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#8 ゆっくりと咲く花


〇〇:「はーい、到着です」

梅澤:「ありがとう〜。〇〇もさくもお疲れさま。お先に失礼するね」

〇〇:「お疲れさまです」

遠藤:「お疲れさまです」


46分TV&TikTokの撮影後、今回は小川、梅さん、サクの送迎を担当している。

最年少の小川を先に送り届け、梅さんも降車、あとはサクを送り届けるだけだ。


〇〇:「サク、助手席でごめんな」

遠藤:「全然大丈夫。ちょっと新鮮。それにもう夜だから日焼けもしないよ」


ふわりと笑う。

花が綻ぶように笑うってこのことだな。


遠藤:「梅澤さんと彩、一緒に座らせたかったんだよね?」

〇〇:「流石、サクにはお見通しか〜」

遠藤:「分かるよ〜笑」


サクの笑顔につられてこっちも笑顔になる。


〇〇:「梅さんが後輩にグイグイ行くこと、結構珍しいからさ。小川もかわいがってもらえたら嬉しいと思うし、積極的に交流してもらえたらと思って。サクも小川と仲良くしてくれてるみたいだし、ちょっと悩んだけど」

遠藤:「ありがとう。じゃあ次があったらお願いしようかな」

〇〇:「お任せください」

遠藤:「最近、私やかっきーが和とお仕事する機会がある時は〇〇さんが手回ししてるのかな?って思ってる笑」 

〇〇:「全部が全部そうってわけじゃないよ笑 けど、井上も2人を慕ってるし、一緒に過ごす事で得るものは多いっていうのは確信持って言えるし」

遠藤:「だといいな」


尊敬する先輩と過ごす事で学べることは多い。仕事に対する姿勢や心構えはもちろん、一緒に過ごす時間が増えれば仕事以外の話をする機会もあるだろう。そういう積み重ねから生まれるメンバー同士の関係性は信頼や結束を産むし、関係性そのものが、ファンにとっては魅力的なものだ。


〇〇:「頼れる先輩と、慕ってくれる後輩の存在がどれだけ大事なのかは、サクを見ててよくわかったからさ」

遠藤:「うん…」


昨年グループにとって、大きな、大きな存在が卒業した。

齋藤飛鳥。

一期生、エース、アンダーから乃木坂を象徴する存在まで這い上がった人。

いくつもいくつも語るべきことは多いのだけど、サクや俺にとっては恩人の一言に尽きる。


〇〇:「推しは推せる時に推せっていうけど、先輩後輩も、交流できる時にしとかないとね」

遠藤:「…そうだね。飛鳥さん、私が何も言わなくてもそばにいてくれたから、私もそう出来たらいいな…」

〇〇:「既に五百城にしてくれたでしょ」


昨年末の乃木中のお歳暮企画の際、五百城はサクを指名した。ツアー中、落ち込む彼女の傍についていてくれたから。


遠藤:「私、あんまり上手く言葉に出来ないけど、傍にいるくらいなら出来るかなって」 

〇〇:「五百城もそれでだいぶ助かったんだよ。嬉しかったと思う」

遠藤:「私がそうしなくても、〇〇さんが寄り添ってあげたとおもうけどね。…それでもそうしたかったから…」

〇〇:「ありがとう、サク」


決して、器用な子ではない。

人付き合いが得意と言うわけでもない。

それでも、優しくて、温かい子だと思う。


遠藤:「どういたしまして笑 けどね、寄り添ってあげたいって思ったのは飛鳥さんのおかげだけど、言葉にしなくても寄り添うことは出来るって思ったのは〇〇さんのおかげだよ」

〇〇:「俺の?」

遠藤:「隅っこで泣いてる姿を見たら、入ったばかりの頃の自分を思い出して…」

〇〇:「あぁ…なるほどね」


入ったばかりのサクはよく泣いていた。

上手く話せなくて、上手く歌えなくて、上手く踊れなくて。

周りの励ましも、心配も、情けない自分が気を使わせていると思いこんで、それを申し訳なく思ったりして。

そんな自分がセンターなんて。

そうやって自分を追い詰めて、ますます泣いてしまって。

そんな時、出来るなら彼女が少しでも元気になれるように、励ましの言葉でも上手くかけてあげれればよかったけれど、当時の俺にはそんな余裕も、語彙も持ち合わせてはいなかった。

それでも、この子の頑張りを見て見ぬふりは出来なかった。


遠藤:「言葉が見つからなくても、ここにいるよってわかってもらえたら、きっと心強いなって思うから…」

〇〇:「サク…」

遠藤:「飛鳥さんが私に良くしてくれたのは、昔の自分に似てるからって言ってくれたから、私も昔の私みたいになってる子に寄り添ってあげたい。出来るかどうか考えて躊躇うより、〇〇さんみたいに、まずは寄り添ってみようって。そう思ったんだ…」


本当に、立派になったなぁ。

あ、これはよくない。

路肩のゆっくりと車を止める。


遠藤:「…どうしたの?」

〇〇:「…ごめん、ちょっとだけ待って」


深呼吸して、軽く頬をパチンと叩く。


〇〇:「ごめん、もう大丈夫!」


車をゆっくりと発進。


〇〇:「若い子はすぐ大人を泣かすんだから」

遠藤:「笑」

〇〇:「…ありがとうサク。俺もみんなも本当に感謝してる」

遠藤:「こちらこそ、ありがとう。…かっきーとも話してくれたんだよね」

〇〇:「…うん、サクが去年乗り越えた壁を、カッキは今越えようと頑張ってるからさ」

遠藤:「〇〇さんが来てくれて、心強かったと思うよ。だから、ありがとう」

〇〇:「…サクも支えてあげてね」

遠藤:「もちろん」


言われるまでもないか。


〇〇:「よーし、到着。お疲れさま!」

遠藤:「ありがとう。現場ではちょこちょこ会えてたけど、こうやって送ってもらうの久しぶりだったから、沢山話せて嬉しかった」

〇〇:「俺も嬉しかったよ。ゆっくり休んで」

遠藤:「うん…。またね」

〇〇:「またね」


手を振るサクをバックミラーで確認すると、アクセルを踏む。


花開くまで、沢山の水と、沢山の陽光と、沢山の時間が必要だったと思う。それでも彼女は折れずに大地に根を張り、そこにあり続けた。

そうやって開き始めた蕾は、素敵な先輩と後輩に恵まれ、満開の花を咲かせた。

その花が咲く場所は本当に優しくて、暖かくて、そこにいると温かな気持ちになれる。

それはきっとメンバーだけじゃなくて、ファンの人達にも伝わっているだろう。





ゆっくりと咲く花 END…

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