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「卵黄を食べて2時間後に嘔吐。これってアレルギー?」

こんにちは!アレルギー疾患担当の竹村 豊です!

今回のすくナビは“教えて!近大先生~アレルギー編”です。小児科の外来でよくいただくご質問にお答えするシリーズです。

今回のご質問です。

「8か月の乳児です。以前、かたゆで卵の黄身を食べたら、2時間後に3-4回嘔吐しました。じんましんや咳はありませんでした。近くの小児科で感染性胃腸炎といわれたので、今回は小さじ1杯だけ与えました。すると、やはり食べて1時間後に2回嘔吐しました。これって、アレルギーでしょうか?」


早速ですが、結論です。

「卵黄のFPIES(エフパイス)というアレルギーの可能性が高いので、1歳頃まで卵黄は食べない方が良いでしょう。」


この結論に至った理由を3つにわけてお話します。

1. 卵黄FPIESは、卵黄を食べてから1-4時間後に嘔吐するアレルギーである。

2. ふつう(即時型)卵アレルギーのアレルゲン(原因食品)として多いのは卵白だが、FPIESのアレルゲンは卵黄である。

3. 卵黄のFPIESでは、あえて食べることでアレルギーが治る証拠はなく、ほとんどが自然に治ると考えられている。

1. 卵黄FPIESとは、卵黄を食べてから1-4時間後に嘔吐するアレルギーである。

FPIESとはFood protein-induced enterocolitis syndromeの略で、日本のガイドラインでは食物蛋白誘発胃腸炎とされています。国際ガイドラインによるとFPIESは「原因食品を食べて1-4時間後に嘔吐する」と定義されています1)。また、一般的な食物アレルギーでは必発の皮膚症状(皮膚の赤みやじんましん)や、時に出現する呼吸器症状(咳、鼻汁、ゼーゼー)がないことも特徴です。

国際ガイドラインは2017年に発表され、日本のガイドライン2)にFPIESが明確に記載されたのが2021年であり、まだ新しい概念です。そのため、この疾患の認知度は低く「感染性胃腸炎」と診断されることもあります。さらに、アレルゲン摂取から症状出現までの時間がふつうの食物アレルギーでは30分程度であるのに比べてFPIESでは長いことが、診断を難しくしています。

卵黄を食べてから1-4時間後

2.  ふつう(即時型)の卵アレルギーのアレルゲンとして多いのは卵白だが、FPIESのアレルゲンは卵黄である。

卵は日本のふつうの食物アレルギー患者さんにとって最もありふれたアレルゲンです。このブログで「ふつう」の食物アレルギーと言っているのは、アナフィラキシーという重篤なアレルギー症状になり得るタイプであり、即時型症状と言います。このタイプの卵アレルギーのアレルゲンは、主に卵白です。これに対して、FPIESでは卵の卵黄が主なアレルゲンであることが報告されています。慶應義塾大学の研究グループは、23人の鶏卵FPIES患者さん全員が卵黄を食べた時に症状が誘発され3)、その内3人は卵黄と卵白の両方に反応し、卵白だけで反応した人はいなかったと報告しています。

我々が診療しているお子様でも卵白のみに反応する方はおられません。また、初めて食べた時に反応する方はおらず、2-5回目くらいの摂取で反応し始める方が多い印象です。

3.  卵黄のFPIESでは、あえて食べることでアレルギーが治る証拠はなく、ほとんどが自然に治ると考えられている。

卵黄のFPIESが自然に治るのか、治る割合はどの程度かというのは現時点ではわかっていません。成人の卵黄FPIESは報告がありませんので、多くの方が成長の過程で治っていると思われます。我々の施設で乳児期に卵黄のFPIESと診断した患者さんは、10人中7人くらいが1歳頃に治っていることを食物経口負荷試験で確認しています。ただし、それほど多くの方を集めて調べたわけではありませんので、今後さらなる研究が必要です。

ふつうの食物アレルギーでは近年「早期摂取(生後5-6か月頃の離乳食開始直後から食べ始める)」による「予防」や、「経口免疫療法」による「治療」が注目されています。これらはアレルゲン(または、アレルゲンとなり得る食品)を、あえて摂取することで予防や治療ができるという食物アレルギーに対する対応方法です。これらの方法が、卵黄FPIESにも有用だとする科学的な証拠はなく、アレルゲンは除去する(食べない)という食物アレルギーの基本的な対策が良いと現状では考えられます。

この様な症状がお子様に見られ、直接相談したいという方は近畿大学病院小児科を受診してください。また、このブログを読んだ感想などがあれば、コメントをいただければ「すくナビ」を続けていく上でとても参考になるので、どうぞよろしくお願いします。

1) Nowak-Wegrzyn A et al. J Allergy Clin Immunol 2017; 4: 1111-1126.e4.

2) 海老澤元宏他、食物アレルギー診療ガイドライン2021

3) Toyama Y et al. J Allergy Clin Immunol Pract. 2021, 9, 547-549.


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