ひだまりにうたう。
小笠原諸島に名を連ねる架空の島、日向島。
その島唯一の高校は、この春全校生徒が50人を切るほどまで減少。いつ統廃合されてもおかしくない状況になっていた。
生徒数の減少により、部活動も縮小傾向。
自然豊かな土地の広さも相まり、運動系の部活が活発なため、文化系クラブは年々消滅。
せめて廃校になるまでは。
そんな想いのもと、たった3人の軽音部とたった2人の吹奏楽部が力を合わせ、“なにか”を成し遂げるために立ち上がる。
たった1人の島外からの入学者と共に。
・日向島高等学校
日向島唯一の高等学校。通称ひな高。
3年1クラス、2年1クラス、1年1クラス。
高校入学を機に島を出る子供がほとんどであり、現在全校生徒50名ほどで統廃合寸前。生徒内も知り合いがほとんどで、先輩後輩が友達同士なこともざらにある。
・軽音部
島の娯楽として音楽好きが多いため、昔は部員数や予算も豊富な人気の部活だったが、入学者の減少や、運動系部活の人気に押され年々縮小傾向。本年ついに部活動規定の部員5人以上が満たせなくなり、来年の春、新入生が入らなければ廃部となる。
〇〇
2年生。Ba担当。
軽音部副部長。
機材イジり好きで、部員の楽器メンテなども引き受ける。偏屈で口が悪い。卒業後は漠然と島を出て楽器に関わる仕事に就くことを希望している。
作詞を担当することが多い。
齋藤京子
3年生。gt担当。曲によりVo、Cho兼任。
軽音部の部長。
卒業後は島外の大学に進学予定。学校側からは部活は早めに引退して、学業に専念することを勧められている。
〇〇と共に作詞を担当することが多い。
丹生明里
2年生。Dr担当。
卒業後の進路に迷っており、なんとなく皆と同じ様に島外の大学に行こうかな…と思っている。
高校生からドラムを始めた初心者。
清水理央
1年生。Vo担当。
〇〇改造の、メガホンタイプの拡声器にマイクを仕込んだ物を使用。
本年唯一の島外出身の入学者。家庭の事情でこの春、母方の祖父母が住むこの島に移住してきた。
歌うことが好きで、軽い気持ちで見学に来た軽音楽部で騒動に巻き込まれていくことになる。
・吹奏楽部
かつては軽音部、ブラスバンド部(廃部済み)と共に大盛り上がりした部活だったが、本年は部員2名となり、軽音部以上に廃部の危機に立たされている。
佐々木久美
3年生。トランペット担当。
吹奏楽部の部長。
卒業後は島外の有名な大学に進学予定。
成績優秀、素行も良好なため、学校側からの期待も高いが、本人は吹奏楽部存続のため、可能な限り部活動を続けたいと考えている。
基本的な作曲と、〇〇や京子が書いた詞の英訳なども担当。
金村美玖
2年生。アルトサックス担当。
吹奏楽部の副部長。
卒業後は音楽に関わる仕事を考えている。
ドラムも叩けるため、丹生のサポートも行ったり、佐々木の作曲補助やアレンジをするなどバンドの要。合同バンドの発起人でもある。
・放送部
現在部員2名で、吹奏楽部同様廃部の危機。
廃部回避のために奮闘する合同バンドに感銘を受け、全面協力を約束する。
松田好花
3年生。放送部部長。
卒業後は島外でテレビかラジオに関する仕事を希望している。PA業務や配信、校内放送で合同バンドを支援する。
上村ひなの
2年生。
放送部副部長。
部長卒業後の放送部に不安と諦めを感じているが、全力で走る合同バンドや、部長の好花を見ている内に心境の変化を自覚する。
--------------------
〇〇「覚悟は出来てるか?」
体育館の舞台袖。
俺はメガホンマイクを清水に手渡しながら問う。
理央「…なんです、藪から棒に」
マイクを受け取りながら困惑する清水に、俺は半ば呆れながら言う。
〇〇「こっから先は覚悟が問われんだよ」
理央「…覚悟ならこの間の校内放送ライブで決めましたよ」
俺等にとって最初の活動らしい活動は、放送部の協力によって行われた、校内放送を通した無観客ライブ。ただ今回は決定的に違うことがある。
〇〇「ちげぇよ。バンドやる覚悟とか、なんか成し遂げる覚悟とかじゃなくて、“喝采”浴びる覚悟は出来てんのかって話だよ」
理央「…言ってる意味がよく分かんないです」
〇〇「…前回は眼の前に観客がいるわけでも、その場でリアクションが返ってくるわけでもなかったろ?」
理央「…はい」
〇〇「今日は眼の前に客がいんだよ。歌ってりゃ、その場で客が反応すんだ。良けりゃ盛り上がるし、悪けりゃクソみたいな棒立ち人間共が量産されんだよ」
理央「……」
〇〇「そーゆー覚悟は出来てんのかって聞いてんだ」
理央「……」
清水は黙って手の中のマイクを見つめる。
京子「また〇〇が後輩にプレッシャーかけてるよ」明里「素直じゃないな〜!」
せっかく後輩に教育的指導を行っていたのに、幼馴染共がやってきてしまった。
京子「言い方が悪いんだよね。…丹生ちゃん」
明里「〇〇、ちゃんと素直に言わないと伝わらないよ!」
京子め、俺が明里に言い返しづらいってわかってて言わせてるな。
〇〇「…あのな、今日お前は人生最大の喝采を浴びることになる。最高の気分だろうよ。全知全能完全無欠って感じだ」
清水は胡散臭いなって顔をしてる。
〇〇「ライブが終わって家に帰る時も、風呂に入る時も、飯食う時も、歯を磨く時も、布団に入る時も、思い出してはヘラヘラニヤニヤするだろうよ」
それはそれは素敵なことだろう。
〇〇「けどな、朝目を覚ますと気づくんだよ。もっと褒められたいもっと認められたいもっと喝采を浴びたいってな」
理央「…まるで見てきたみたいに言いますね」
〇〇「あぁ見てきたね。俺等みたいな連中は、親バカ共にカラオケ大会やら身内ライブやら習い事の発表会やらで、大なり小なり褒め称えられてんだ」
ちいせぇコミュニティ内じゃ、子供のおままごともビッグイベントだ。こぞって集まっちゃ大騒ぎ。親バカ共や酔っぱらい共はどう考えてるか知らねぇが、子供にとっては大勢の大人から褒められるなんて経験そうはないんだから、人格形成にだって影響が出る。
〇〇「このライブを越えたらもう後戻りは出来ねぇぞ。こっから先に足を踏み入れるってことは、お前もめでたくこっち側。廃部回避のためにここまでやるような連中と同類。承認欲求モンスターの仲間入りだ」
清水の顔に戸惑いの色が混じる。
久美「言いたいことは分かるけど、そんな言い方しなくても…」
美玖「ちょっとこわいよ?」
いつの間にか袖にやって来ていた佐々木と金村が、清水を心配してかおずおずと切り出した。
〇〇「…こいつは俺等とは違う。この学校にも、部活にも思い入れなんてねぇんだ。たまたまここに来て、たまたま覗いただけの部活でこんな事に巻き込まれただけのやつなんだよ。そんなやつに俺等はフロントマンなんて重荷背負わそうとしてんだぞ。褒めておだてて、ステージ立たせて、喝采浴びせて、なぁなぁにして歌わせんのは簡単だよ。けどな、そんな都合のいい、虫のいい話はねぇんだよ」
まだこいつは引き返せる場所にいる。
でも、こっから先に進めばどうなるか。
〇〇「俺等はたった3年しかない高校生活の、残り僅かな期間を報われるかもわからない足掻きに費そうとしてんだ。どう考えたって異常だろ」
たかが部活だ。
今音楽に拘る必要だってないはずだ。
たった3年しかない高校生活をもっと楽しんだっていいはずだ。
それでも俺等は走り出してしまった。
〇〇「俺等は心のどっかで、音楽で何かを変えられるって信じてる異常者。狂信者だ。だから今こんな事になってる」
何かを成し遂げて、部活を盛り上げて、入部希望者を増やして、廃部を回避して、いつか入学者が増えて、学校の存続も安定して…。
そんなバカの絵空事を本気で実現しようとしてるバカども。
〇〇「もう俺等は沼に腰までつかって引くに引けねぇ。沼の底に沈んで、高校生活をこのドブ沼に捨てることになるかもしれねぇ。そんなトコにこいつを引きずり込もうとしてんだよ」
京子「…ホントに素直じゃない」
明里「かわいい後輩が心配だ!の一言で済む話じゃん!」
この幼馴染共の“お前の言いたいことはお見通しだ”みたいな態度腹立つな。
「うるせぇうるせぇ。とにかく廃部になろうがこのライブが中止になろうが、自分の意志で覚悟を決めない限り、こいつとはここまでなんだよ」
シン…と誰もが押し黙る。
好花「…こっちは準備できたけど、大丈夫?」
ひなの「……」
今回も音響や、後々ネットにアップする用の音源録音に協力してくれる放送部が袖までやってきた。
理央「…大丈夫です」
そう言った清水の顔は真剣で、迷いや戸惑いの色は感じとれない。
理央「さっきも言いましたけど、覚悟なら校内放送ライブで決めました。どんな事があっても、私はこのバンドで歌うって覚悟です。皆さんに頼まれたからじゃない。私が私の意志で決めたことです」
清水はやや睨むようにこちらを見て、
理央「これで文句ないですよね?」
生意気な後輩だな。
〇〇「…上等」
それでもまぁ、悪い気はしないもんだ。
京子・久美「円陣!」
一同「おー!」
バンドメンバーが輪になる中、
京子「ほら2人も」
好花「え、私達も?」
久美「ほらほら入った入った」
放送部の2人は顔を見合わせると、すぐ笑顔になって輪に加わる。
久美「部活動報告会!」
京子「盛り上げていくぞ!」
一同「おー!!!」
4月 合同バンド“šest”結成。
5月 校内放送ライブで反響を呼ぶ。
6月 部活動報告会で話題になる。←イマココ
7月 島内のライブハウスでライブをする。
8月 夏休みを活用して島外ライブをする。
9月 文化祭に島外からも人が集まるくらいになる。
10月11月 可能な限り曲作りとライブ。
12月 アルバムを1枚作る。活動終了。
翌3月 “šest”解散。
バカどもが作った、バカなロードマップ。
残された時間はあと半年ほど。
たった6人ぽっちから始まった輪。
それが今日、8人の輪になって。
その輪はこれからも大きくなって、
いつか海を越えて、本土に届き。
部活という枠組を変え、
学校という世界を変え、
いつかの後輩達の未来を変える。
これは、そんな夢物語に挑む物語。
暖かな日向を守りたい、バカ共の戦いの記録。
ひだまりにうたう。
〜〜〜〜〜〜〜〜
齋藤京子の卒業に思っていたより感じ入るものがあったのか、ふと思いついた日向坂のバンドモノ。
ちゃんと書くとか何も考えず、思いついたことを頭の中にしまっていてもしょうがないのでとりあえずアウトプット。
バンドイメージはスカバンドのムラマサ☆。
編成はだいぶ違いますけど。
いつか書くかもしれないし。
結局書かないかもしれない。
šest(シェスト)はクロアチア語で6だそうです。
SIX案やSick's案なども出ましたが、キャッチーな字面もあってそれになりました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?