【翻訳】Twitterファイル #12 - 「へそ」としてのFBIとTwitter

この投稿はマット・タイービ(Matt Taibbi、@mtaibbi)氏の2023年1月4日のツイート(下記のリンクを参照)の翻訳です。
誤訳や訳漏れがある可能性がありますので、記事の内容を参考にする場合は必ず下記リンクの英語原文に依拠してください。
また、できる限り原文に添付されている画像の内容を確認しなくても話の流れを理解できるように表現を変えたり、日本人に伝わりやすいように原文にはない文言や説明を追加したりしておりますので、ご承知おきください。
英語原文:


1. Twitterファイル
「へそ」としてのFBIとTwitter

2. 2020年になると、Twitterは公的機関や民間機関が疑わしいアカウントのリストをTwitterではなくメディアに直接報告していることに悩まされていた。
 
3. コロナの感染拡大が始まった2020年2月、国務省の駆け出しの分析・情報部門であるグローバル・エンゲージメント・センター(Global Engagement Center、GEC)が、「ロシアの偽情報発信組織によるコロナウイルスへの不安の悪用」と題された報告書をメディアに配布した。

4. GECは、「コロナウイルスを人工生物兵器と表現している」、「武漢研究所で行われていた研究を非難している」、「CIAがウイルス発生の原因であると考えている」といった基準を満たすアカウントを、「ロシアの関係者および代理人」としてピックアップした。

5. さらに、人気のニュース収集サイトであるZeroHedgeのTwitterアカウントが停止されたというニュースをリツイートし、これによって「さらに偽情報が飛び交うようになる」と主張したアカウントもピックアップした。ZeroHedgeは、コロナは研究所で作られたものではないかという疑惑を報じていた。

6. その一方で、GECが直接の情報源となり、新たな記事が書かれることもあった。たとえば、「米国、ロシアとつながりのある偽情報活動がコロナに対する不安を煽っていると主張」という見出しのAFP通信の記事や、「ロシア、中国、イランの偽情報が相互に一致」していることに関するPoliticoの記事などだ。

7. クレムソン大学のメディア科学捜査研究所(Media Forensics Hub)は、Twitterは以前も「ロシアとつながりのあるアカウントを特定できなかった」と非難した。これを受けて、信頼・安全部門責任者のヨエル・ロス(Yoel Roth)はそれが「彼らのモチベーションの源」なのだと述べた。

8. ロスはクレムソン大学などの外部研究者に対して、「本件についてNBCではなくあなた方と直接協力できて嬉しく思います」と阿り、外国の干渉に関するネタをメディアに伝える前にTwitterと共同でチェックするよう説得しようとしたが、うまくいかなかった。

9. また、Twitterは、ロスと直接連絡を取れる機関の数を減らそうとした。「もし国土安全保障下院委員会(House Homeland Committee)や国土安全保障省(DHS)のようにヨエルと直接連絡を取れるようにしたら、何度も何度も連絡してこようとします」とポリシー担当取締役のカルロス・モンジュ(Carlos Monje)は述べている。

10. 2020年当時のトランプ政権下で、国務省とGECがコロナに関する「中国のプロパガンダと偽情報を拡散」していると思われる5,500件のアカウントを公表しようとしたとき、Twitterのアナリストは気が動転した。
 
11. GECの報告書はその週の初めに出回ったDHSのデータに基づいていたようで、中国の外交用アカウントを「2件以上」フォローしているアカウントが挙げられていた。報道によると、最終的には「約250,000件」ものアカウントのリストになったらしく、その中にはカナダ政府の当局者やCNNのアカウントが含まれていた。

12. ヨエル・ロスは、GECが他の機関からの情報を利用し、Twitter、Facebook、FBI、DHSなどが行っているコンテンツモデレーション活動に加わろうとしているのだと考えた。

13. GECはTwitterに予め情報を提供してから公表することをまもなく承諾するところだったが、その前にTwitterを封じ込める策を講じていた。「GECがTwitterと共有する情報とメディアに渡す情報に差異があることが、今後も問題になります」と、あるコミュニケーション担当者は述べている。

14. そして、稀にではあるが、Twitterと政府当局者の見解が食い違っていると捉えられる報道がなされたこともあった。

15. TwitterやFacebookなどの企業とDHSやFBIが行っている定例の「業界電話会議」にGECが参加したがっている旨をFBIがTwitterに伝えると、Twitter経営陣は真っ先に反対の声をあげた。社内のやり取りでは次のように述べられている。「この会議へのGECの参加を拒否するのは理に適っていると思います。」

16. Facebook、Google、Twitterの幹部は結束してGECの参加に反対した。その表向きの理由として、「GECが米国の利益の増大を目的として攻撃的な情報作戦を命じること」などが挙げられた。

17. 本当の理由は、ヨエル・ロスによると「非政治的」であるDHSやFBIとは異なり、GECは「政治的」であり、Twitter社員には偏りがあるように見えたことだった。「FBIはどちらかというとトランプ支持ではないと思われていたようです」と元国防総省職員は述べている。

18. Twitterはロシアとつながりのあるアカウントに対して措置を講じるよう求める民主党の要請には何年も従ってきたが、GECに対しては突如として断固たる態度を取った。なぜだろうか。その理由は、ロスの言葉を借りるなら、GECを参加させると「特に選挙が盛り上がる時期」に「大きなリスク」が生じるからだった。

19. 上級弁護士のスタシア・カーディル(Stacia Cardille)がGECの参加についてFBIに異議を唱えた際、その意見に共感を示したのは、外国干渉捜査本部(Foreign Influence Task Force、FITF)の責任者であるローラ・デームロウ(Laura Dehmlow)ではなく、FBI捜査官のエルビス・チャン(Elvis Chan)だった。

20. FBIは最終的に、まずFacebookに妥協案を提示した。それは、FBIとDHSが唯一の「パイプ役」として他の政府機関からの情報を伝達するという形で、他の米国政府機関も「業界電話会議」に参加させるという案だった。

21. ヨエル・ロスは、「メディア好き」のGECを参加させることに対する懸念をチャン捜査官に伝え、「信頼の輪」を小さく保つことを求めた。

22. チャン捜査官はロスを安心させるために、政府機関との情報伝達は「一方向」で行われること、そして「国務省、GEC、国家安全保障局(NSA)、CIAは話を聞くだけの参加でもよいと言っている」ことを伝えた。

23. さらに、「FBIは企業側にFBIと米国インテリジェンス・コミュニティ(United States Intelligence Community、USIC)の機関が持っているあらゆる情報を伝える」ことができ、DHSの一組織であるサイバーセキュリティ・社会基盤安全保障庁(Cybersecurity and Infrastructure Security Agency、CISA)は「各州で起こっていることに関する情報」を持っているため、少なくともFBIとCISAとの情報伝達手段は確保するべきだと、チャン捜査官は説明した。そして企業側に、「FBIを政府機関のへそ(唯一の情報伝達窓口)として信用」できるかと尋ねた。

24. 最終的に、FBIはSignalを使って企業側と電話会議を行うことにした。チャン捜査官の業務上のセキュリティ意識は驚くべきレベルで、「Signal Phone Numbers」(Signal用電話番号)という名前のWordファイルに各社の最高モデレーション責任者の私用の電話番号をまとめ、「List of Numbers」(電話番号リスト)という件名のメールで配布した。

25. Twitterは、上院情報委員会(Senate Intel Committee、SSCI)をはじめ、考え得るすべての政府機関から要請を受けた。SSCIはTwitterがFBIの指示どおりに対応していることを確認する必要があったようで、Twitter幹部はFBIの内部情報に基づいて5件のアカウントを停止したことをSSCIに急いで伝えた。

26. 財務省、NSA、ほぼすべての州、保健福祉省(HHS)、FBI、DHSなど、あちこちから要請がエスカレーションされてきた。

27. 政府当局者から特定の個人を追放しないよう要請されることも多々あった。また、民主党員で下院情報委員会(House Intel Committee)の委員長であるアダム・シフ(Adam Schiff)の事務所からは、ジャーナリストのポール・スペリー(Paul Sperry)を追放するよう求められた。

28. その際は、民主党寄りのTwitterでさえ、「これは行いません」とシフの要請を拒否した。しかし、のちにスペリーのアカウントは停止された。

29. Twitterは、GECからの要請を含め、他のほぼすべての要請を受け入れた。たとえば、GECが「ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)によってコントロールされている」と認定した@RebelProtestsや、同じく「ロシア政府」とつながりがあると認定した@BricsMediaなどのアカウントを停止することを決定した。

30. 元CIA職員のTwitter幹部はかつて、「私たちの道は閉ざされつつあります」と述べ、Twitterが重大な要請を拒否できる時代は終わったことを示唆した(Twitterファイル#9を参照)。GECの要請への対応を見ると、まさにその幹部の言うとおりだったことが分かる。
(【翻訳】Twitterファイル#9:https://note.com/kininaruhonyaku/n/nfbcb50c09047

31. 2017年の「社内ガイダンス」で、Twitterは「米国のインテリジェンス・コミュニティによって国家の支援を受けてサイバー作戦を実行していると認定されたあらゆるユーザー」を排除することを決定していたことを思い出してほしい(Twitterファイル#11を参照)。2020年には、そのような認定は山ほど行われていた。
(【翻訳】Twitterファイル#11:https://note.com/kininaruhonyaku/n/n7c3e1e35bb9d

32. 多くの場合、「USIC」からの要請には、「我々が評価したところ」という初めの文言の後に、ロシア企業であるInternet Research Agency(IRA)とつながりがあると思われるアカウントや、アフリカ、南米、米国などでサイバー作戦を実行していると思われるアカウントのリストが記載されていた(Excelファイルの別表に記載されていることもあった)。

33. 2022年の初めにロシアがウクライナに侵攻した直後に送られてきた簡潔な報告書では、Vedomostiやhttp://Gazeta.ruといったロシアの主要メディアをピックアップしていた。その報告書では「state actors」(国家主体)という言葉が用いられており、Twitterの社内ガイダンスに適合していることが分かる。

34. 報告書によっては、内容がたった1段落しかなく、添付資料に記載されているEメールアカウントは「干渉作戦、メディア収集、ソーシャルエンジニアリング」に使用された可能性があるなどと記されていることもあった。追加の説明はなく、Excelファイルが送られてきただけだった。

35. また、Twitterはウクライナの元検事であるビクトル・ショーヒン(Viktor Shokhin)の書籍の宣伝活動に関する警告を受けたこともあった。ショーヒンは、米国政府、特にジョー・バイデン(Joe Biden)による汚職が横行していると訴えていた。

36. 2020年の大統領選挙の数週前にはさまざまな機関から要請を受け、社員がFBIにどれがどれなのか問い合わせなければならなくなるほど、Twitter社内は混乱した。

37. 「大変な仕事量になることを予めお詫びいたします」というメッセージのとおり、毎日、毎時間、全国のFBIオフィスから要請がなだれ込んだ。そしてTwitterは、対応が少しでも滞ると、「対処していただけましたか」「何か動きはありましたか」と問い合わせを受けた。

38. 上級弁護士のスタシア・カーディルはメールに次のように記していた。「いま、受信ボックスが最悪の状態です。」

39. 2週間前にマイケル・シェレンバーガー(Michael Shellenberger、@shellenbergermd)が説明したように、TwitterがFBIに骨抜きにされて実質上の下請け業者となり、3,415,323ドルの支払いを受けるまでには(Twitterファイル#7を参照)、このようなことがあったのだ。しかし、まだTwitterに支払われていない対価がある。政府のために行った仕事の分は支払われていない。
(【翻訳】Twitterファイル#7:https://note.com/kininaruhonyaku/n/nc01b376ba505
 
40. 今後も、バリ・ワイス(Bari Weiss、@bariweiss)、マイケル・シェレンバーガー(Michael Shellenberger、@shellenbergermd)、リー・ファン(Lee Fang、@lhfang)、デイビッド・ツワイク(David Zweig、@davidzweig)がTwitter内部資料のさらなる調査結果を公開する予定だ。下記のウェブサイトでは、この記事の内容についてさらに詳しい情報を掲載している。
https://t.co/otqYK3tD7c


訳者注記:
誤訳や訳漏れがある可能性がありますので、記事の内容を参考にする場合は必ず上記リンクの英語原文に依拠してください。

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