『#生きている』~引きこもり系ゾンビ映画~

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評価 ★★★☆☆(3.0点)

※感想はネタバレを含みます。

<あらすじ>

マンションの一室で父母姉と暮らす男子高校生?のジュヌは一人家の留守番を任されていた。学校をサボって『PUBG』っぽいネトゲに熱中していた彼だが、興奮気味のネトゲ仲間からテレビを見るように言われる。テレビでは「未知のウイルス」の流行と凶暴化した人々の姿が映し出され、自分の住むマンションにも異変があることに気づく。部屋に入ってきたお隣さんがゾンビ化するのを目の当たりにしてウイルスの危険性を認識したジュヌは、お隣さんを追い払ったあと、SNSに自身の状況をアップし「#生き残る」と投稿し、生き残る決意を固めるが......

<向かいのマンションにいくだけで死ぬことがある世界の都市型サバイバルガイド>

銃!病原菌!鉄(チェンソー)!派手な武器でゾンビを圧倒する爽快なアクションがゾンビ映画のキモだったりするのだけれど、舞台が韓国ということもあり、この映画では基本的には重火器は出てこない。主人公のメインウエポンはゴルフクラブ。

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派手な武器はないが、本作ではドローンが活躍する。向かいのマンションの生存者と物資のやり取りをするためにドローンでロープを渡らせたり、部屋に侵入しようとしたゾンビを妨害したりと大活躍する。

都市でのサバイバルとしては隣の部屋に侵入して食料や装備を漁る場面もあるのだが、物資漁るのちょっと遅くないか?食料・水不足が序盤に示されるのだが、そこから食べ物を漁るまでのテンポが悪さが気になった。

物資の問題に関してはファンタジーで、もっと『オデッセイ』とか『神々の山嶺』みたいなドキュメンタルな描写を期待していたので、そこは、まぁ......

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(夢枕獏『神々の山嶺』より)

とはいえ電話越しに家族の断末魔を聞くシーンとか、ヘヴィなところもちゃんと描かれていた。

<「生き残る」ということ>

タイトルのとおり本作は「ゾンビが蔓延した世界でサバイブする」というのがゴールなのだけれど、本作におけるもっとも強大な敵は、ゾンビでも巨大製薬会社でもなく先の見えない不安な未来、絶望なのだと思う。

ジュヌ(主人公)は家族の死がわかったときに部屋で首つり自殺を試み、そのときに向かいのマンションの生存者、ソンユに助けてもらう。他に生存者がいることに希望を見出したジュヌは彼女と物資を送りあうことで平静を取り戻す。そして物語の終盤ではゾンビに部屋の周りを囲まれて絶望したソンユに自分を殺してほしいと頼まれる。(コロシテ...コロシテ......みたいな展開)

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結果としてジュヌはソンユを殺さず、生き残ることを選択し、屋上にやってきた軍のヘリによって二人は助かる。

自殺しようとしていたジュヌがソンユに助けられ、ソンユの自殺をジュヌが防ぐという構造になっている。彼らの関係はただピンチを助け合うのではなくて、自殺という精神的な諦め、絶望にたいして互いに希望を与えあった関係として描かれていた。このシーンを見て、僕はなんとなくフランクルの『夜と霧』を思い出した。

「人生から何をわれわれはまだ期待できるかが問題なのではなくて、むしろ人生が何をわれわれから期待しているかが問題なのである」

家族との死別、マンションに集まってくるゾンビたちという現実に絶望し、人生に期待できなくなったジュヌは、自分を助けてくれたソンユを、彼女の絶望から救いだすことで、自分の人生に応じ報いることができたんじゃないか。

<まとめ>

本作は「ステイホーム×ウイルス」ということで注目されているようだったが、展開としては王道で目新しさはあまりなかった。

タイトルに#ハッシュタグがあるがSNSを活用するシーンはほぼなくてそこがちょっと勿体ないと思った。SNSでサバイバル術を教えてもらったり、ドローンで物資運んでもらったりとかスパチャ貰いまくるみたいな展開があってもよかったんじゃないか。SNSによる一対多の関係よりも向かいの生存者との一対一の関係を撮りたかったのかな......。

100分ほどでサクッと観れてキレイにまとまっているので、おすすめです。

筆:葉入くらむ

おまけ

同じくゾンビの蔓延した世界の籠城戦を描いた名作。独特な世界観を練っていてリアリティがある。登場人物がかわいい(重要)。


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