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ハイパーカジュアル市場でなぜVoodooはヒットタイトルを量産できるのか

ハイパーカジュアルゲームで多数のヒット作を生み出し、市場を牽引しているVoodoo。
Voodooはあくまでもパブリッシングに特化し、個々のゲーム開発はVoodoo社内ではなく、パートナーである多数のゲーム開発会社およびインディー開発者という体制であることは広く知られているかと思います。

また、Voodooのビジネスモデルが成立するのは主に下記の要素を保持しているからだということも、理解が広まっているかと思います。

1. 大量かつ高速でプロトタイプを作ることができる体制
2. 採算が取れるゲームにするための継続率を維持・向上するノウハウ
3. 多額の広告出稿ができる資本力
4. 採算が取れる広告出稿を維持できる広告出稿ノウハウ
5. ユーザあたり収益を最大化するマネタイズに関するノウハウ

ハイパーカジュアルないしカジュアルゲームのパブリッシングに特化したパブリッシャーは他にも多々ありながらも、なぜVoodooがひときわ目立つ存在となりえているのかというと、特に工夫がなされている/差が生まれやすいのは上記1と2かもしれません。

その上記1,2をもう一歩踏み込んで、Voodooがやっていることを知るとVoodooの強さの一端を知ることに繋がるといえます。

・Voodooと開発者の契約はどういう契約形態なのか
・なぜVoodooにパブリッシングをしてほしいと開発者が集まるのか
・継続率を維持、向上するノウハウはどう蓄積/共有/活用されているのか

これらの点についてVoodoo自らがセミナーで語っている動画が公開されています。その動画から個人的にすごいなぁと思った点を抜粋しております。開発者としてハイパーカジュアルに取り組んでいる方、ハイパーカジュアル開発&パブリッシングをやっている企業の方、パブリッシング特化の企業の方、立ち位置はそれぞれ異なれど何かしらの参考になれば幸いです。

参照:『Hyper-casual in a Hypercompetitive Market - Voodoo』(GameAnalytics)


Voodooと開発者の契約はどういう契約形態なのか

3段階で存在する開発者への支払い
ハイパーカジュアルでストア上位までくるタイトルは本当に氷山の一角です。開発者にとってのリスクは、どれだけ作っても一向に収益を得られない可能性です。それを踏まえてVoodooが用意している契約は「3段階で開発者に支払いをする」です。

・第1段階
規定のKPI(D1 45%以上、D7 17%以上、CPI $0.25以下)を満たして、ローンチに至った時。
→$20,000以上

・第2段階
最大2か月間の”確認期間”を経て採算ラインを上回った時。
→$180,000以上

・第3段階
本格的なローンチ&大規模な広告出稿を行う時。
→成果連動での支払い。下記テーブルでの支払いにより、この領域まで到達すると平均で$800,000以上の支払い。
 ・200万DL〜600万DL   :100万DLあたり$40,000以上の支払い
 ・600万DL〜1,000万DL:100万DLあたり$50,000以上の支払い
 ・1,000万DL〜                    :100万DLあたり$60,000以上の支払い

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この契約が考えられてるなぁと思うのが、まだタイトルとして収益が発生していない第1段階で、開発者への支払いが$20,000以上発生するという点です。(もちろん、ここまで到達すること自体が簡単なものではないのですが..)

動画のなかで「本格的なローンチに至ったタイトルの開発者は平均してミリオンダラーになっている」と言及されているのですが、開発者支払いからの逆算でいくと、Voodooが本格的なローンチ&プロモーションを実施したタイトルは平均して1,700万DLくらいに到達している計算になります。
$1,020,000 =
$20,000 (第1段階)
+$180,000 (第2段階)
+$820,000 (40,000x5 + 50,000x4 + 60,000x7)

もちろんここまで到達するのは本当に...一握りでしょうから、この額面だけ見て「よっしゃ〜やるぞ〜」という甘いものではないわけで、こう情報が公開されていることがどなたかの参考になれば、という感じのあくまでも情報共有です。Voodooを推奨しているとかいうことではありません。

なお動画では「契約は頻度高く更新する」「超フレキシブルにやってる」とも言及しているので、この契約形態はあくまでも一例なんだ、という参考で捉えるのが適切といえます。第1段階のKPIも全てが最初からそれを超えているわけではない、とも言及されています。

なぜVoodooにパブリッシングをしてほしいと開発者が集まるのか

前段の契約形態も魅力的にみえる一つかと思いますが、他、これは考えられてるなぁと思ったのが下記のような点です。

・全てのプロトタイプを無料で広告出稿してテストをすることが可能、その広告出稿費はVoodooが負担する
・契約に縛りはない、Voodooと一緒にやりたいと思うタイトルだけやってくれればいい
・IPの保護
・開発者とのナレッジ共有の仕組み

テストはどれくらいの期間・金額といった具体的な言及はありませんが、テストが成立する最少額だとしても、やりたい時に自由にやれるのはいいですよね。
また、動画の比較的冒頭段階でVoodooとしてのアプローチ、ということで会社のフィロソフィー的なことを4つ言及しており、その1つとして"Fail fast, refine wisely"というのが掲げられています。早く失敗する、というのはこの市場でキーになる取り組み方の一つとして差が生まれやすい点なので、そのための環境を用意しているともいえます。

2個目に記載した契約に縛りがないというのも、契約のハードルを下げる考えられた仕組みですね。IPの保護、というのは具体的な言及まではなく「真似がされやすい市場だというのを踏まえて対策を講じている」的なレベルでの言及です。その取り組みの度合いがどうあれ、進んでいる感は感じます。


継続率を維持、向上するノウハウはどう蓄積/共有/活用されているのか

そしてもう1つ、Voodooの強さのキーになっている部分でもあり、開発者にとってもVoodooと一緒にやることでのメリットになりうるであろうというのがノウハウ蓄積/共有の仕組み化です。

・基本的知識を共有するナレッジベースを用意している、初日から参照可能
・1,2週ごとにライブストリームで最新ヒットタイトルのナレッジを共有
・一定のKPIを超えた/超えそうなタイトルに対する専門的なコーチング

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上記のような点が動画内で言及されていた例ですが「プロダクト側に関するナレッジ、インサイトは全部シェアする」というそもそもの指針があり、それが仕組みとして具現化されているという感じです。
「ライブストリームは、ヒットタイトルの裏側/詳細を共有し、みんなをインスパイアするコミュニティ形成のためなんだ」的な言及があるのですが、まだ自分が第1段階を突破するタイトルを出していなくても、こういう場があることで先に繋がる何かがみえるかもしれない・・と思わせてくれるのはいい仕組みですよね。(実際にどういう情報がやり取りされているのかは分からないので、なんとも言えない面もありますが)

一定のKPIを超えた/超えそうなタイトルに対する専門的なコーチング、という点は主に「D1, D7の継続率を高める」「低CPIでユーザ獲得ができる(ようにするためのシンプルに魅力が伝わる工夫)」というのが主な軸です。
Voodooの各タイトル共通で適用されている要素を洗い出していくと見えてくる部分もありますが、動画内でも一部事例について言及されています。

事例:プロトタイプから本格リリースの過程における改修


動画後半では、プロトタイプから本格リリースへの過程でどういう変更をさせてきたのかというのが2つのタイトルで触れられています。以下が私なりの要点です。

・D1(翌日継続率)のための要素と、D7のために必要な要素は異なる。D1のために必要なのはハイパーカジュアルとしての"とっつきやすさ"(シンプルに遊び方/おもしろさが伝わること)。D7のために必要なのは"深み"。

・『aquapark.io』でプロトタイプから本格リリース版で最もキーになった変化は、コースアウトしてショートカットができること。それがゲームに”深み”をもたらしており、ライトユーザーだけではなく、ゲームが得意なプレイヤーもさらなる速さを目指し継続して楽しめる要素になっている。

・プロトタイプから本格リリース版に至る過程で加える変化は、広告出稿でのCPI、継続率の違いにも現れている、という検証を踏んでいる。

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ハイパーカジュアルというと、初期ステージは特に簡単にクリアできる段階的なステップで作るので、やもすればその工夫に寄りがちになってしまうこともありえます。ただ、それはあくまでもD1要素でしかなく、同時にD7のための"深み"が必要、何がこのゲームにおいて"深み"になりうるのか考え抜いて実装するというのは大事にしたい観点ですね。


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以上、動画からの参考になるなぁという点のピックアップです。

ビジネスモデルとしてのハイパーカジュアル、ということでいえば個人のみで全てやりきれるものではないというのが、Voodooがやっている内容からも想像できますが、パブリッシングに特化する企業体として実施するのも容易には真似しがたい、本格的な取り組みが必要なものであるといえます。
また、開発を内製で行う企業体に関しても、どうやってプロトタイプを数多くかつ高速で作っていくか、進める/進めないの判断も高速でやっていけるか、冒頭で記載した5点のうちノウハウにあたるものをいかに社内で蓄積するのかといった点は再現性ある成功を実現するためには決して簡単ではない取り組み内容といえます。

動画内容の理解に誤りがある場合はすいません..。「それ違うよ!」というのがあれば教えてください..。また、動画だけでなく、スライドのみも下記にアップされています。一通りの内容は下記でご確認ください。

参照:『Hyper-casual in a Hypercompetitive Market - Voodoo』(GameAnalytics)

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