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古代の疫病流行に思いを馳せる、花鎮祭(はなしずめのまつり)

※写真は2023年の物です

今回は奈良県桜井市にある大神おおみわ神社の「花鎮祭はなしずめのまつり」を紹介します。

花鎮祭は毎年4月18日に大神神社とそのすぐ隣の狭井神社で病気の鎮圧を祈願して行われる祭祀です。
関西地方の製薬会社や医療関係者が多数参列し医薬品が奉納されるので、別名「薬祭り」とも言われます。

大神神社本殿

午前10時半になると神職の方々が入場します。

薬草や酒、野菜などが次々と奉納されます。


このお祭りの特徴は、1700年もの長い歴史があるという点です。
日本書紀では「花鎮祭」についての記録はありませんが、そのきっかけである古代の伝染病について詳しく書かれています。

その起源は第10代崇神すじん天皇の治世(4世紀前半 古墳時代)にさかのぼります。
崇神天皇は全国に四道将軍を派遣したことで知られています。
治世5年、奈良盆地で疫病が大流行します。
地域住民の半数が亡くなるという大惨事で、大和政権に背く民も出てきました。
まさに現代のコロナ禍のように感染症が大流行し、政権の危機に直面したのです。


第十代 崇神天皇

今日であれば病人の隔離と治療、消毒やワクチン接種などが行われますが、当然は残念ながらそのようなことはできません。
困った天皇は祭祀で疫病を納めようとします。
それまで一緒に祀っていた2柱の神のうち、大和政権の守護神である天照大神あまてらすおおかみの方を宮中の外に出してしまったのです。
すると3年後にようやく伝染病は収束し、国内は安定しました。
以来、毎年花の咲き乱れる季節に神が疫病を流行らせないよう祭祀が行われているのです。

この時天照大神が宮中から出されたのが伊勢神宮の起源です。
また、倭迹々日百襲媛ヤマトトドヒモモソヒメが登場し、神の祀り方を崇神天皇に進言するという活躍が記されています。

狭井神社鳥居

大神神社での祈願が終わると、次に摂社の狭井神社でも同様の儀式が行われます。
狭井神社は木立に囲まれた静かな神社で、境内には三輪山の登山口や、美味しい湧き水で有名な「薬井戸」があります。

薬井戸



薬草の奉納
お清めの鈴

木立の間に響き渡る鈴の音を聞いていると、参列者たちが貫頭衣を着た古代人に見えくるから不思議です。
疫病の流行という共通の経験を通じて古代の人々と心がつながったように思われ、感動しました。
コロナ禍を経験したからこそ覚えた共感です。

花鎮祭の儀式が行われるのは拝殿の中なので遠目でしか見ることはできませんが、響く鈴の音や木立のすがすがしい匂い、優雅な雅楽のしらべなど、その場でしか味わえない厳かな雰囲気を満喫できました。

大神神社の大鳥居と奈良盆地

三輪山のふもとという神聖な空間で、まるで古代に迷い込んだような不思議な感覚を味わいました。
1700年前に発生した感染症流行の名残を現在も見ることができる、貴重な花鎮祭でした。


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