パニックホラー好きが死霊館ユニバースを見てみた(羊歯ヤモリ)

・はじめに


死霊館ユニバースとは2013年に公開された『死霊館』から始まった一連の作品群を指す言葉であり、” もはやマーベル(MCU)に匹敵すると言っても過言ではないほど急拡大を遂げるメガヒットシリーズ”(『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』パンフレットより引用)である。
また、本文は最新作『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』日本公開前に執筆したものである。

・死霊館ユニバースの特徴


キリスト教的な悪魔観を土台に作られたクラシカルなホラーで、十字架や祈りに弱い、灯りを嫌い暗闇を好む、と言ったステレオタイプな悪魔が登場する。実話を元に製作されているためかあまり人が死なない。ユニバースに登場する悪魔は物を動かしたり登場人物の背後を取ったりする能力には長けているが、殺傷力に関してはそこまで強くない。そのうえ殺せるチャンスを逃しがち。パニックホラー、スプラッタホラーを見慣れている皆さんは死霊館に登場する悪霊たちにはもどかしさを覚えてしまうだろう。そんな殺人に不慣れな悪霊を見ながら応援上映してみるのも面白いかもしれない。ちなみに殺害の瞬間は画面に映らないので盛り上がりに欠ける。
話の展開としては人間同士のゴタゴタが少なく、悪魔の仕業という情報がすぐに共有されるテンポの良さも特徴的。最初は疑うが、すぐにポルターガイストや霊が現れることで霊の存在を信じる。死霊館の霊はステルス能力が高いわりに目立ちたがりなのかもしれない。

映像面では長回しで各人物の行動を連続的に映すという手法がよく見られる。序盤で明るく綺麗な映像を使い、後半は画面も雰囲気も暗いというペース配分は悪魔が暗闇を好むためだろうか。暗いとはいってもそこは流石A級映画ということで画面が見づらいといったことはない。死霊館っぽい映像を撮るなら長回しや画面の明るさを意識すると良いだろう。

・各作品感想


・死霊館
悪霊は人や物を吹き飛ばし、パワーはかなりのもの。しかし人を殺すには誰かに憑依して刃物で攻撃しなければならないというか弱き生き物(死に物)。家具を吹き飛ばすポルターガイスト衝撃波で包丁も飛ばせないものだろうか。正体は魔女狩りで処刑された人の親戚。要は一般人だがそれにしては強力な霊といえる。憑依せずとも動物や人を奇行に走らせるのが得意なようで嫌がらせ力はなかなかのもの。
目隠しかくれんぼをするシーンは緊張感があって良い。音響がしっかりした部屋で見るなら一緒に目を閉じて音だけの雰囲気を味わってみるのも一興。

・アナベル 死霊館の人形
悪魔崇拝者によって人形に憑依した悪魔がメインヴィランだがキル数は悪魔崇拝者の方が上(ワケあり)。前作の魔女が作中で動物しか殺せなかったことを考えれば悪魔の頑張りは評価したい。ちなみに悪魔は契約をしないと魂を奪えないとかいうクソシステムがあるらしい。死霊館ユニバースの悪魔が基本的に嫌がらせ程度の攻撃しかできないのはそのせいなのだろう。あと思ったより人形が動かない。チャッキーを期待して見るとちょっとガッカリ作品かもしれない。棚から本を落とすというホラーにあるまじき可愛い攻撃をするアナベルちゃんに萌えてみるのも一興。

・死霊館 エンフィールド事件
原題は『The Conjuring 2』で『死霊館』の続編。敵は地獄の大総裁という肩書を持つ大悪魔、これは絶対強い。ポルターガイスト現象を起こしまくり、他の霊や怪異さえも操り嫌がらせをしまくる大総裁。肝心の作中キル数は0、名前を呼ばれると地獄に帰る。弱い。(そして何故か自分から名前を教えてくれる。)それにしても地獄の大総裁がわざわざ貧乏一家にポルターガイストを起こして嫌がらせをするのはどうなんだ。どうにも名前負けしている印象が拭えない。
尼僧の姿をした悪魔という見た目は良い。へそ曲がり男というこれまた見た目が良い怪異のスピンオフも予定されているとか。

・アナベル 死霊人形の誕生
アナベル人形誕生秘話、人気が出たのでオリジン(原点)が作られたパターン。前々作でのキル数を払拭するかのような暴れっぷりを見せてくれる。前々作の補足としても理想的な作品であり、アナベル人形の恐怖の格を一気に押し上げてくれて非常に満足。しかしやっぱり人形自体はほとんど動かない。シリーズ通して人形自体の扱いが悪いのはちょっとかわいそうでもある。
憑依された人物が悪魔へと変貌するシーンは『範馬刃牙 』のピクルが本気になった時の変形に似ている。

・死霊館のシスター
エンフィールド事件で登場した悪魔の掘り下げエピソード。相変わらず作中の殺傷力は低いが作中以前にたくさん殺したらしい。尼僧を自殺させたり神父の片目を失明させたりと作中でも頑張っていた。嫌がらせ方法は顔や肩を掴んだりめっちゃ吸い込んだり吹き飛ばしたりとなかなか物理的。
作品としては山中の修道院という舞台もあり、まるでファンタジー映画のような映像。十字架が乱立した墓場も不気味ながら美しい。しかし、展開がどこかロールプレイングゲーム的で、予定調和に事が進み、起承転結の転がいまいち弱い印象。
なぜ悪魔が尼僧の姿をしているのかは結局謎のまま。神父を墓にぶち込んだが自分も墓の中に入っちゃっうドジっ娘シスターな悪魔に癒されてみるのも一興。

・ラ・ヨローナ~泣く女~
過去作とはほとんど繋がりのない独立したスピンオフ作品。狙うは子供だけ、水辺では神出鬼没だが水の無い場所では徒歩で移動など妙に律儀な元人間の悪霊が登場。民間伝承の悪霊であり、あまりキリスト教とは関係なさそうだが十字架が弱点。やはりキリスト教の排他パワーは偉大だなぁ。

・アナベル 死霊博物館
アナベル人形をはじめとした様々な呪物が登場、頭数揃えてキル数ゼロ。烏合の衆とはこのことか。とはいえ直に包丁で攻撃してくる霊や足を掴んで動きを制限してくる玩具など仕事をする意思は感じるので頑張ったで賞。変な見方をしなければ過去作で暴れたアナベル人形が逃げられない空間で攻撃してくるという恐怖は十分にある。
ちゃんとした聖職者が登場せず、死霊館ユニバースの中では異質な作品であり普通のB級ホラー感がある。視聴者からのヘイトを集める陽キャや土壇場に強いナード系男子も登場して盤石のいつメン。
あと主人公のジュディちゃんが可愛い。

・総評


高品質な映像や音楽を使った王道演出を多用するためホラーの入門に良いが、クラシカルなだけあってジャンキーな見方には向いていない。キリスト教の宗教観がモロに出ており、悪霊への対抗手段が聖職者や十字架で、悪霊各々の弱点を見つける推理要素が薄いことも賛否がわかれそうなところ。悪霊と対峙した際の、十字架を掲げて祈りを唱えるという地味な絵面も問題点。また、視聴後に恐怖が後を引かないという点も賛否両論だろう。これは日本人には馴染のない風景や行動が多く、現実とリンクしないことで、もしも自分もこんな経験をしたら…、という懸念が湧かないためだ。心霊現象のほとんどが偶発的に主人公に襲い掛かるという展開も、視聴者に原因となるような行動を意識させない作りとなっているため日常的な行動で恐怖をぶり返すということもない。良く言えば気軽に見られるホラーということになるが、恐怖体験を求めてホラー映画を見る層にとっては物足りないものとなるだろう。
割と向き不向きがあるタイプの映画だと思うが“もはやマーベル(MCU)に匹敵すると言っても過言ではないほど急拡大を遂げるメガヒットシリーズ”になっているのは少し不思議。シスター悪魔やアナベル、ジュディちゃんに癒される萌え的な人気なのかもしれない…。

過去作を見なくても問題なく見られる作品ばかりだが、アナベルシリーズは公開順に見ることをオススメする。

・最新作『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』について
元ネタと言われる『アルネ・シャイアン・ジョンソンの裁判』では有罪だったが、殺人罪の刑期としては非常に短い五年の服役で釈放された。つまり実話通りなら『悪魔のせいなら、減刑。』である。
死霊館ユニバースの世界観ならば霊や悪魔の存在はそれなりに認知されていそうなものだが過去作を見たところ意外とその認知度は低いようで、やはり無罪判決は難しいのではないだろうか。エンフィールド事件で警察も霊に関わったはずなのにその辺りの法整備がなされていない世界観なのはどうにもシリーズが続くことを想定していなかったような雑さを感じてしまう。法廷という特に現実世界を意識した舞台で死霊館ユニバースを展開するのは難しそうなものだが一体どうなることやら…。

・メインヴィランまとめ


・バスシーバ
生前からちょっと頭のおかしかった地縛霊。悪魔並みのポルターガイスト現象を発生させられるが、憑依した人物を完全に支配できなかったり無免許悪魔祓いで地獄に送還されたりと所詮は人間霊といったところ。

・アナベル人形の悪魔
アナベルの人形に憑依していたアナベルを騙った悪魔、ややこしい。人間の魂を奪うことに執着し、色々と動き回るが実際に回収できた魂はおそらく二個ほどで労力に見合っているのかどうか…。一般人に召喚されたわりにかなり強力な悪魔で、憑依した人間の人格を完全に消し去ったり、死体をゾンビに変えたりと『死霊人形の誕生』では大暴れ。しかし時系列が進むにつれて大人しくなっていった。盛者必衰の理をあらはす。

・ヴァラク
地獄の大総裁の異名を持つ大悪魔。作中以前には大暴れしたようだが作中ではどうにもパッとしない戦績を持つ。十字架が効かなかったり、封印にはキリストの血を要したり(アナベル人形は聖水で封印可能)と対キリスト教性能は高めだが、名前がバレた相手には地獄への強制送還を許してしまう致命的な弱点がある。

・ラ・ヨローナ
水辺を得意とする人間霊。子供だけを狙う悪質さを持ち、大人が現れると一撃与えて逃げるヒット&アウェイ戦法を得意とする。防御面はかなり貧弱で素人の十字架物理攻撃で散滅してしまった。

なんか全体的に弱い…。

ゆにば

""  ""だね…。

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