『はりぼて』カラスを見つめる私たち
富山チューリップテレビ制作のドキュメンタリー。
評価:★★★★☆(4.0)
感想はネタバレを含みます(実際に起きた事件なのでネタバレもクソもないが)
<雑感>
かねてより耳にしていた話題作。富山市のドキュメンタリーということで金沢のシネモンド(香林坊東急スクエア4F)で上映していたので、部員数名で観に行きました。シネモンドも昨今の社会情勢の変化のあおりを受けていないか心配でしたが、クラウドファンディングなど工夫して経営してるようでした。午後9時くらいの上映でしたがなかなか盛況でした。(以下内容)
富山市議会で起きた一連の政務活動費の不正利用事件をめぐり、地方テレビの記者らが不正の調査、報道によって市議会の暗部を明らかにする......といったあらすじのドキュメンタリーだった。
全体のつくりとしてコミカルというか、シュールギャグっぽさがあった。
記者がいろんな市議に対して不正利用について事実関係を問い詰めると、どの市議ものらりくらりとかわしたり、喧嘩腰で応答したりする。
でもだいたいみんな不正してるので、稚拙な隠蔽活動を記者らが調査→報道→謝罪&辞職の流れになる。
これがもうパターン化しちゃって、もう結果が見えちゃってるから「お前もかい!」的なオモシロになっちゃってる。映像はしごく真面目に作ってあるのだけど、それゆえに笑ってしまう場面が多かった。いや事態としてはぜんぜん笑えないんだけど。実際、追い詰められた議員はコントみたいな振る舞いをしちゃうし。鑑賞後、「これモキュメンタリー(フェイク・ドキュメンタリー=ドキュメンタリーという体で撮影されたフィクション)だっけ?」みたいな会話も出た。
不正の発覚から辞職ラッシュをテンポよく撮っているんだけれど、その中でも「さらなる闇」が見え隠れしている。
不正が発覚したが、着服した金を返納して市議をつづける者。「制度上の理論」で市議の不正について謝罪もコメントもしない富山市長。
一連の不正について声を荒げ、激しく追及した新進気鋭の市議は、女性事務員の机を物色したとして不法侵入で罰せられ、辞職させられた。
そして、報道サイドもきな臭くなってくる。一連の事件について中心的に調査していた砂沢記者は「昇進」という形で現場から離され、共に報道・取材にあたっていた五百旗頭キャスターは退職する。
本当に最後の方に少しだけ、報道の闇に触れてこのドキュメンタリーは終わってしまった。
多分チューリップテレビ内部でもいろいろあって、こういう形にまとまったんだろうなぁ。地方行政だけでなく報道のありかたについて取り上げることの困難さを感じた。
<カラス(不正)と、それを見つめる私たち(有権者)>
このドキュメンタリー、基本的にインタビューと議会、会見で構成されているのだが、政治家も公務員も映っていない印象的なシーンがある。
それは富山城址公園での取り組みを取材したシーンで、「カラス居座り禁止」の看板を立てた意図について管理者が話している。
(作中では何度かカラスのカットが暗喩的に差し込まれていた)
そこでは「カラスは人間の文字を理解することができないけれど、この看板を見た人々が注意をむけることで、カラスも警戒して寄ってこないのではないか。そういう効果を期待している」と語られる。
これがまさに『はりぼて』の主題だろう。
カラス=不正を行う政治家たちは、その不正を悪とも思っていない。それならば、それを悪だと理解できる私たち有権者が、彼らに注目することで、不正を防ぐしかない。
富山にはカラスがたくさんいたが、自分の住む地域にはいないだろうか。
少しあたりを気にして、曇天を歩む。
筆:葉入くらむ
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