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白金透先生『姫騎士様のヒモ』読書感想文

"避けることができないならば、抱きしめてしまえばいい"
ウィリアム・シェイクスピア

 街一番のパン屋さんで朝一番に買った特製の食パンを厚めに切って、それを最高級の砂糖と牛乳と卵を混ぜて作った卵液に沈めるの。
 表と裏を五分ずつ。これより長くても短くてもいけない。とても大切な時間よ。
 王室御用達の鍛冶職人に鍛えてもらったフライパンの上で多めのバターを溶かす。
 じゅわっという音色。一級品は音からして違う。色と香りはもっと違う。
 漆黒のフライパンに金色の化粧をするみたいに溶けて広がるバター。
 顔のそばで妖精が舞っているような甘くて豊かな匂いがあふれだす。
 だけど本番はここから。
 卵液からパンをすくって、熱したフライパンの上にお招きする。
 焦がさないように、だけど焼き色はしっかりとつくように。
 ときに料理は絵画のように、美しくおいしさを描くのよ。
 そして丁寧に仕上がったパンをお皿にのせる。
 これだけでも十分おいしいけれど、今日はもう一工夫したい気分。
 パンの上にさらに蜂蜜、粉砂糖、それからホイップクリームも盛って、バナナも添えましょう。
 これで完成。私特製のハッピーフレンチトースト。
 どんな料理でも、できたてが一番おいしいものでしょう。
 私はお皿を片手に、お屋敷の一階にあるキッチンから二階にあるあの子の部屋まで急ぎ足になるの。
 少しはしたないけど、そんなのお料理が冷めることに比べたら些細なことでしょ?
 階段を駆けて、長い廊下を走り、息を弾ませながら扉を開く。

「おはよう。朝ごはんよ!」
「あ、お姉様。おはようございます」
 少女はまるで召使いのように、頭に布巾を巻きつけ、冷たい水でしぼったぞうきんで床を拭いていたの。
「ぎゃああああああああああああああああああ」
 私は伝説の剣で英雄に刺された獣みたいに絶叫する。
「ど、どうされたんですか、お姉様」
 そんな私を彼女は不安そうに見つめてくる。
「どうしたもこうしたもないでしょ。何度も言っているでしょうシンデレラ。あなたはそんなことしなくてもいいのよ」
「だけど……おちつかなくて」
 私はシンデレラを立ち上がらせ、追いぎみたいに彼女の頭から布巾を、手からぞうきんを奪ったの。
「なぜ床掃除なんてしているの? 昨日プレゼントした絨毯は?」
「ごめんなさい……ポリーさんに頼んで片づけてもらったんです」
「とても高価なものだったのよ?」
「私には分不相応すぎます。ふかふかすぎて、まるで羊の上で暮らしてるみたいで」
「分不相応なものですか。いい、シンデレラ? 私はあなたにあの絨毯がふさわしいと思ったからこそ贈ったのよ?」
「お、お姉様……」シンデレラの大きな瞳に涙があふれていく。「ご、ごめんなさい。私、お姉様のお気持ちをくみ取れずに、自分のわがままで大好きなお姉様のお気持ちを踏みにじって、お姉様に恥をかかせるなんて──なんて悪い娘でしょう。いっそ死んでしまいたい!」
「ダメダメダメダメダメダメダメよ! いいこと、シンデレラ。冗談でも例え本音だったとしても、死ぬだなんて口にしないでちょうだい」
「お姉様──」ちょっとしたき火くらいなら消火できそうなくらいの涙をこぼしながら、シンデレラは私に抱きついてくる。「ええ、もちろんですとも! 私、死なない! だって死んでしまったら、お姉様のこのぬくもりを感じられなくなってしまうもの!」
 私はほっと一息ついて、片方の腕でシンデレラを抱きしめ、もう片方の腕で、シンデレラの頭をなでなでした。

 ところで、私の名前はサララ・モトハ・ヴォッケーキョーテーオナゴジャッタナー。
 名門ヴォッケーキョーテーオナゴジャッタナー家の長女として十七年間、何不自由なく贅沢三昧で人生を謳歌していたの。
 そんな我が家にある日、シンデレラとかいう『小汚い』でググったら参考画像として表示されそうな、それはそれは下賤な娘がやってきたの。
 私とお母様と妹の三人で、毎日おもちゃにして遊んでやっていたら、なぜか突然、動かなくなってしまったの。
 第一発見者は私。
 私は思わずこう言ったの。
「あらあら、シンデレラが死んでるわ」って。
 面白いでしょう?
 でもここから面白くなくなるわ。
 世界が急に夜になったみたいに真っ暗になって、そこに悪い魔法使いが現れたの。
 魔法使いはこう言ったの。
「愚かな娘よ──」
 長いからカットするわ。
 かいつまんで説明すると、どうやらシンデレラは未来の聖女だかなんだかで、大切に成長を見守る必要があったみたいなの。
 だけど私たちがちょっとかわいがりすぎたせいで、このままだとシンデレラの生命マジヤバイみたいで、天から見守ってた大魔導師(悪い魔法使いのことよ。だって私に苦労を強いるんですもの)が警告にきたってわけ。
 そうそう、別にシンデレラは死んでなかったの。空腹で倒れていただけよ。シレンかトルネコみたいな娘ね。
 そんなことを思った次の瞬間、私はモンスターハウスにいたの。
 ぬいぐるみで発売されたらほしくなるようなデフォルメされてるタイプじゃなくて、H・R・ギーガーの新作みたいな殿方たちに囲まれていたの。
 大魔導師様がおっしゃるには、これ以上シンデレラにかわいがりをつづけるのなら、残りの人生をこのモンスターハウスで暮らしてもらうと。
 手元に白紙の巻物があれば『じぇのさいど』と書いて大魔導師に投げつけるのに、生憎あいにく、手持ちがなくて。
 関係ないけど幼いころ、生憎あいにく生憎ちくしょうって読んでたのって私だけなのと思って検索したら、けっこう仲間がいて安心したわ。
 とにもかくにも、余生をモンスターハウスでなんてまっぴらごめんあそばせだから、今後はシンデレラに優しく接することを誓ったの。
 大魔導師から与えられた条件は、シンデレラが十八歳になるまでのあと四年間、彼女の幸せを維持すること。一定の肉体的あるいは精神的もしくはその両方に負荷を与えた場合は即モンスス(モンスターハウスの略よ)行き。それだけ告げて魔導師は去っていったの。
 いいじゃない。望むところよ。この破滅フラグをへし折って、スローライフを手に入れてみせるわ!

 それからの私は、シンデレラの幸せ(それはつまり私の人生の安泰)だけを願って行動してきたの。
 まずは私よりもずっとシンデレラをいたぶっていたお母様と妹への対応ね。
 お母様を籠絡ろうらくするのは難しいことではなかったの。
 私はお母様のツボを全て心得ているから、お母様の喜ぶ行為を先回りして提供して、それを全てシンデレラの仕業しわざにしたの。
 その努力は実って、お母様ってば、シンデレラにもうメロメロよ。
 以前はシンデレラをペットみたいに扱ってたくせに、今じゃお母様がシンデレラのペットみたい。
 今のお母様だったら、シンデレラのためなら、覇王丸にだって突撃するはずよ。

 他方の妹ね。こっちはお母様みたいに上手くいかなかったの。
 だから旅に出てもらうことにしたの。
 勘違いしないで。こわい意味じゃなくて、本当に普通に旅行にいってもらったの。
 妹の大好物の美少年同士でちちくりあってる耽美小説の即売会が東の島国で開催されると聞いて、豪華客船のチケットをとってあげたの。
 タイタニックっていうの。立派な名前でしょ?
 妹が旅行から帰ってくれば、また別の案を考えないといけないのになぜかしら、もう妹の心配はしなくていいって気持ちにもなるの。
 不思議な気分。歌でもうたいましょうか。
 エンダアアアアアアアアア イヤアアアアアアアアア
 そっちじゃないって? 別にいいでしょ。私、この歌が好きなの。

 まあそんなこんなで私はシンデレラの幸せ(つまり自分のスローライフ計画)に集中する環境を整えられたの。
 昨日はとても素敵な絨毯をプレゼントしたのに、シンデレラはそれを撤去したみたいね。
「ごめんなさい、お姉様」シンデレラはまだあやまってる。
「気にしないで。私はいつだって、あなたの意志を尊重しているから」
「私、本当にどうしようもない娘なんです」
「そんなこと言わないで、シンデレラ。あなたは立派なレディーよ」
「私、お姉様のこと、最初はとても近寄りがたくて厳しい人だと勘違いしていたんです」
 あら、別に勘違いじゃなくてよ。
「でも最近のお姉様はまるで人が変わったみたいに優しくて──いいえ、お姉様がお優しいのはきっと出会ったときからずっとだったはず。私がお姉様の本心に気づけていなかったんだわ」
 誰かに優しくなれるなんて、そんなの簡単よ。あなたも一度、モンスターハウスに連れていかれてみなさい。一瞬で心変わりできるから。保証するわ。
「ありがとうシンデレラ。あなたにそんなに想ってもらえているなんて嬉しいわ。だから忘れないで、あなたの幸せが私の幸せだということを」
 逆をいえば、シンデレラの不幸は私の不幸に直結している。我々は運命共同体なのだ。
「はい! お姉様──だいすき!」
 シンデレラが、ぎゅっと抱きしめてきたので、同じように私はそれに応じる。
「ねえシンデレラ、これから二人で街までお買い物に出かけましょう。あなたに何かプレゼントをしたいの」
「そんな! 昨日、素敵な絨毯をいただいたばかりなのに」
「その素敵な絨毯を返品したのはどこのどちら様?」
「……す、すみません。でも私にはやっぱり高価すぎますよ」
「だったら今日はあなたのほしいものをプレゼントさせてちょうだい。何がいい?」
「そ、そうですね、では──」

「この店にある本を全てちょうだい!」私は声高に叫ぶ。
「だ、だめですよ。全部だなんて!」シンデレラはあわてふためく。
 ここは街で一番大きな本屋さん。
 何か本が読みたいと言ってきたので、その願いを叶えてあげているの。
「どうして? どんな本がいいか、いろいろ試してみなければわからないでしょう?」
「ここで選びますから。それにプレゼントしてもらう本は一冊でいいんです」
「一冊? それは少なすぎるでしょう。せめて十冊はプレゼントさせて」
「いえ、一冊がいいんです。はじめてお姉様と一緒にお買い物をした記念だから、一生の思い出にするための一冊を選びたいんです」
 さすが未来の聖女様。シビれることを言ってくれる。
 そうしてたくさんの書籍の中から、じっくりコトコト丁寧にスープでもこしらえるみたいに時間をかけて、シンデレラは残り二冊まで本を絞ったの。
「…………」
 すごく真剣に選んでいる。
「お姉様!」二冊の本を盾みたいにかまえて、その表紙を私に向けてきたの。「どちらがいいか選んで下さい!」
「え? 私?」なんだかすごく重大な責任を押しつけられた気がする。「選べないのなら、もう二冊とも買いましょう?」
「ダメです。一冊じゃなきゃダメなんです。だけど私にはもう選べません。だって、どちらも同じくらい素敵に見えるから。だから最後はお姉様が決めて下さい」
 そこまで言うならしかたないわね。
「じゃあ、こっちで」
 一秒で選んだの。
 理由、特になし。

 私からプレゼントされた本を宝物のように抱えて、その日、シンデレラの部屋から灯りが消えることはなかった。
 きっと夢中で読んでいるのね。

 翌日。
 朝、浴室で沐浴をしていると、失礼しますと挨拶をして、シンデレラが入ってきたの。
 珍しい、というより、はじめてのことね。
「おはようシンデレラ。物語は楽しめた?」
「……はい、とても」
 うん? 何か引っかかるわね。嘘をついている気配はないけど、なんなのかしらこの違和感。
「ねえ、お姉様……お背中、流してもいいですか?」
「え? ええ、じゃあお願いするわ」
「……はい」
 私の背後につくシンデレラ。
 少女の手が私の首筋、背中、脇腹、もも、臀部、背中、脇、胸へ──って
「シ、シンデレラ?」
 思わず私は振り返る。
「…………」
 シンデレラは私の声に反応することなく、私の身体に夢中だった。
 その表情には既視感がある。
 妹がネットで好みの画像(美少年同士が裸でからみあってる系)を見つけて保存しているときのと同じだ。
 私の中の警戒レベルが急上昇。
「えっと、シンデレラさん? あの、私、ちょっとのぼせちゃったみたいだから、そろそろ出るわね」
 そう言って、離脱したの。
「あっ、お待ちになってください、お姉様」

 それからというもの、シンデレラと私は見えない糸というより見えない粘液でつながっているみたいに、少女は常に私に過度な身体的接触を試みてきたの。
 主に胸と脚に執着して、くちびるを狙われている気もする。
 原因は明らかに、あのとき買った本だろう。
 あれを読んで以降、シンデレラは変わってしまった。
 私はこっそりシンデレラの部屋に侵入して、問題の小説『安達としまむら』を読んでみたの。
「……これは」
 思わず息をのんだの。
 そして一つの仮説を立てたの。

「ねえ、シンデレラ」
「なんです? お姉様」
 お庭を散歩しましょうとシンデレラを誘うと、少女は喜んでやってきて、当然のように私と腕を組み、笑顔だ。
「あなたはこれまでに、どんな物語を読んできたの?」
「先日、お姉様に買っていただいたものがはじめてです」
 やっぱり。
 物語を自分なりに楽しむ筋力が発達していないせいで、味わうもの全てに強い影響を受けてしまっている。
 その物語が名作だったり傑作だとすると、その威力は計り知れないの。
「……そんなことより、お姉様」
「どうしたの?」
「その、今晩、お姉様のお部屋に、おじゃましても、いいですか……?」
 私の中の警戒レベルの針が振り切れたの。
 私の部屋にきて、何をなさるおつもりなのかしら、この十四歳は。
「そ、そんなことよりシンデレラ、これ、なーんだ?」
 私は懐から一冊の本を取り出したの。
「あ、その本は」
「あのとき、あなたが迷っていたもう一冊の本よ。こんなこともあろうかと買っておいたの。ねえシンデレラ、今日はこの本を読んで、その感想を明日、私に聞かせてちょうだい? ね?」
「え? ……ええ、わかりました。お姉様がそうおっしゃるのなら」
 少し残念そうな表情をしたものの、シンデレラは私から本を受けとってくれたの。
 なんとか今日という日をのりきったの。

 翌日。
「『太陽神はすべてを見ているソル・ニア・スペクタス』」
 朝、部屋を出ると、いま元気玉を作ってる最中ですといわんばかりのポーズで、シンデレラはそんなことを口にしていた。
 よかった。別の作品からも影響を受けている。
 これで安達としまむら成分が多少ゆるくなってくれたらいいのだけれど。
「おはよう、シンデレラ」
「おはようございます、お姉様」
「今日も元気そうね」
「はい、お姉様も相変わらずの『減らず口ワイズクラック』ですね」
「は?」
 気のせい? いま私、ディスられなかった?

 そこはかとなく、いつものシンデレラに戻ってくれたような気がしたけれど、完全に気のせいだったの。
当たって砕けろGo for break』とか『なるようになるQue sera sera』とか『百万の刃ミリオンズ・ブレイド』とか
仮初めの太陽テンポラリー・サン』とか『照射イラデイエーション』とか『解放リリース』とか
 口にする言葉に中二的要素がほとばしりはじめたの。
 まあリアルに十四歳だからいいのかもしれないけど。
 それに誰の人生にだって、こういう瞬間はつきものでしょう。
 シンデレラも、今日のことをある日、何の前ぶれもなく思い出して
『あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”』って絶叫するときがおとずれるから。
 私は軽やかに浴室に向かったの。

 ベチャベチャ。ジュルジュル。ギトギト。ギザギザ。
 形容しがたい怪物たちの群れ。
 景色は一瞬でお屋敷からモンスターハウスへ。
「これは一体、どういうこと?」
「やってしまったな、娘よ」
 現れたのは、悪い魔法使いこと大魔導師。
「どういうこと、どうしてここに? だってシンデレラはいま幸せなはずでしょう?」
「幸せかもしれないが、このままでは彼女は聖女でなくなってしまう。あのおそるべき書物の力で」
「おそるべき書物?」
「お前が昨日シンデレラにわたしたあの『姫騎士様のヒモ』のことだ」
「別におそろしくなんてないでしょう。シンデレラと同い年くらいの子たちが買ってたし、普通の英雄譚じゃないの?」
「シンデレラにはまだ物語の耐性が弱く、影響を受けやすいのはお前も気づいているのだろう?」
「ええ」
 大魔導師は『姫騎士様のヒモ』を取り出し私に差し出して、読んで見ろ、と言ったの。
「ヒロインの少女がいるだろう?」
「赤髪の女の子ね。かわいいじゃない。強そうだし。アルウィン・メイベル・プリムローズ・マクタロードってすごい名前ね。実は名前が岡山弁になってるとか?」
「それはお前のことだろう。とにかく、シンデレラはそのヒロインからすさまじい影響を受け、自分を投影しようとしている」
「別にいいでしょ。それともしとやかじゃないと聖女にはなれないの? その考え、古くない?」
「そうではない。ちょっと時間やるから、お前もその本読んでみろ」
「……ええ」
 シンデレラとの話題にもなると思い、私は物語を目で追う。
 一章読了。「何よ、普通に面白いじゃない」
 二章読了。「ふむふむ、いいわね」
 とある章読書中「……あ」某章読書中「……あ、ああ」某章読書中「……あー、これは、あー」
 某章読了。「これは……やばいわね」
「やばいだろ?」大魔導師はうなずく。
 ヒロインに影響を受けているとなると、ここままだとシンデレラは──。
 どうしましょう、どうしましょう。私ったらとんでもないものをシンデレラに!
「どうしましょう!」
「お前がやったことだ、お前がなんとかしろ。ちなみに今日の十二時にシンデレラの自己はある程度固定されてしまう。だから十二時までになんとかするのだ」
「ここにきて急にシンデレラ要素ぶっ込むのやめてもらってもいいかしら? ちなみに今は何時なの?」
「十一時五十分だ」
「あと十分しかないじゃない! 私、ポジション的に悪役令嬢でジャック・バウアーじゃないのよ?」
「あきらめるなら、このままモンスターハウスここに滞在してもかまわんが?」
「なんとかしますから、一端、おうちに戻してください」

 そして一瞬でお屋敷に。
「あ、お姉様」とシンデレラ。
 心なしか、その表情はちょっと解放リリースされているような。
 もう手遅れなの?
 いいえ、そんなことはないはず。
 不可能だったら、大魔導師は私をここには戻さなかったはず。
 考えるのよサララ・モトハ・ヴォッケーキョーテーオナゴジャッタナー。
 何か、何か、シンデレラの関心を別のものに──。

 ──そうだ!

「ね、ねえ、シンデレラ?」
「はい、どうされました、お姉様?」
 私はシンデレラに接近する。
「──お姉、様?」
 それから抱きしめて、少女のひたいにやさしく、くちびるをつけるの。
「──お、お姉様! 急に何を!」
 私はシンデレラの口に、そっと人さし指をあてたの。
「これから私の部屋にきて、ベッドの上で、一緒におしゃべりをしましょう?」
「……お姉様……」シンデレラの表情は「──はい」姫騎士様のヒモから安達としまむらに変化した。

 ちょっと待って。
 今回はその曲で間違ってないけど、何かいろいろと間違ってるでしょ。
 というかシンデレラすごい力でぐいぐい私を部屋に誘導してるんだけど。
 一体、私の部屋で私に何をしようとしているの。
 それもこれも全部『姫騎士様のヒモ』のせいよ。
 作者の白金透。名前覚えたからね。
 どこかで会ったら一言いってやるんだから覚えてらっしゃい。
 あ、待ってシンデレラ、そんな強引に──あ。

 映像はそこでおわっている。




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