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EX4 LIVE MY LIFE
〇〇:「お疲れさま!」
4日間、計123曲を完走し、メンバー達が続々とステージ裏へと帰還してくる。
それぞれに感じた充足感や寂しさ、悔しさや後悔もあるかもしれない。それでも一様に、駆け抜けた達成感がそこにはあった。
一言二言、会話してどんどんステージ裏からもメンバーがはけていく中、スタッフ陣も一度集合して、総括を聞いてから各々の送迎、解体、撤収が行われる手はずになっているので、会場に今尚満ちる熱狂の空気とは裏腹に、ここは少しずつ人気も活気も失われていく。
井上:「〇〇さん!」
〇〇:「お疲れ!」
パチンとハイタッチ。のつもりが、井上はそのまま俺の手を握り込む。
〇〇:「びっくりした!」
井上:「…期待、応えられましたか!?」
ライブの興奮冷めやらぬのか、声のボリュームも大きく、少し上気した顔で井上がこちらの顔を覗き込む。
〇〇:「…期待以上でした!!」
自然、こちらも笑顔になるし、声のボリュームも上がってしまう。
井上:「やった!感想会、楽しみにしてます!」
〇〇:「はいはい、一旦捌けた捌けた!」
井上:「はーい!」
スルリと手を離し、彼女はステージ裏から出ていく。
キラキラして、ピッカピカだった。
また一つ、彼女は新たな領域に至ったことは間違いないだろう。
人一倍、変わることと向き合ってきた彼女だから、葛藤すること、思い悩むこともあっただろうと思う。それでもその度、立ち上がる彼女を応援したいと思った。
散々泣いて、嘆いた日々も、大好きな乃木坂の一員として、輝くステージに立って、大好きなファンの人達の歓声を浴びて、報われたなって。肯定されたんだなって。そう感じてほしい。
そして、もうひとり。話しておきたい人がいて。
山下:「お、まだ残ってたの?」
〇〇:「お疲れ様です」
名残惜しんでいたのか、それともたまたまなのか。その人は一番最後に帰ってきた。
山下:「いやぁ…、終わっちゃったね」
〇〇:「そうですね…」
ステージ裏から見えるわけではないけど、山さんはまるで透けて見えているかのように、会場を眺めている。
山下:「…楽しかったなぁ」
〇〇:「…素敵なライブでしたね」
なんとか言葉を絞り出す。
なんと言うのが正解なのかなんて、誰にもわからないけれど。
それでも、正解が欲しいと思う。
山下:「…アイドルが好きでさ、何度も何度もオーディション挑戦してさ。けど、何にもうまくいかなくて、もう諦めて真っ当に高校生活を送ろうって思い始めた頃、乃木坂に受かってさ」
ポツポツと彼女は話始める。
視線は、壁の向こうにいるであろうファンの人達に向けて。
山下:「それだけで本当に満足だから、売れるとか、人気メンバーになるとか、そんな上等な生き方なんて考えてなかった」
今にして思えば、信じられないくらい、
彼女は挫折と葛藤を経て、ここまで来た。
山下:「浮き沈みがあって、不安定で、終わってみれば何一つ残ってないかもしれない生活で、明日のことさえわからない業界だけど。ただ好きだから、夢中になってさ」
俺はただその言葉を聞くことに徹した。
山下:「そしたら、不思議だよね。どんどん欲張りになっちゃって。好きなもの、好きなこと、何一つ諦めたくなくて…」
貴女がそうやって生きてきたから、
貴女のその輝きに魅せられて、
貴女と同じ道を歩もうと、
大きな一歩を踏み出した子もいますよ。
山下:「どうしようもないくらい、泣いちゃうときもあったけど、身体がビリビリするくらいの歓声を浴びる度、救われた気する。…この道を選んで良かった。大好きな場所で、大好きな人達と、大好きって言ってもらえて、幸せだったって、本当にそう思えるから」
〇〇:「…山さん、まだ卒コンがありますよ」
なんだか、もう全部終わったみたいな言い方をするから、口を挟まずにいられなかった。
山下:「…そうだね。東京ドームで2日もやれるなんて、ホントに幸せ者だね、私」
〇〇:「…ほら、総括始まっちゃいますよ。行きましょう」
目を離すと消えてしまいそうで、俺は少し不安になってしまう。
山下:「…うん。行こっか」
歩き出した彼女の後を追って、俺も歩き出す。
山下:「…ねぇ」
〇〇:「はい?」
山さんは立ち止まったまま、こちらを見ず、
山下:「今日の私、どうだったかな?…うまくやれてたかな?」
〇〇:「……」
面食らってしまって、何も言葉が出てこなかった。この人は、いつも素敵だから。努力して、その分自信を持って、堂々としている人だから。弱さも、不安も、見せない人だから。
山下:「…ごめんごめん!急に言われても困るよね」
振り向いた彼女は苦笑いしながら謝る。
山下:「いや〜ほら、今度の感想会、出れないかもしれないからさ〜。ちょっと気になっちゃって」
こんなふうに取り繕う姿も、初めて見るかもしれない。
彼女はどんな想いでこの4日間を過ごしたんだろう。一つの心残りも、後悔も無く過ごせただろうか。
この人の心の奥底は、俺如きでは到底伺いしれない。
山下:「ごめん、行こう」
〇〇:「…あの!」
今、何も言わずこの場をやり過ごしてしまったら一生後悔するような気がして、俺は反射的に腕を掴んで引き止めてしまった。
〇〇:「…すいません」
山下:「…いいよ」
すぐに手を離すと、山さんは少し驚いたようだけど、こちらに向き直った。
〇〇:「…とてもお綺麗でした」
アイドルは卒業する時が一番綺麗。
そんな言葉がある。
なんて切なく、儚い賛辞だろう。
しかし納得してしまうほど、山さんは綺麗だった。これから卒コンまでに、この人はますます綺麗になっていくんだろう。
〇〇:「本当に…」
山下:「…〇〇、少し屈んでくれる?」
〇〇:「…? はい」
山さんの腕が俺の首に回るのがわかった。
耳元に髪が触れて、
山下:「…ありがとう」
気がつくと山さんはいつもの笑顔で、
山下:「いこっ!」
背を向けて、歩いていく。
抱きしめられたんだって理解する頃には、彼女の姿はすでに見えなくなっていた。
LIVE MY LIFE(岸田教団&THE明星ロケッツ)END…
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