見出し画像

弾丸金沢旅行記〜スマホを破壊して旅に出よう!〜


金沢弾丸旅行の経緯

「カナザワ映画祭」という映画祭の応募作品の長編映画の字幕翻訳を担当した。長編映画は初めてですごく時間がかかったし大変だったけどすごく楽しかった。無事納品できて満足だったんだけど、実際にパンフレットやHPに自分の名前が載っているのをみて想像以上に嬉しくて、その嬉しさのままノリで金沢まで来てしまった。

金沢には大学生のころ2回程訪れたことがあったが、上辺だけをなぞっていた感じが否めず、今回初めてちゃんと金沢に触れたなという感触があった。想像に反して今までで一番楽しかった一人旅行になったので記録しておく。

21世紀美術館 シアター21

自分の担当した映画にギリギリ間に合いシアターに入ると、約40人の方が観ていて予想以上の人数にびっくり。もちろん自分が訳したものがそのまま映し出されたわけではなく修正済のものではあったが、それでも自分の訳がこれだけの人に見られているのか…とドキドキした。ブツ切りで作品を観ることが多かったので通して観るとやっぱり面白くて、時々笑い声も起こっていてよかった。
嬉しくてカナザワ映画祭のかわいいTシャツも買った。

かわいいね




21世紀美術館

やれやれ良かったぜと思い、常設展と企画展のチケットを購入。どちらも素晴らしかったが、一番気に入ったのは企画展のこちらの作品。


エル・アナツイ『パースペクティブズ』
私、美術館の天井が高い部屋だいすき!

金属ボトルのキャップ、牛乳缶の蓋、アルミの帯など廃棄された多様な素材でこれだけの大きさのものを作り上げるのすごすぎる。なんと12mもあるらしい。

本作の説明で好きな部分があるので引用する。

人の手を介して有機的に絡まり合う様子を示し、共有した時間の流れがそのまま織物になって顕現化したものである。

「Lines-意識を流れに合わせる」出品作品リストより


この大きさに圧倒されたというのもあるが、これだけの廃棄物がいろんな人の手に渡り、最終的にエル・アナツイさんが紡いだという背景にも感動し合計30分くらい見ていた。

このオレンジの布がある部屋を出ては「やっぱもう少し見ていたい!」と入室するのを繰り返していた。迷惑な客である。各部屋に必ずいる学芸員?の方は私が入る度に椅子から立ってらっしゃったので、私が「立たなくていいですよ…」と声を掛けたら「いえ、1人でもお客様がいらっしゃったら立つというルールですので」とピシャリと言われた。そりゃそうだよな…。

あと、この卓球台。

ガブリエル・オロスコ『ピン・ポンド=テーブル』



実際に卓球をできるようになっていたので、1人で来た事を少し後悔した。この台で卓球をやりたかった…。1人で来ている方に「一緒にやりませんか?」と声をかけることもできたが、その時の私には無理だった…。無念。

そんなこんなでご飯食べたり色々ありつつ3時間ほどかけて企画展と常設展を2周ほどした後、野外の上映会に赴いた。


谷口吉郎・吉生記念金沢建築館

ここを訪ねるのは2回目だったが、1回目はほぼ記憶がなく、まあ一応行っておくかぐらいの軽い気持ちだったが本当に良かった。

幸運なことに、特別展が「金沢診断」についてだった。この特別展が金沢の街の歴史を知るのにピッタリで本当に良かった。

「金沢診断」とは戦後各地で進められた急速な近代化と、金沢らしい伝統的な街並みの調和を図りながら街づくりをすることを目的とした取り組みだ。私は戦後金沢の街づくりについて全く知らなかったので全てが未知で埋め尽くされていてよかった。
戦災がなかった金沢は、他都市に比べ近代化が遅れていたらしい。そのため市民からは「戦災すればよかったのにね」なんという皮肉の声もあったとか。
当時の西洋に対する憧れは今と比じゃないだろうから、不謹慎とはいえそういうこと言いたくなるのも分かるなあ…と思った。でも急速な西洋化に対して反発する声もあって、「金沢診断」はそこから生まれたのだ。そういう極端な揺れを経験しながら、今のような、古い町並みと新しい建築物が共存した今の金沢(金沢駅より北は開発地、南は昔の街並みを残している)になったんだなと思うと感慨深くて、その後の観光にも効いてくる知識だった。

常設展も素晴らしく、赤坂の迎賓館の游心亭にも行きたくなった。以外とお手軽に見学できるようなので、さっそく行ってみようと思う。

さて私はこの日、スマホを壊してしまった。旅先でそりゃないよと落ち込んだが、これがかなり良かった。スマホがないとこれだけ観光に没頭できるのかと驚いた。驚くほど集中力が違った。新しい知識を得ている時間がスマホによって遮断されることがないから、観光が地続きなのである。「さっきみたこれとあれは関連しているんだな」などの気づきも得やすかった気がする。観光地だったのもあり、地図も道端にたくさんあるし、困ったら人に聞けばなんとかたどり着くことができた。そういう訳でこの先はあまり写真がない。


鈴木大拙館

こちらも訪れるのは2回目だが、やはり良かった。本当に心を空っぽにしてただそこに存在できる。思索の部屋で寝転んだり水庭の縁に座ったりしながら30分ほど瞑想した。
SNSや将来の不安や仕事のことを気にすることなくただ天井や水庭を見ていられる時間、なんて希少でかけがえのない時間なのだろう。最高だった。鈴木大切の「無心とは何か」という本を買った。


石川県立図書館

鈴木大拙館が名残惜しくなかなか出られずグズグズしていたら、乗る予定だった新幹線に乗り遅れたため開き直って石川県立図書館に行った。
ギリギリにタクシーに乗り、「金沢駅まで!」と言った20分後、運転手さんに「申し訳ないんですが、間に合いませんねえ…」と言われた瞬間に、「じゃあ図書館に向かってください!」と言ったので驚いていた。駅とは真逆の方向だった。
運転手さんは能登で被災して金沢に引っ越してきたという話をしてくれた。ご家族も皆無事だったらしい。良かった。

ため息が出ます。
そりゃあ人気になるよね。


石川県立図書館に訪れるのは初めてだった。
今まで訪れた中で一番良い図書館だったかもしれない。(暫定1位は岐阜県のメディアコスモスだった)
建築が良いというのはもちろんのこと、本の配置の仕方がよかった。本屋のような作りになっていて、表表紙が見えるような配置できる棚が多いのが印象的だった。本棚の上には遠くからも見ることができる「好奇心を持つ」や「仕事を考える」、「世界を知る」等の大きな表示がある。図書館に入った瞬間にその大きな表示が全方向に見えるつくりになっている。「この本を借りに来た」という明確な目的がなくても、ボヤっとした目的に合わせてそこを目指せば、全く知らない本に出会えるようになっている。素晴らしい。
普段本に触れない人にも優しいし、何を読んでいいか分からず、本の探し方も分からない等の悩みを抱える思春期の子たちにも親切な作りだなと感心した。自習できる机も多い。幼児用の絵本スペースもかなり広く充実していて、すべての年齢の人が自身の知を広げることを応援している図書館だなと思った。


今回、初めて地に足のついた金沢旅行ができて本当に良かった。
谷口吉郎・吉生金沢建築館で金沢の街の作りを知れたのがデカかったと思う。初めて金沢に行く人はまずここに行ってから、それぞれの観光地に行くといいんじゃないかと思う。(「金沢診断」が特別なのが惜しい…。あれは常設展にした方が絶対に良い。付箋に感想を書けるコーナーがあったので熱烈にその旨を書いておいた)
そしてそれを集中して見ることができたのはスマホが壊れていたからであり、壊した自分を改めて褒めてやりたい。
この経験から日常でもスマホに触れる機会を少なくできないか考えている。スマホ解約は現実的ではないにしても、ゆくゆくはipadとガラケー2台持ちにして、外出時はガラケーだけ持つというルールはどうかなと考えている。
困るのは地図と音楽だが、地図はガラケーでも見れるということを知った。音楽はipod nanoをまた使い始めようかなと考えている。とにかくせめて外出時はスマホはいらない。私の敬愛するエマワトソンのスマホは常に意図的に電池を切らしているらしい。やはりそれが幸せに生きる方法だと思う。

近いうちにまたすぐ金沢に行きたい!日本の中でもかなり好きな場所になった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?