『イット・カムズ・アット・ナイト』感想

トレイ・エドワード・シュルツ監督、ジョエル・エドガートン主演。2017年公開。

評価★★★☆☆(3.0)

※感想は若干のネタバレを含みます

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<あらすじ>

手足に発疹が出て口からどす黒いゲロを吐いちゃうゾンビチックな感染症が蔓延した世界が舞台の映画。ジャンルとしては心理ホラーというか、「結局一番怖いのは人間なんだよなぁ......(ニチャァ)」って感じのアレです。ホラーとしては「結局(略)」系なのでゾンビが襲ってくるとかはないです。トラヴィスの夢で"病気"になったおじいちゃんがでてきてビクゥッってなるぐらい。なのでゾンビ映画っぽい展開はないです。人は撃ちまくるけど。

主人公ポールは都市部で蔓延する"病気"から逃れ、妻サラと17歳の息子トラヴィスと共に義理の父の所有する森でサバイバルしていた。物語の冒頭でポールの義理の父が"病気"にかかってしまい、感染を恐れたポールはまだ息のある義父を殺しその死体を燃やした。悲しみに暮れる一家であったが、その夜に侵入者がやってくる。侵入者の男を手際よく拘束したポールはその男を詰問すると、彼にも妻子がおり遠くの小屋から水を求めてやってきたのだと聞く。男の名はウィルといい小屋に家畜がいることを知った主人公一家は、場所を知られてしまったこともあり、ウィル一家と共同生活をはじめるが.....

<雑感>

90分くらいの映画なのですが、冒頭からずっとハラハラして共同生活の最初ぐらいは穏やかであとはずっと緊迫したシーンの連続でダレなかったのがよかった。ストーリーのテンポはよいけど尻切れトンボ感もあり、ちょっとひねった感じの結末なので鑑賞後モヤっとするというか、レビューサイトとかを見て補完しないとよくわかんない印象も受けた。というのも、監督が意図的に隠したり誘導するような撮り方をするシーンが多くて(ラストでウィルの息子のアンドリューの姿を全く映さないなど)、多数の解釈ができるつくりになっていた。それゆえにはっきりとした描写がなくトラヴィスの見る夢?現実?による混乱も相まって、モヤっと感というか結局なんだったの?という感想になっちゃいました。

ただどう解釈したとしても後味は悪いのでそういう系の映画が苦手な人は見ないほうがいいと思います。ただメタクソ悪いかと言われるとそんなに......。

主人公たちの選択が完全に裏目って最悪なことになってしまうのですが、あの極限状態ではそういう選択をとるしかないよね......と僕は思いました。

それは映画のつくりが『ミスト』のように主人子たちが正しいという印象を与えるためにそう思えるだけで客観視すると主人公一家はますます最悪なので、ウィルたちのことを思うとやりきれない......やっぱ後味悪いわ、これ。

<疑心暗鬼という"鬼">

閉鎖空間、感染.....と聞くと何となく昨今の新型感染症の流行を想起してしまいますね。ことあるごとに主人公たちがありえんぐらいごついマスクと手袋を装備するので笑ってしまった(笑い事ではない)。

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最近は洗って使えるタイプの普及もありどこへいってもみんなマスクをつけてて、むしろマスクをつけないのは非常識というか肩身が狭くすら感じます。マスクは「自分が感染症にかからない」だけでなく「相手に感染症をうつさない」ための装備でもあるためそれを身に着けない人は感染源になりうるわけで、疎ましく思われるのかなと思います。でもそれってマスクをつけていない人が感染していた時に成立する話であって、現状ではその確率は極めて低いだろうにマスクつけない=穢れみたいな風になっていて......。それは「ある人が感染していて、かつ自分にそれをうつし得るかどうか(感染原性)」という精密検査でやっとあきらかになる潜在的な性質を、マスクの有無という視覚的にかんたんに把握することができるからかなと思いました。

映画の話に戻すと、自分や家族の身を守るには「疑」から入るしかなく、そのために主人公はウィルを木に縛り付けて、感染を確認したり道中で遭遇した盗賊を逡巡なく殺したのだと。

自分の家族しか信じずウィル一家を疑いきった主人公は結果として大きな過ちを犯してしまったが、彼らを疑わなければ残った5人で共同生活を続けることができただろう。なんか、疑心暗鬼ならずお互いに信じあうことが大切~みたいな道徳の教科書めいた教訓に着地してしまった。

とはいえ主人公がずっとウィルたちを疑っていたかというとその限りではなく、ウィルとウイスキー?ブランデー?を飲むシーンがターニングポイントかなと思った。(ここで金属製のカップでお酒飲むシーン、かっこよくて美味そうですごいすき)

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ここでなぁーー!ここで開きかけた心のトビラ、締めきっちゃったじゃん。ここでウィルが「ん?」ってなること言わなかったらなぁーー!多少は結果違ってたんじゃないのかーー!??えぇ?。酔いも回っていろいろ話してさ、ポールも「こいつらのことちったぁ信用してもいいかもしれんな......(ポリポリ)」ってなったかもじゃんか。貴重なお酒あげるくらいだから、結構信用してたでしょ、あの時点では。そしたら、あんな......あんなさ、あーーもう、あーーー!クソッ(悶え死に)

<まとめ>

「結局は(略)」ものの心理ホラーで、テンポが良くて盛り上がりもあったし純粋に面白い作品だった。結末の解釈とかはレビューサイトとかを見たり補完する必要はあると感じた。いろんな解釈ができるので誰かと一緒に見て議論してみるのも楽しいだろう。

個人的には祖父から感染していたトラヴィスが夢遊病で外出しイッヌを殺害、面倒見てたりしたうちにアンドリュー(ウィルの息子)に感染という解釈がしっくりきた。

ストーリーはずっと不穏で、結末も後味の悪いものになっていてそういうのがすきなひとはとても楽しめると思う。

90分でまとまっていて(僕は集中力が無いので短い映画がすきだ)ダレるシーンもすくないので内容はヘビーだが気軽に摂取できる映画だった。

筆:葉入くらむ



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