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熱性けいれんは治りますか?

皆様こんにちは。今回のすくナビの担当は、近畿大学病院小児科の井庭慶典です。

今回は“教えて!近大先生~神経編”です。小児科の外来でよくいただくご質問にお答えするシリーズです。


今回のご質問です。

「1歳の男の子です。先日、熱性けいれんをおこしました。またけいれんしますか?」


早速ですが、回答です。

「多くは人生で1度きりのけいれんです。2回目を起こしたとしても、熱性けいれんならそれほど心配しなくて構いません。」


この結論をもとに熱性けいれんについて解説します。

(1) 熱性けいれんとは、こどもにおこる発作性の病気で、後遺症を残すことはほとんどない

(2) 熱性けいれんは多くが人生で一度きりだが、再発することもあり、家族に熱性けいれんを起こした方がいると再発しやすい

(3) 5歳までに治ることが多いが、一部は後にてんかんと診断される、家族にてんかんの方がいたり他の神経の病気があったりするとその可能性が高まる

(1) 熱性けいれんとはこどもにおこる発作性の病気で、後遺症を残すことはほとんどない
熱性けいれんとは、生後6か月から5歳までの乳幼児が、通常38℃以上の発熱に伴ってけいれんなどの発作を起こす病気です。ただし、髄膜炎や脳炎などの感染症や、代謝の異常など、他のけいれんを来たす原因を持つ場合を除きます。
日本では、100人中7~10人の乳幼児が熱性けいれんを経験すると報告されておりますので、ありふれた子どもの病気の一つと言えます。
脳そのものに炎症を起こしているわけではありませんので、通常、後遺症を残すことはありません。

原因は完全には分かっていませんが、まだ未熟な脳の神経細胞が高熱に対応できず、異常な興奮を起こしてしまうと考えられています。10人中1~2人に家族歴がみられることから、遺伝的要因がかかわっていると考えられています。

(2) 熱性けいれんは多くが人生で一度きりだが、再発することもあり、家族に熱性けいれんを起こした方がいると再発しやすい

熱性けいれんは多くが人生で一度きりですが、10人中3人の方には再発がみられます。
再発しやすい方の特徴として、以下の4つが知られています。

・家族に熱性けいれんを起こした方がいる(両親のいずれか)
・1歳未満で発症
・熱の出はじめから短時間(概ね1時間以内)でけいれんした
・体温39℃以下でけいれんした

さらにけいれんが長時間持続したり、短時間のうちに何度も繰り返したりすると、入院して治療を行うことが多いです。
そのような経験のある方、また先にお話しした再発リスクの高い方には、発作予防のためにジアゼパムの坐薬が用いられます。解熱剤では熱性けいれんを予防することはできません。

(3) 5歳までに治ることが多いが、一部は後にてんかんと診断される、家族にてんかんの方がいたり他の神経の病気があったりするとその可能性が高まる

熱性けいれんの多くは5歳頃までに治ります。まれに5歳を超えても熱性けいれんを起こす方もおられ、「熱性けいれんプラス」を称されます。
熱性けいれんは自然に治ることの多い病気ですが、特に発熱もなく発作を起こすようになると、てんかんとしての治療が必要となることがあります。熱性けいれん後にてんかんを発症するのは100人中5人程度(2~7.5%)とされており、これは熱性けいれんのない方のてんかん発症率を上回ります。熱性けいれんがてんかんのリスク因子と言えるのはほぼ間違いありませんが、それでも大部分の熱性けいれんの方がてんかんにならないのも事実です。
なお、後にてんかんと診断されるリスク因子としては、下記が知られております。
・熱性けいれん発症前からの神経の病気または発達の遅れ
・てんかんの家族歴(熱性けいれんの家族歴ではありません)
・複雑型熱性けいれん(身体の一部分の発作、発作持続時間が15分以上、または1回の発熱で複数回の発作)
・熱の出はじめから短時間(概ね1時間以内)での発作出現

てんかんへの移行を予測する方法については、古くから脳波検査が注目されてきました。
熱性けいれん(特に複雑型)の患者さんの中には、脳波検査でてんかん放電がみられる方も少なくありません。しかし、脳波異常をもつ熱性けいれんの患者さんのうち、てんかんを発症する方の割合は決して高くなく、予測として実用できるものではありません(研究者によってデータは大きく異なりますが、質の高い調査では3.8%とされております)。
ただ、発熱時にけいれんなどの発作さが長引いたり頻繁に繰り返したりした際に、熱性けいれんと急性脳症の鑑別に脳波検査を行うことは有用です。

ここまでのお話で、熱性けいれんの再発に関する心配への回答が「多くは人生で1度きりのけいれんです。2回目を起こしたとしても、熱性けいれんならそれほど心配しなくて構いません。」ということがご理解いただけたでしょうか。

この様な話を直接聞きたい、またはかかりつけの先生から脳波検査をすすめられたという方は近畿大学病院小児科を受診してください。また、このブログを読んだ感想などがあれば、コメントをいただければ「すくナビ」を続けていく上でとても参考になるので、どうぞよろしくお願いします。

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