グリエルモ・サカラはなぜ消えた?
「アイツの暮らしは今のオレよりみじめなもんだった」
アルテロは言った。ウェストサイドの端の端、ゴミ溜めじみたこのボロ屋が彼の城であり、再開発以前の街の様子を知らせる唯一の名残だ。
「日々の食事にも事欠く有様だったとか。それに……」
「ハ!」頑固爺が若い記者を嘲る「見た風に語りよる。なら昔話はいらんだろ」
「とんでもない!それを聞きにきたんですよ」
キースは焦った。グリエルモの半生を追うため、彼の機嫌を損ねてはならない。だが疑念もある。謎めいた稀代の成功者に、この貧しく哀れな老人が本当に関係してるとでも?
「フン。……あれはクズだったのさ。酒癖も最悪、皆が毛嫌いしとった」
しかし、と老人は続ける「あるとき奴が急に言い出した。「オレにはガキがいたらしい。ソイツのためにも真人間になりたい」ッてな」
「えっ?」
鼻白んだ若者を見、アルテロはニヤリと笑う。
「不思議だろう。ありゃア生まれた頃から種無しだったってのによ」
【続く】