創作 まだこい


みている

 あの場所に残された唯一の言葉がそれだった。少しみにくいところに書かれていたけど、見逃すことはなかった。

 そこは近所にある橋の下の深い茂みの中だった。彼は、なんとか人の形を保っているだけの肉塊と化していた。思い出したくもないほどに凄惨な姿になった彼に近づきしばらくはただ呆けていた。
 気がついたら、警察官が来ていた。異臭がすると通報を受け辺りを調べていたところ、立ち尽くす私を見つけ声をかけにきたようだ。死体の前にいた私に、警察官はあれこれと聞いてきた。
 私は聞かれるままに、目の前にある死体と私は付き合っていたこと、彼は2週間前から行方不明だったこと、この場所には彼が夢でここを指定してきたから来たのだということを話した。
 警察官はここへ来た理由以外は納得し、どこかへ連絡をとった。しばらくしないうちに車が来て、彼を連れていってしまった。
 私は彼の家族への連絡先を聞かれ、家に帰された。彼の死体から髪と肉片を少しとっていたことはバレなかった。夢でそうしろと言われていたが、そのまま行動する私も少しおかしくなっていたのだろう。深く考えることもせず、ただ従っていた。
 家へは自室の窓から垂らしたロープを使い入った。多少の音は出ていたのだろうが、他の音が大きかったのだろう。気付かれることはなかった。部屋に戻った私はロープを隠し、髪と肉片を机の奥にしまった。
 
 あれから1週間経った。
 私は、彼の葬式には行けなかった。彼の家族と私の家族の仲が険悪で彼の親族が私以外の参列を認めなかったのだ。それを受け、家族が行けないのになぜお前は行くのだと言われ、葬式の日の外出を完全に禁止された。
 また、彼の死因は平たく言えば餓死だったらしい。行方不明になった日(家族の話によるとそれよりも前)から、飲まず食わずで内臓には何も入っていなかったのだという。
 彼が発見されてから、家族からの暴言が増えた。
『お前がダメだからあいつは死んだんだろ?』
『あなたがもっと早く別れていれば死ななかったでしょうに』
『あんたまだ写真とか持ってんの?キモ・・・捨てられたって分かれよ』 
耐えられなかった。なぜあの人たちは部屋にいてもわざわざ聞こえるように暴言を吐くのだろう。なぜ無理矢理部屋から出して嫌みばかり言い、殴ってくるのだろう。意味がわからなかった。

そんな状況の中、昨夜私の前に彼が現れた。

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