沸騰親父#1
今日は朝から雨。
たぶん、お父さんたちは家にいるんだろうな…
玄関のカギを開ける前に、中から
「ジャラジャラ、ジャラジャラ」と音が漏れていた。
「やっぱり居るのか?」少し残念な気持ちになった。
玄関を開けると、6畳と台所の狭いアパートに大人4人が麻雀の卓を囲んでいる。
お昼には出前で頼んだラーメンの器などが部屋の端っこに置いてあった。
ボクが学校から帰ると、大人たちが
「おかえり〜」ってボクの顔も見ずに挨拶をしてくれる。
いつものことだけど、雨が降るとお父さんの仕事は休みになるんだった。
外での仕事だということしか知らなくて、何の仕事かよくわかっていないんだ。
ボクは、その狭い部屋で宿題を終わらせてしまい、でも外は雨だから遊びにはいけない。
何もすることがないんだ。でも、決まってこう言われた。
「外へ行ってこい」
お父さんは、いつもこう言う。ボクは友達がそんなに多くないから、行く所なんてないんだけど。
仕方なく外に出ていこうとすると、ひとりのおじさんが
「タバコ買ってきてくれるかい?」って。
「じゃ、俺のも」という具合になりお使いに行くんだ。
いつものタバコ屋に行って、銘柄を伝えると
「いつものと違うんだね〜。誰か来てるのかい?」
「うん。お父さんのお友達が来てる。で、頼まれたから。」
まあ、これもいつもの会話なんだ。
すぐに帰っていくと、誰が勝っているかはよーくわかるんだ。勝っている人はボクにチップをくれる。負けてる人はくれない。
その時のお父さんの表情はいつも見逃さないようにしている。
このあと、みんなが帰ったあとの機嫌がまるで違うからだ。
明らかに出かける前と違っていたのは、一升瓶が空になって、2本目が口を開けていたことだ。
(お父さん、今日は負けてるんだ…)
本当にわかりやすい人なんだな。でも、この後の機嫌は消して良くはない。そう感じた。
この場にいたくなかったので、また外に出かけた。行く場所なんかないんだけど。雨に濡れない公園で時間をつぶそう。
黄色い傘を差して水溜りを避けながら、ゆっくり歩いていく。
「雨の日は、イヤだなあ」