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おばけは見えません

わたしが子供のころは
心霊番組をよく放送していた。

最近はめっきり見ないけど、
そういうご時世なのかな?
コンプライアンスとかそういうのかな?
わからないけど、当時はちゃんと真に受けて
信じていたし、怖いもの見たさや好奇心が
勝って、一生懸命見てた記憶がある。
内容は忘れちゃったけど。

当時、理由はわからないけど
「霊感あるでしょ!?」と
同級生たちから言われていた。
別にそんな話したこともないのに。

子供だし、そんな風にいわれると
もしかしてわたしにもスゴイ能力があるのかも!とややノリ気になったりなんかして。

でも実際のところ、
そういう類のモノはなんも見えず、
感じもせず、人に話せる怖い話のひとつも
もっていなかった。

それどころか怖くてトイレにひとりで
行けなくなって、
「おばあちゃん、ついて来て〜!」
とかいうベタな展開を繰り広げる
普通の子どもだったのだ。


ある夏休み、親戚の家に
しばらく泊まる事になった。
そのうちには4歳年上の
お姉ちゃんがいた。

お姉ちゃんが言うには
「この家の冷蔵庫の横に男のおばけがいて、
除霊をしてもらった。」
らしいのだ。
帰りたくなった。

しかも、血しぶき激しいスプラッタなタイプの
ホラー漫画がお姉ちゃんの部屋にはところ狭しと積み上がっていた。
帰りたくなった。


数日我慢して泊まったが、
駄菓子を買いに行ったり、ゲームしたり、
普通に楽しい夏休みを過ごし、
これといって怖い事は何も起こらず、
ほっとしていた。


明日家に帰るという日、
お姉ちゃんの友だちが遊びに来た。
一緒に遊ぼうと言われ、
年上のお姉ちゃんたちに
遊んでもらえると喜んだわたしは
連れられるがままについて行った。


ついたのはお墓だった。
遊びは『肝試し』だったのだ。

「怖い。帰りたい。」
わたしは半ベソでお姉ちゃんに訴えたが、
当然聞き入れてはもらえなかった。
お姉ちゃんの友だちは面白がって
墓石のあたりにもずいずい入っていった。
今思えば他所様のお墓にバチがあたるぞと
言いたくなるほどの踏入り様だった。
とても悪いことをしている気持ちになった。
出るのは決まってこういう時だよね…。


その時!!
わたしの目の前にヌーーーッと
大きな目玉の様なものが出現したのだ!

「キャーーーーーっ!」
転んでひざをすりむいたけど、
懸命によく知らない道を走って
親戚のうちまで逃げた。
ほら、言わんこっちゃない。
怖い。ついてきたらどうしよう。
ついにわたしも見てしまった!!


そうして怯えていたら、
お姉ちゃんたちが楽しそうに帰ってきた。
「みーみが見たの鳥おどしだよ。」
そう言って笑っていた。

えぇ…。
わたし、鳥でもないのに
おどかされてケガして帰ってきたの?
楽しそうなお姉ちゃんたちを
恨めしく感じた。
「うらめしや〜。」ってね。


翌日、車で帰る途中に昨日の墓地が見えて
例のでっかい目玉のような風船のような
鳥おどしが風でフワフワ上がったり、
下りたりしていた。
人為的なビニール製だ。
明るくても普通に見えてるわ。
怖がる気持ちが
本物みたいにみせるんだなぁ。


すりむいたひざがまだ痛かった。
本当に怖かったのは
思い込みのおばけよりも
「怖い。」って言ってるのに
知らない土地で4つも下の子をパニックに陥れ、ケガさせたお姉ちゃんだ。

その夏、わたしは少しだけ
成長したのかもしれない。


おばけ?
信じるか信じないかで言うと
信じる。

でも怖いとかばかりじゃなくて。
人生の辛さも知った。
命の尊さも。
もしも見えざるものがいるとすれば、
魂の残像というか、
もっと崇高な存在なんだろうと
今のわたしは思っている。

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