2020年はアバターストア元年(5) ~アバターの価値って何?~

このシリーズも長くなりましたが、今回で最後です。

○これまでのおさらい

・ユーザーとアバターのマッチング問題(第1回
・アバターの使い道がない問題
・言語の壁(第2回はここまで)
・法人利用問題(第3回
・規約規格化問題(第4回
・アバターコピー問題(今回はここ)

検索性の改善も需要(パイ)の拡大も行ったとして、その時点でアバターストアに求められている要件をほぼ満たしていると思います。ですが、アバター文化にはアバターコピー問題が残っています。今回は最後にその話をして、一連の記事のまとめをしたいと思います。

○アバター=3Dモデル+唯一性

単純に資産を奪われてしまう、前回お話したリスペクトの精神にもとるという問題以外に、自分の姿を他者が乗っ取ってしまうというSFのような事態が現実にあります。自分の姿で悪さされる・・・ということもありますが基本的に個人はアカウント名と紐付いているため、少数のケースだと思います。

では何が良くないのかと言うと、バーチャル空間における自分の唯一性が失われてしまうことです。例えば、VRChatで自分のアバターがコピーされてパブリックのアバターワールドにペデスタルが置かれてしまえば不特定多数がそのアバターを利用することになり、自分の姿の唯一性は失われてしまいます。

現在のアバター文化はVRChatにアップロードする都合、Unityを触る必要があるため、簡単な改変ができる人が多く、結果として市販のアバターでもその人なりの改変をして個性を出すことが主流になっています。アバター文化がここまで発展したのはこの、その人なりの個性を持った姿になる文化が大きいと思います。

ですがアバターがコピーされてしまってはせっかくの文化も台無しで、コピーされたくないアバターではパブリック(誰でもアクセスできる)空間に行かない、結果としてコミュニティが閉鎖的になりがち→新規が入りにくいという事態に実際なっています。VRSNS運営の問題ではありますが、そこにアバターストアの価値があると思います。

というのも、そもそもぶっこ抜きアバターを使う人の需要もそうでない人と同じであり、ストア側で着せ替え・改変機能とAPIを提供してしまえば態々ぶっこ抜きデータをUnityからアップロードするより便利だからです(悪意を持って誰かになりきろうとする人以外は)。

○アバター闇商売よもやま話

話は変わりますが、VRChatでよく見るぶっこ抜きアバターワールドが雨後の筍のように発生するのは何故でしょうか?

お金になるからです。他にも承認欲求とか色々あるとは思いますが、基本的には対価を得るためです。

アバターワールドにDiscordのリンクやPatreonのアカウントが貼ってあることはよくあると思います。Patreonの場合は支援者限定データの頒布を、Discordの場合は有償で改変依頼を受け付けていたりします。

PatreonはともかくDiscordはなんで知ってるの?という話なのですが、以前お金を払って改変を依頼した方からお話を聞いたためです。曰く、アバターに自分の名前が入った腕章(くるくる回るやつ)を付けるために1500円(うろ覚え)払ったが、VRChatにアップロードできないから助けてくれという話でした。画面共有で彼のUnityの画面を見ながらアレコレ言っていたのですが、そもそもモデルが規約違反MMDモデルで、頂点数がVRChatの制限(当時)以上だったためアップロードできないというひどいオチでした。それで彼に聞いてみたところ、Discord経由でアバター+改変を受け付けている人物がおり依頼したのはいいがアップロードしたければ追加料金(つまりSDK改造は別料金)とあしらわれてしまった、ということでした。

別に告発がしたいとかではなく、不便があるからこういったスキマ産業が成り立つと言いたいわけです。有償改変依頼をした彼はUnityもよくわからず困り果てており、そもそも改変機能がありAPI提供を行っているストアがあれば生じなかった事態でした。例えば上記の彼の場合はテクスチャ貼り替え可能な腕章モデルとそれをアバターに装着する着せ替え機能があればよかったでしょう。

○唯一性って法人利用(アセット利用)と競合しない?

着せ替え(改変)機能があれば回避可能だと思います。むしろVRChatでアニメ・漫画のキャラクターをよく見かけるように、法人利用によってVRSNS外から人が流入する可能性も十分あるのではないでしょうか。人気作品の改変だって立派な個性だと思います(権利のこととは別問題で)

○欲しい物はみんな同じ

繰り返しになりますが、

アバターの価値は自分の姿の唯一性にある
それはコピーアバター・規約違反アバターを使うも同じ
・ストア側で着せ替え(改変)機能とAPI提供をすれば規約違反するより便利

(余談)Vケットストアではちょうど着せ替え機能(予定)とAPI提供が発表されました。やったぜ。
他にもブロックチェーンでデータそのものの所有権を定義し直すConataも今週末試験運用されます。激アツ

○僕の考えた最強のアバターストア

以下、これまでのまとめです。

(第1回)アバター文化には検索性の悪さ需要(パイ)の少なさという二大問題がある。二大問題を解決するアバターストアはブルーオーシャンでそのための環境が整いつつある2020年はアバターストア元年

(第2回)検索性を改善しても、パイが少なく供給過多で結局売上は伸びない。パイを増やすためには、操作が容易な着せ替えシステム多言語対応用途の拡大が求められる。

(第3回)アバター対応ゲームは企業のメリットが少なく、立体化、アセットとしての利用は可能だが、利用規約の体系化がされておらず、ユーザー特に企業にはリスクが高く敬遠されがち

(第4回)利用規約が体系化されていない、お気持ち運用がされてしまうのは、「どこまでいっても作品は作者のものである」ことを支持するリスペクト精神の文化の影響が強い。そのためアバターストアが成功するには、クリエイターは作品の一部を手放すこと企業はリスペクトのための工数を割くことプラットフォームはそれらをUIとして提示することの3つが大事

(第5回)アバターの価値は自分の姿の唯一性で、それはコピーアバターを利用する人も同じ。ストア側で着せ替え(改変機能)とAPI提供ができれば課題は解決できる。

以上の内容から、僕の考えた最強のアバターストアを提案するなら、

・優れた検索機能
・APIの提供
・容易な着せ替えシステム
・多言語対応
・利用規約の体系化
・クリエイター・クライアント双方のガイドライン
・法人利用の際のチャットチャンネル(リテイク制限など適宜調整)

あたりがポイントになるのではないかと思います。多いな!

自分で書いてて何ですが、これだけ問題山積ならそらブルーオーシャンになるわ・・・って感じです。逆に言えば、それでも一つの文化圏を形成するほどにアバターには価値があると思います。皆そのために手間暇かけ、頭をひねり、格安で販売したり、お金を払ったり、(時には態々データを抜いたり)、専用のサービスを作ったりするわけです。

そこでアバターストアの登場で皆がもっと便利に、より純粋にアバターの価値を追求できるようになり、アバター文化圏がもっと楽しくなると信じています。2020年はアバターストア元年といわず、アバター文化元年と言われるくらいになるといいなぁと願ってます。

○余談

本当に長々と書きました。最後まで読んでくださった方には頭が上がりません。一万字くらいあるんじゃないか・・・?

ここまで書いた理由なんですけど、VRCモデルデータベースを運営してきた私の気持ちをどこかにまとめたかったからです。VRCモデルデータベースは反省することがかなり多くて、でもこの規模のサービスをもう一度一人で、となると足が引ける思いもありました。そこに色々とアバターストアが勃興する動きもあり、今このタイミングで誰かに私が考えてきたことを伝えたい!と思って大体全部書ききりました。細々としたところはもちろん省略して。

一連のシリーズがアバターストアでもそれ以外でも誰かの役に立つといいなと願っています。

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