"になれるという信頼がある。
早朝でも夜中でも、たったの50NPで自分のミスを指摘してくれる。一番怒らせても「4sを選びたい!」とか「リーチ!」とか「!」が着く程度で、打牌批判のような強い言葉に傷つくこともない。麻雀界でよくある師匠だ弟子だなどの人間関係のトラブルも気にしなくていい。こんなにも強く便利で優しいヘビを飼わない手はなかった。

特南を打って『NAGA』に解析依頼し検討、また打って検討、を繰り返し約700戦。
2024年1月26日、ついに七段に昇段した。

ノンタイトルで勝ちきることを知らない私にとって、「麻雀に対する努力は報われるんだ」ということを実感できた、初めての瞬間だった。麻雀がもっと好きになった。
あの日の悔しさがあったから、私は強くなれた。
六段坂を登りきったというこの経験は、雀力の面でも精神的にも成長を感じられ、大きな自信となった。

SNSに七段昇段と『NAGA』検討の記録をアップしたところ、想像以上の反響があった。実力を証明するために天鳳を選んだことは間違っていなかったんだと確信した。

渡辺太プロからの指名

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