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2022.2月 石巻ニューキネマパラダイス第六回「時をかけるアラフォー」

 石巻中央一丁目の空き家を活用し、映画・演劇を楽しめる「劇場」を作るシアターキネマ・プロジェクト。現在までに、DIYで行う解体部分の作業を終えた。今後は4月ごろに業者さんに入ってもらい、大きな工事やインフラ整備に入っていく予定だ。先日、若い夫婦が子連れで中庭の芸能神社にお参りにしに来てくれた。小さい子が楽しそうに施設内を走りまわる様は、疲れた体に一番効く。
 DIY解体作業中には、通りがかりの地域の人たちがよく声をかけてくれる。特に元気なのがシニア層。「楽しみにしてっからな!」「昔の名画を観てえんだ!」などという声。
 その多くが若輩者の僕らに期待をかけてくれたり、昔この辺りが文化の一等地であったことを丁寧に教えてくれたりする。そんなとき僕らはいつも圧倒される。かつてこの地域を思いきり楽しんだ世代の文化度の高さと元気さに。まだまだ楽しんでやろうという気概。その熱量たるや。
 そんな先人たちの姿をもう何年も街なかで見てきた。施設運営をしていく上でのテーマの一つが自然と「温故知新」になった。ありふれた言葉である。もちろん優等生ぶろうとしているのではない。歴史にはこれからうまくやっていくためのヒントが隠されているからだ。
 もちろん過去に学ぶばかりではいけない。これからの未来、劇場を楽しんでもらう若者にこそ、教えてもらわなければいけない。これから20年後、30年後に通りを歩いているのは今の若者なのだから。
 そんな思いもあり、少し前、地元高校生の課外授業の受け入れを行った。前回のコラムでも少しだけ触れた高校生対象のプログラムだ。僕らは取り組みを紹介しつつ、実際に街に出てもらい「地域の人がどんな映画を観たいか」のヒアリングを手伝ってもらった。
 彼女たちは、映画はほとんど観ないらしい。「推し」が出ている作品やアニメであれば、シネコンや仙台の劇場に観に行く。家でYoutubeで観ることも多いらしい。コロナの影響もあるのだろう。
それにしてもシニア世代の方々と、今の若者たちの文化に対するモチベーションの差はなんなのだろう。その中間に当たる30~40代からは「石巻には何もないから」と聞くことが多いし、そう考えて石巻を出ていった人をたくさん見てきた。
 一方で震災後には、この何もない石巻にしかないものを見つけ、この街をわざわざ選んで移り住む人も増えている。僕もそうだ。東京には何でもあった気がしたけれど、あった気がしただけだった。石巻の方に面白さを感じて帰って来たのである。たぶん目に見えないその何かは、劇場で暗転の最中に姿を現している。そしてその色はきっと、劇場を出た時にジジジと笑っているネオン看板の灯と同じだ。作品を観た後のワクワク、ハラハラする時のあの感じと、この街での暮らしの面白さは似ているから。
 街に生きる若い子たちがシニア世代になったとき、いつも声をかけてくれるおじさんたちのように、あんなにハツラツとこの街の歴史を語れるだろうか。そしてそのために劇場にできることはあるのだろうか。
 ちなみに例の高校生たちからは、授業の最後に劇場に欲しいものを聞いた。“買い食いできるおやつが欲しい!” “カラオケがしたい!” “Wi-Fiが必要!” “映えスポット!”……アラフォーになった僕らでは思いつかないような大胆なアイデアばかり。

 これからは「温新知新」もテーマに掲げなければならない。 矢口

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