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クロスレビュー「ベイビーわるきゅーれ」


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『ザ・ファブル』のような殺し屋が一般人に擬態するような話かと思いきや、ある意味真逆の話だった。全編を通して軽い印象を受ける作品で、「野原ひろしの名言(野原ひろしは言ってない)」のようなネットミームが多用される。「野原ひろしの名言」だとか「ジョジョの語録」を言いたがる人、「女性主体のシノギ」を謳うヤクザの軽薄さ。

そして、彼らの薄っぺらさを表現するために、ネットミーム(=他者がつくった文脈)を引用することもまた、創作者として軽薄な手つきなのだ。

けれども、むしろこの軽さ(ポップさ)こそが、人の命と密接する「殺し」の近寄りがたい「重さ」を薄めて、バイトだとかtwitterみたいな俗っぽい僕たちの日常のレベルにまで引き上げてしまうような、笑いともつかない不思議な浮遊感を成立させ、本格的なスタントシーンを引き立たせてるんじゃないか。

「そのドルチェ&ガッバーナの香水のせいだよ」のせいだよ。(4年M)         -------------------------------------------------------------------------------------

アクション映画でありながらも、緻密に編まれた会話劇が心地よい映画。
キモい店長(ラバーガール大水)についてまひろが話してる時のちさとの自然な相槌、ちさとの「ちゃっちゃっちゃっ」(犬がフローリングを走る音)など、会話の端々から2人の日常が伝わる。
殺し屋であるにもかかわらず、なぜか2人に愛着を持ってしまうのは、私たちと同じような日常を送っていることを見せつけられるからだろう。

まひろ・ちさとコンビが同棲している設定なのが良い。高校卒業後は会社の方針で同棲していた2人だが、ラストでマネージャー(ラバーガール飛永)に今後も同棲を続けるかどうかの選択を迫られる。本編中で2人がその質問に答えることはないが、直後のエンドロールで2人が同じ部屋でダラダラしている様子がひたすら流れる。
これを、本編後の状態(=2人が引き続き同棲することを選んだ)という解釈をすると、最初は上司に指示されるがままの「消極的同棲」だったのが、最後は2人の選択による「積極的同棲」に変化していることになる。女同士の生活を刹那的なものとして描かなかったのが好きだ。

(4年Y(ラタタ))

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殺し屋として仕事をしているときと日常生活の緊張感の差が激しい波のある映画だった。

ネットミームや2人の言動による笑いどころがたくさんあるにも関わらず、ハイレベルなアクションシーンがあるおかげで、本業が殺し屋だと言うことを思い出させてくれる。殺し屋のシーンのシリアスさと普段のフリーター生活の緩さの差が心地よく、まるでサウナと水風呂を行き来しているような気分だった。

また部屋で過ごしているシーンでは、定点カメラで撮っているかのような構図のシーンが多くあり、2人の密着動画を見ているようでより日常生活のリアルさが伝わってきた。暗殺以外のシーンがあまりにも自分たちの生活と似ていて、ひょっとしたら現実にも身近に殺し屋が存在しているのでは無いかと思ってしまうほどだった。

ラスボスとの決戦前の「仕事が終わったら一緒にケーキ食べようね」というセリフに代表されるように、作品全体を通してまるでバイトにでも行くような感覚で命がけの仕事に向かっていく姿勢が印象的だったし、そのギャップにどんどん魅了されていった。

(3年N)

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殺し屋を題材にした話では途中で主人公の辛い過去が明かされたりするが、この映画ではそういうのが無くて、ずっと明るく楽しい人殺しが続いているのが面白かった。

でもしっかり緩急はついていて、家の外ではばちばちに殺し屋をやっている二人が家の中ではゆるゆるぐだぐだと暮らしているのがとても魅力的だった。二人の家(部屋)も、そこまで汚いわけじゃないけど物が多くてちょっとごちゃついている感じで、二人で好きに楽しく暮らしてるんだろうな、と想像させるような部屋なのも良かった。また、読んでる漫画とか使ってるコスメとか、ちょっとした小物にも二人の女子高生らしさが見えていいなと思った。

冷蔵庫にあるケーキを二人で覗き込むシーンと、チサト役の高石あかりさんが禰豆子みたいにちくわをくわえてるシーンが可愛かった。

(2年T)

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