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竹町先生『スパイ教室』読書感想文

そういえば生まれて一度もジャケ買いをしていないことに気づきました。

ジャケ買いとは、レコード、CD、DVD、本などのメディア商品を内容を全く知らない状態で、店頭などで見かけたパッケージデザインから好印象を受けたということを動機として購入すること。ジャケット買いとも。(Wikipediaより抜粋)

みなさんはありますか? ジャケ買い。
たぶん「ある」と答える人が多い気がするんですけど、よおく考えてみて下さい。
あなたのそれは、本当にジャケ買いですか?

例えば私、ダイスケリチャードさんがとても好きなので、リチャードさんの作品が描かれたものを見つけると、それが購入動機になり得るのです。

それをジャケ買いと言うんじゃ。はいこの話はここまで。閉廷!
とはならないと思うんですよ。
だって私はダイスケリチャードさん作品への明確な好印象があるので、パッケージだけであったとしても、それはもう立派な作品目当ての購入じゃないですか。
例えばポルポルミンにまったく興味がない人でも、月刊ポルポルミンの表紙に好きなイラストレーターさんの絵や応援してる役者さんが映ってたら買いますよね。
一見これは代表的なジャケ買いに思われるかもしませんが、そうではないと思うんですよ。
ジャケ買いっていうのは、興味もなければそもそもそれが何なのかすらわからないポルポルミンが表紙の月刊ポルポルミンを買うことだと思うんですよ。

ではここでもう一度、自問してみて下さい。
あなたはこれまでの人生でジャケ買いをしたことはありますか?
おやおや、ずいぶん手をあげる人が少なくなったじゃないですか。
だけどですね、恥ずかしがることはないんですよ。
SNSとかで煽ってくる人いるじゃないですか。
高校生にもなってジャケ買いしたことないやつはどうかしてるとか、三十歳になってもジャケ買いできないやつは魔法使いだとか、ジャケ買いしたことない人は血液が綺麗だから献血すべきとか。
ジャケ買いした回数くらいしか自慢できることのない心の貧しい虚栄心にまみれた嘘の人生を歩んできた愚か者の言葉に惑わされてはいけません。そもそも献血はいくべきです。

とはいえ、不安な人がいるのもわかります。
私だってそうでした。
高校生のときなんかは別に心配とかしてなかったんですよ。
周りの人で、どうやらあいつはもうジャケ買いしたらしいみたいな話を聞いても、ああそうなんですか、早いですね。くらいの感覚だったんですよ。
その感覚は20代でも変わらなくて、そもそも人間ってジャケットじゃなくて中身じゃん? くらいに思ってましたし。
それが30歳になるとちょっと焦りみたいなのを覚えてきて、少なくともこいつよりは先にジャケ買いするだろうと思っていたかつてのクラスメイトが結婚して家庭を持ち、もうすぐ子供も生まれるなんて聞くと、いつの間にジャケ買いしたんだよあいつって劣等感と敗北感に何度押しつぶされたことか。
だけど、おそれることなど何もなかったのです。
ジャケ買いをできる日はくる。あなたにも、そして私にも。

2020年1月22日
これは記念すべき、私の初ジャケ買いの日です。

その日私は、まさか今日、脱ジャケ買いをするだなんて夢にも思っていませんでした。
それは、唐突に目の前に現れたのです。
ほぼ毎日お世話になっているサイトで富士見ファンタジア文庫のキャンペーンが紹介されておりまして、どうやら新人賞の大賞受賞作が発売されたらしく、それを機に過去の受賞作がお得に買えるというちょっとしたイベントでした。
過去の受賞作はほとんど持っているのでセールには興味を持てなかったのですが、せっかくだから大賞受賞作とやらを見てみようとリンクをタッチすると、このパッケージが現れたのです。

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おそらく一分もかからなかったのではないでしょうか。
私はブックウォーカーに飛んで、第32回ファンタジア大賞 大賞受賞作『スパイ教室』を購入したのでした。
まさにファンタジー。幻想のようなジャケ買いでした。

ジャケットイラストを描いているトマリ先生は間違いなく現在最も勢いと人気のあるイラストレーターさんです。
非常に作風の幅が広く、オリジナリティーの高い作家さんで私も尊敬しています。
ジャケ買いしたくなる気持ちも理解できると思われた方も多いでしょう。
半分当たりで半分はずれです。
このイラストでジャケ買いをしたといえば、大半の人は中央にたたずんでいるおそらく作品のヒロインであろう少女にときめいて購入したのだと思われるでしょう。
ちょっと違うのですね。
私はここに引き込まれたのです。

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この感想文をアップしたのは2020年の3月ですが、この感想文を書いているのは2月の初旬です。
2020年の2月14日は歴史的な2月14日になるはずだったじゃないですか。
それが去年の11月、わけもわからず無惨な仕打ちをうけたじゃないですか。
具体的にいうと、こんな感じです。

過去2作品は英国での封切りから数ヶ月遅れだったけれど、ついに世界同時上映の仲間入りを果たしたと思ったら、世界同時に延期ですよ。

サムネイルだけ9月になおすという公式の力業。

ネットニュースで延期を知ったときは膝から崩れるとまではいかなくても、何だかすごい変な感じに体中がぞわぞわして、これはいかん、この感覚を引きずったらどうにかなってしまうと思い、急いで家に帰って、ちょっと普段はやらないことをやって新しい感覚で感情を上書きしようと思い、考えた結果、発売日に買って7年ほど寝かしていたドンキーコングリターンズを延々とプレイしてました。
18時間40分ほどプレイして、ラストエリアまでいきました。ちゃんとラビリンスも全てクリアしてます。
めちゃくちゃ面白くて、クリアするのがもったいなくなってラスト直前でストップしてしまういつものやつが発動中です。
今はVCでSFC版のスーパードンキーコングをプレイしてます。
諸般の事情でリアルタイムでは遊んでなかったんですよ。
大した理由じゃないんですけど、発売当時ですね、普段はバービー人形とシルバニアファミリーをぶつけあって遊んでるようなゲームには興味ございませんよって感じのクラスの女子がなぜかこれを激しく絶賛しておりまして、アタイさあ、ゲームのことはよくわかんないんだけど、ドンキーは最高だと思うよ的なことをおっしゃってまして、当時の私は説明不要の逆張り王でしたから、周囲が評価するものをあえてやらない自分に酔ってまして、意識してやってなかったんですよ。
子供の頃すぎて記憶があいまいなんですけど、ドンキーコング64はかなりハマってましたし、ジャングルビートはゲームキューブで一番プレイした自信もあるし、太鼓の達人よりもドンキーコンガを叩いてましたし、たるジェットレースもかなりやり込んでました。
メインのシリーズ以外はほとんどプレイしてます。
そしてついに25年の時を経てオリジンに戻ってきたわけですけど、これがまあ面白い。
さすがにグラフィックは今の基準からだと見劣りするなと思ったのも束の間で、すぐにそんなの気にならなくなり、純粋に高水準の作品として引き込まれましたよ。
最近というかここ数年は毎週のように90年代テイストの作品がリリースされているので、むしろそういうタイプの新作として楽しめてます。

当時としては革新的だったグラフィックを全面にアピールする手法は正しいと思うのですが、絶妙なバランスや、やめどきの見つからないテンポのいい構成はもっとすごいです。
このままスーパードンキーコング2 スーパードンキーコング3とプレイしてドンキーコングリターンズをクリアして、トロピカルフリーズにも着手したい所存です。
完全新作も今年あたり出るんじゃないでしょうか。期待しています。

そして『スパイ教室』はドンキーコングのように最高の作品だといいたいのですよ。
2020年2月1日現在、ドンキーコングのようだというのは、私にとって最大級の賛辞です。

読む前の大雑把な印象としては、落ちこぼれの少女たちをスパイ学校で一人前のスパイに育てる話なのかなと。こんな感じなのかなと。

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だいたいそんな感じで全然違うんですけど、まさかまだまともな感想文が読めると思ってここにいる人は一人もいないと思うので、詳細は公式ホームページなどをご確認ください。

好きなポイントがいっぱいあってですね、根本的なことなんですけどまず作者の竹町先生の力量がすごいんですよ。
物語の進行は基本的に7人の少女たちの掛けあいなんですけど7人もいると映像があっても誰が誰だか把握が難しいと思うんですよ。こっちは文字だけなので、なおさらです。
スパイ教室ではかなり思いきった割り切りがされていて、原則、名前が出てくるのは2人だけで、残りの5人は髪の色と簡単な特徴でしか表現されてないのですね。
つまりモブ扱いなのかというとそんなことはなくて、ちゃんとそのキャラの内面や魅力を活かした描写もされているんですよ。何より覚えやすい。
スパイ教室の前に聖エセルドレダ女学院の殺人という小説を読んでまして、こちらも7人の少女がわちゃわちゃしてる楽しい話なんですけど7人全員名前があってしかも最初から一気に登場するので中盤くらいまでは本編と登場人物紹介をいったりきたりして、これ読んだ順番が逆だったら聖エセルドレダ女学院の殺人は途中で挫けていたかもしれません。
視聴者を混乱させない竹町先生のユーザーエクスペリエンス力に拍手。

まだまだ絶賛ポイントがいっぱいあるのにいっぱいいえないのは、スパイ教室01の最大の魅力の一つである、どんでん返しとその仕掛けについてふれないわけにはいかなくなるからでして、例えもうここを読んでる人が存在しておらず私は壁に向かって喋ってるだけだとしても、壁の中に人が埋まっている可能性もゼロではないので自重します。
個人的に作品の人気だの売上だのには興味ありませんし、そもそもそういうのってどこで調べられるのかわからないのですが、スパイ教室の人気ってどれほどのものなのでしょうか。
アニメ化するんですかね。

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アニメ化するみたいですね。早いですね。
映像化にあたって、あの仕掛けってどうなるんでしょうか。
映像化不可能っぽいですけど、むしろ映像化最適でもありますよね。
構成はかなり変える必要ありそうですけど、あの仕掛けに気づく人はかなり早い段階で気づくだろうし、そうでなければ種明かしで驚愕できるかなりフェアなトリックじゃないですか。
映像化で最も危惧すべきは妖怪ネタバレの存在でしょう。
絶対現れるじゃないですか。
第一話放映直前で、実はヒロインと主人公は同一人物って拡散するやつ。
こんな感じのそれっぽいデマを率先して流して対策していきましょう。
作戦名は『エストシーモア』で。

どんでん返し部分以外も魅力的なところがいくつもありまして、ラスボス戦もよかったですよね。
とりあえず現時点でこいつに勝つのは無理だろう、というわかりやすい最強キャラとのバトルって最近あまり見ていなかったので盛り上がりました。
戦闘中はずっとこの曲が流れてましたよ。

あまりに絶賛ムードだとうさんくさく思われそうで一つくらいマイナス点をあげつらっておいたほうがいいのかなと思ってあれこれ読み返していたら、一つみつけました。
かなり気になるポイントで矛盾といってもいいかもしれないところなんですけど、ネタバレポイントだし基本的にリアルタイムで鑑賞してたとき以外での引っかかりは完全な揚げ足とりだしロシア語でいうところのイチャモンなので却下します。

そもそもでいうと、こんな圧倒的に面白い作品に大賞という最高の称号を与えたファンタジア大賞は圧倒的に正しいし、なんて素敵なコンテストなんでしょうと思ったのですが、そもそもこの作品は大賞作品だけど大賞作品ではないという、ちょっと異質な作品なんですよね。
どういうことかといいますと、あとがきでもふれられておりますが、スパイ教室は元々の大賞受賞作品を全面改稿した、いわば別の作品なんです。

ちなみに本来の受賞作のタイトルとあらすじはこちらです。

『スパイは甘く誘惑される。学校全員の美少女から』
私、このタイトルだったらたぶん買ってません。
『ジャケ買い』の対義語である『タイトル避け』ですね。
いや別に悪いタイトルとはいいませんけど、なんというか、長いじゃないですか。
『スパイは甘く誘惑される。学校全員の美少女から』って。
『がんばれゴエモン3 獅子重禄兵衛のからくり卍固め』とほぼ同じ長さですよ。
名前がいいですよね。獅子重禄兵衛ししじゅうろくべえ
『スパイ教室』はシンプルだし言葉の並びがいいじゃないですか。
それにスパイ教室バナナシェイクって単語は嫌いな人がいないっていうじゃないですか。
あとは『スパイは甘く誘惑される。学校全員の美少女から』から『スパイ教室』に至るまでの内容の更新も思いきってますよね。
『リリィ・ベルガモ』から『LET IT DIE』への流れを彷彿とさせます。

センスのいいタイトル変更で思い出したのは、中国では販売が禁じられている『バイオハザード RE:2』を売るために『警察局に初出勤の日 リメイク版』という暗号を用いたエピソードには心温まりましたよね。


なんやかんやと書いてきましたけど、私、竹町先生のそこそこのファンになってますので、新作を心待ちにしてますよ。
要注目の作家さんが、デビューしてくれたと喜んでます。
受賞のコメントにある、絶対の自信があったのに落選した傑作も読みたいので、ぜひぜひ出版していただきたいです。
あと間違いなく出るスパイ教室02にも大いに期待しております。
スパイ教室の感想を読んでおりますと、今回かなり大胆かつ一度しか使えないネタを使っているので次はどうするんだろうという意見が散見されますが、スパイ教室というか竹町作品の魅力とは基礎のしっかりした魅力的なキャラクターであったり独創的な世界観や、ぐいぐい引っ張ってくれる構成力だと思うので、どんでん返し的な要素がなくても魅力が目減りすることはないと思いますし、もちろんなるほど次はこうきたかと驚かせてくれるトリックにも期待しております。
次からは発売日になった瞬間、ブックウォーカーで買います。
なぜKindleではなくブックウォーカーかというと、ブックウォーカーのほうがイラストの画質がはるかに高いからです。
実際にご覧ください。


Kindle版

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ブックウォーカー版

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これだとわかりにくいかもしれませんが、実際にタブレットなどで表示した場合にKindleとブックウォーカーでは画質と表示サイズがPSPとPS4くらい違います。
PS VITAではなくPS4です。二世代くらい先の画質です。
ただしブックウォーカーは全てのライトノベルのイラストの画質が高いわけではなく『めがイラスト』という仕様になっているもののみ高画質になっています。
ブックウォーカーさんにはぜひとも全てのライトノベルをめがイラスト対応していただきたく存じます。あとアプリに辞書機能つけてください。
そうしていただければ、全てのライトノベルをブックウォーカーで買いなおさせていただきますので。



人類はいつキングスマンの誕生を目撃できるのか。

ありがとうキングスマン
ありがとう竹町先生
ありがとうスパイ教室

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おめでとうございます!

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