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After2 フィロソフィー

池田「着きましたね〜!」

大阪は中之島。

この日は瑛紗の出演する“なんて美だ”でも取り上げられたモネ連作の情景を観るためはるばる東京からやって来た。瑛紗自身は東京の会期中に観に行けたのだけど、今回は東京で見れなかった俺の有給を利用した大阪展の鑑賞に同行している。

池田「ホントに中の島なんですね」
〇〇「川と川に挟まれた中洲だから、中之島ね」

堂島川と土佐堀川に挟まれた細長い島。
今回の目的であるモネ展はこの中之島にある、中之島美術館で開催されている。

〇〇「ほら、見えてきた」
池田「めちゃくちゃ特徴的な建物ですね」


真っ黒で四角い外観は非常に目立つ。

池田「わっ、猫いますよ!」

1階部分はテラス席を備えたカフェになっていて、美術館の入口は外の階段を登った2階部に。その入口前広場には宇宙服を着た猫の像がある。

〇〇「美術館の守り神らしいよ」
池田「へぇ〜!」

撮影OKなので、パシャパシャとスマホで撮る瑛紗。

〇〇「それじゃ入りますか」
池田「お〜」

建物の中に入ると、瑛紗は見上げるように内装を見渡す。

池田「中広いんですね〜」
〇〇「吹き抜けになってて開放感あるんだよな」

1〜5階までが吹き抜けになっており、エスカレーターや階段が積み重なるように配置されている。

池田「外観もですけど、内観も特徴的だから、建築物としても面白いですよね」
〇〇「中之島は他にも結構特徴的な建築物も多いよ。良かったら後で少し歩こうか?」
池田「行きたいです!」
〇〇「オッケー。んじゃまずはモネを楽しみましょう」
池田「おー」

1階から長ーいエスカレーターに乗り、まずは4階へ。更にそこから1階上がって5階へ。

〇〇「いよいよだ」
池田「楽しみましょう〜」

平日とはいえ流石のモネ。ガラガラってわけにはいかず、少し声はひそめる必要がありそうだ。瑛紗は声も特徴的だし。

〇〇「まずは印象派以前のモネ…」
池田「“昼食”がある章ですね」

なんて美でも取り上げられた、モネの黒が見られる作品。サイズも大きく、まさに芸術といった雰囲気。

〇〇「素人目には十分凄い作品に思えるけど、これは落選したんだよね?」
池田「そうですね…。勿論技術は素晴らしいと思います。けど、それだけが評価軸じゃないのが、芸術の面白いところでもあり、難しいところではありますね」

芸術は難しい。
それはまさに“絵の上手さ”の多様性と、上手さだけが評価の基準でないという部分が大きいと思う。

池田「芸術をより深く識るためには、多角的な視点が必要なんだと思うんです。絵の上手さ、デッサン力、革新性や斬新さ、伝統的技法へのリスペクトやオマージュ、そういったいくつもある評価軸を心得た上で見ないと、よくわからないもの。で終わってしまうこともよくありますね」
〇〇「芸術を理解するためには、やっぱりある程度教養がないと難しいってことだよね?」
池田「そういう部分があるのは否めないとお思います。けど、そういった知識がなくても、いいなって思える、魅力のわかりやすさが印象派のいいところでもあると、私は思います」
〇〇「なんて美でも言ってたね。なんとなくわかるよ。なんかいいな、って感覚。芸術初心者にも優しいよな」

俺もそんな詳しいわけじゃないから、あの番組の敷居の低いってパッケージは助かってる。

〇〇「瑛紗のファンで、なんて美観て、芸術に興味関心持つ人が増えるといいよね」
池田「もし居たら、すごく嬉しいですね〜」

本当に嬉しそうだがら、それを見るこっちも嬉しくなる。

〇〇「次は印象派の画家、モネ」
池田「このアトリエ舟は大阪展の限定展示ですよ」
〇〇「秋…って感じかな。ちょっと意外かも」
池田「明るい色調のイメージがあるからかもしれませんね」
〇〇「そうそう。このヴェトゥイユの春みたいな」
池田「確かにモネらしい絵。といえばこういう明るい風景画をイメージする人が多いと思います。こういうモネが好きな人は次の章も楽しいと思いますよ」
〇〇「テーマへの集中…。わ〜、ヴェンティミーリアの眺め、いいね〜」
池田「いいですよね〜」
〇〇「なんだろう…。一際明るさや光を感じるような…」
池田「青やピンクが効果的に効いてるんだと思います」
〇〇「あっ、そうかも…。普通なら木々にピンクつて色は入らないよね」
池田「ピンクの葉っぱってわけじゃないですからね。光のあたり具合や、風を受けた葉のゆらめきなんかが、モネっていう画家のフィルターを通して表現されたのが、この色使いなんだと思います」
〇〇「フィルターか…」
池田「人の目を通して、脳を介して、手によって描かれるのが絵ですから」
〇〇「なるほど、そのフィルターによって画家の個性が生まれてくるわけか…」
池田「私個人の意見ですけどね」
〇〇「勉強になるなぁ」
池田「さ、次がメインテーマですよ」
〇〇「いよいよ、連作の画家、モネか」
池田「これ、これが見たかったんです…!」

静かにしつつも興奮が抑えきれないのか、2つ並んだ作品を指差す瑛紗。

〇〇「チャリング・クロス橋…。これは凄いな」

その2つの作品は遠目から見れば同じ絵かと錯覚するほど、同じモチーフを同じ視点で描いている。

〇〇「これは、並べてみるべきだわ」
池田「そうなんです…!でもこの2つが並ぶのは大阪展だけなんですよ…!」

しかし並べてみれば一目瞭然。
川に掛かる橋。
一つは輪郭すら朧気。
一つは橋の全貌が明瞭に描かれている。

〇〇「なんだろう…。光の当たり加減なんだろうけど…曇り空とそうじゃないか…?」
池田「それもあるかもしれませんが、たぶん霧じゃないかと…」
〇〇「霧?」

瑛紗は2枚の絵を指差しながら解説してくれる。

池田「まず目のにつくのは橋の描き方ですよね。けど、その向こう、背景の塔を見てみてください」
〇〇「橋が朧気なのに、背景の塔はくっきりしてるような…」
池田「はい。じゃあこっちの橋が明瞭な方はどうですか?」
〇〇「こっちは背景の塔がぼんやりしてる…?」

曇りで暗いなら、どっちも見えづらいはず?

池田「そうなんです。その違いは霧の出方なんじゃないかと」
〇〇「…1枚目は橋の前に霧が出ていて橋が見えづらいけど、橋の向こう、塔の周りは霧が晴れてる。2枚目は橋の前は霧が晴れてて橋が明瞭、奥の塔の周りに霧が出てて朧気なのか」
池田「モネはわざわざ霧の深い冬を選んでロンドンを訪れるくらいこだわってたそうです」

その時、さっき瑛紗がいった言葉が頭をよぎった。

〇〇「もしかして、モネは霧もフィルターにしたってこと…?」

その言葉を聞いて、瑛紗は大きな目を更に大きく輝かせた。

池田「そうなんです…! モネはきっと自分の目や脳、手を介して光を表現するに留まらず、霧というフィルターに新たな光の表現を見出したんだと思うんです…!」

精一杯潜めた声に、それでも隠しきれない興奮が滲む。でも、その気持がよく分かるくらい、この連作には魅力があると思う。

池田「ロンドンの深い霧を透過する複雑な光を、モネは連作という形で表現しようとしたんでしょうね…」
〇〇「点と線がつながった気分…。瑛紗の解説がなかったら至らない考えだったわ…」
池田「それを踏まえて、次の作品を見ましょう…!」

瑛紗は興奮そのままに俺の手を引いて、次の作品へと向かう。急な動きだったのでややつんのめりになりながらもついていく。

池田「ウォータールー橋の連作が3つです…!」
〇〇「…瑛紗」
池田「はい?」

俺の呼びかけで振り返った瑛紗は、多分気づいてなかったんだろう。手を取ったまま、尚且つそのおかげで俺は屈みぎみで、更に瑛紗は振り返ったので。

〇〇「ちょっと近いかな…」
池田「っ!」

パッと手を離し、スッと距離を取る瑛紗。

池田「……もぅ」

もぅじゃないのよ。もぅ、じゃ。
恥ずかしいのか、顔を伏せたまま、無言で絵を指差す瑛紗。こっちも恥ずかしいんですけど。

〇〇「…今度はかなり雰囲気変わるな」

曇り、夕暮れ、日没、とそれぞれタイトルの異なる3作品。先程の作品同様、こちらも同じモチーフを同じ視点で描いている。しかしこちらは一見して違いが分かるほど、明確に時間の経過を感じる。
それは先程瑛紗が言ったように、背景に注目すれば誰でも容易に想像がつくだろう。

〇〇「曇りは背景に街の息遣いを感じる」
池田「おほん…」

わざとらしいくらいの咳払いを一つ。

池田「そうですね、背景の煙突から立ち上る煙は人々の営みを表していると思います。彼らの生活が精力的に行われている時間ということですね」
〇〇「夕暮れはこれでもかというくらい霧だ…」
池田「橋も風景も朧げですね。そして次の日没です」
〇〇「もはや橋しか見えないレベル」

なんだけど、

〇〇「橋の表情が一番出てる気がする…」

橋の表情ってなんだ。と自分でも思うけれど、そう表現するのが一番しっくりとくる。

池田「その表情が、恐らく陽の光さえ沈んだ日没に、モネが見た光なんじゃないかと…」
〇〇「…はぁ〜」

これが感嘆のため息というやつだろう。
この業界にも程度の差はあれ、強いこだわりを持つ人々はごまんといる。それでもこれは異常だと思う。

〇〇「一体何が彼を駆り立てているのやら…」
池田「それは絵から読み取るのは難しいかもしれませんね」

衝撃から冷めやらぬまま、次の章へと移動する。

〇〇「…次は睡蓮か」
池田「モネと言えば、の一つですね」

正直な所、結局は睡蓮が一番じゃん。
そうなると、実際ここに訪れるまでは思っていた。なんやかんやこれだろ。と。


〇〇「むちゃくちゃいいんだよ。いいんだけど…」

瑛紗はこちらを見ながら、何も言わず、でもどこか楽しそうに俺の言葉を待っている。

〇〇「…ごめん、もっかい連作に戻っていいか?」
池田「もちろん。何度でも行ったり来たり出来るのも、美術館のいい所ですよ」

それから俺達は何度も章を跨いで行き来しては、精一杯潜めた声であーだこうだとお互いの感想や考察を述べあった。

〜〜〜〜〜〜

池田「お腹空きましたぁ〜」
〇〇「だなぁ〜」

美術館を出る頃にはすっかり腹ペコ。

〇〇「近くに美味しいグリルサンドの店があるんだ…。なにはともあれ腹ごしらえしよう」
池田「賛成で〜す…」

中之島美術館の南。
そちらにも美術館がある。 


〇〇「国立国際美術館だね」
池田「こっちも特徴的な外観ですね」
〇〇「美術館自体は完全に地下にあるんだけどね。外観デザインは竹をイメージしてるらしいよ」
池田「入ったことはあるんですか?」
〇〇「あるよ。ロンドン・ナショナル・ギャラリー展があってね」
池田「あ〜!大阪はここでやってたんですね」
〇〇「そうそう」

国際美術館前を通り過ぎて、土佐堀川に掛かる筑前橋の手前にそのお店はある。

〇〇「着きました〜」
池田「可愛いお店ですね〜」


テイクアウト用のカウンターの横、大きな窓の扉から店内へ。席はカウンターに3つ、2人掛けのテーブル席が1つ。テーブル席に案内して頂いて、向かい合わせに座る。

池田「隠れ家感ありますねぇ〜」
〇〇「まぁ、ふつーに人気すぎて週末の昼時なんかは並んでるけどね笑」
池田「平日のお昼には遅い時間だから空いてたんですね」
〇〇「そういうこと」

お店の奥にかけられた黒板メニューにグリルサンドの内容が並ぶ。

池田「悩みますね…」
〇〇「お好きなのを頼みなさい」

この日のラインナップは
エスニックオムレツサンド
パセリバターのチーズバーガーサンド
4種のチーズと木の子のクロックムッシュ

池田「ムムム…」

好きに妥協出来ないのはこの子も一緒か。

〇〇「半分ずつする?」
池田「…いいんですかぁ?」

申し訳無さそうなセリフだけど、顔はめっちゃ嬉しそうだな。

〜〜〜〜〜〜




池田「美味しかったですね〜」

チーズバーガーサンドとクロックムッシュを半分ずつして、俺達は店を出た。

〇〇「ここはホントオススメ。このあたりの美術館来たら毎回来てるね」
池田「オムレツサンドも気になります」

腹ごなしがてら土佐堀川沿いの道を東へ。

池田「〇〇さんは結構美術館、行かれるんですね」
〇〇「そうだね…、詳しくはないけど好きかな」

なんとなくいいな。が美術館で絵を見る感想のほとんどだったけど、今回はまた違った体験ができた気がする。それは間違いなく瑛紗が同行してくれたおかげで。

〇〇「今日は瑛紗のおかげでまた違った美術館鑑賞が出来たよ。ありがとう」
池田「お役に立てて何よりです」 

ニコニコと笑顔の瑛紗。

池田「なにか美術館に通い出したきっかけとかあるんですか?」
〇〇「う〜ん…。まぁ話しちゃうか。ちょっと暗い話になるかもしれないんだけどいい?笑」

それを聞いて瑛紗は少し驚いて、すぐ真剣な顔つきになる。

池田「いいんですか?聞かせてもらって」
〇〇「実際、そんな大層な話じゃないんだけどさ。それでも良かったら」
池田「…是非」

少し道を逸れ、川に掛かる肥後橋へ。

〇〇「みんなを名前呼びする時にも話したんだけど、俺、昔音楽で生きていこうと思っててさ」

目を合わせづらくて、川を眺めながら話を始める。

〇〇「高校生ぐらいまでは割とマジでやっていけるって思ってた。理由も根拠もなく。けど、東京飛び出してきて、自分がなんて狭い世界でいい気になってたか思い知らされてさ」

今後、いつでもこの話ができるように、自分自身が慣れておくべきだと、そう思う。毎度毎度今みたいに息苦しくなってちゃ身が持たない。

〇〇「まぁ、泣かず飛ばず…。毎日毎日、辛くて悔しくて涙が出てきて、一体何をやってるんだって自問自答して。けどその頃はまだマシだった。まだ前に進もうって意思はあったから。けど、階段登っては転げ落ちてを繰り返して、何度も振り出しに戻ってるうちに涙も出なくなった。そうやってくさって、白けて、投げ出した」

情けの無い話。

〇〇「でもいざ音楽を投げ出した所で、それしかしてこなかった自分だから、他に何にも無くて。結局音楽に携わるためにこの会社に入ってさ。乃木坂の運営の端っこに立つことになって…」

今思えば、本当に幸運だったなと思う。けど当時の俺は、言ってしまえば何でも良かった。自分自身も、周りのことも。ただ流されるまま。流れに逆らう気力も、流れを作る気力も無かったから。

〇〇「いつも隅の方で立ってた。距離感がわかんなかったから。
年上だろうが年下だろうがいつも敬語で話した。向き合い方がわかんなかったから。
自分のことはなるだけ話さなかった。どんな人間か知られるのが怖かったから。
その頃からかな、とにかく知識を詰め込んだのは。芸術でも勉学でも雑学でもなんでもよかった。浅学でも、それを話してる間だけは中身のない自分を恥じないで済んだから…」

何にもない。
そんな自分を守るために身に着けた盾のようなもの。それが俺にとっての知識教養。

〇〇「そういう時、俺に変化をくれたのが3期の先輩達と4期の同期達」

尊敬する、大好きな、大切な人達。

〇〇「1期や2期の先輩達に必死に追いつこうって走る3期の皆を見て、勇気をもらった気がする。俺達はこれからこうやって走ってくんだって。がむしゃらに、夢我夢中になって挑むってこういうことだったなって、思い出した。俺にとってのアイドルのお手本は間違いなくあの人達」

多様性に富んだアイドル世界でも、それでもやっぱり最初に思い描くのは、ステージに居並ぶ三番目の風。1期や2期の先輩達は勿論凄くて、でもそれ故に俺には余りにも遠く過ぎて。今その瞬間、1番近くを走る背に、自分も引っ張られる思いだった。

〇〇「そうやって走る3期の先輩達を見て、4期の皆と走り出した。けどまぁ、ボロボロ。当たり前っちゃ当たり前なんだけど。初めから出来る人なんていないし。でも理想や、夢や、どんどん先を行く先輩達に焦る皆の姿を見て…」

今でも自分を責めて、廊下の隅で泣くサクは鮮明に思い出せる。
今でも限界を越えた無理をして、体調を崩した遥香の姿は鮮明に思い出せる。

〇〇「頑張る人を応援したいって気持ちを知った。それが多分アイドルを応援したいって気持ちの根源なんだって思う」

自分のことばかり。
取り繕って、虚勢を張って、自分を守って。
何かに夢中になって、一生懸命になって、必死になって、全部無くすのが怖くなって。

だから距離を置こうって思ってた。
最初から適度な距離を保って。

けど、無理だった。

目の前にがむしゃらに走る人達がいて。
目の前に自分の限界に挑む人達がいて。

平静ではいられなかった。
気づけば俺もがむしゃらに挑んでた。

〇〇「それぐらいからかな。学ぶ事が楽しいことになったのは。それまでの俺にとっての知識教養は、他人の視線から自分を守る盾だった。けど、今の俺にとっては多分フィルターなんだと思う。余計な偏見や思い込みを取り除いてくれて、もっと多彩な色を見て取るための」

何も知らず、何も考えず眺めていても、世界は希薄な色合いで流れていくだけだ。
けれど、何か少しでも知っていれば、見え方は大きく変わる。

アイドルなんてどれも一緒。
誰が誰か分からない。

そんな声は誰しもよく聞くだろう。
けれど、推しが1人出来るとあっという間にその周りの子達、そしてグループ全体のことがあっさりと見えてくることがある。

〇〇「もっと世界の色をみたくなった。だから勉強した。色んなもの、色んなこと」

ずっと伏せてた目を、やっと開けた。

〇〇「その頃に久保センセ…。懐かしい呼び方しちゃったな笑 久保さんに乃木坂のこと、色々教えてもらった。みるみる乃木坂沼に沈んでったな。近くに生き字引がいると助かるね」

今日の瑛紗みたいに。

〇〇「そうやって、学んで。ガチガチに準備して、瑛紗達と出会った」

勇気を出して、瑛紗と向かい合う。
彼女の表情からは何かを読み取ることは出来なかった。悲しみでも、喜びでもなく。ただ彼女はこちらを見つめている。

〇〇「まぁ、あとは知っての通り。ガチガチに準備過ぎてぎこちなかったり、変に距離取っちゃったり」

その度、また、誰かに助けられてる。
けど、申し訳無く思うより、ありがたいと思おう。その分を、きちんと返していこう。

瑛紗「…ありがとうございます。話してくださって」
〇〇「…どういたしまして。こちらこそ、聞いてくれてありがとう」

つまらない一人語りをしてしまった。
そんなことを思っていると、瑛紗は俺の手を取り、両手で包みこんだ。驚いて呆気にとられる俺を、彼女はまっすぐ見つめている。

池田「…いつもありがとうございます。真剣に向き合ってくれて。わがまま聞いてくれて。本当に…感謝してます」

与えていく側になったんだって、勘違いしてたんだ。マネージャーになって、導いて、支えて。そういうふうにならないとって。

けど、それは正解ってわけじゃない。
間違ってもないけど。

与え合うんだ。影響し合うんだ。
教えて、教えられて。
一緒に成長していけばいい。
こうだと決めつけずに。
俺なりの在り方で。

〇〇「…これからもよろしく」
池田「…こちらこそ、よろしくお願いします」

夕暮れが迫る空の下で、俺達はそう言って笑いあった。
過去を後悔する日が無かったわけじゃない。
けど今は後悔していない。
そういう日々があったから、願って破れて、痛みも悲しみも知って。何者にも成れず、理想の成れの果てに行き着いた俺だからここに来れた。

皆に会えたから。

俺が変わるために、必要な時間だったんだって、そう思える。

フィロソフィー(amazarashi) END…


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ライナーノーツ

今回はてれぱんと“モネ 連作の情景”を観に行くお話をamazarashiのフィロソフィーを題材に書きました。元々大阪の展示が始まったら行こうと思っていた連作の情景でしたが、なんて美だでも特集されて楽しみにしておりました。思ったよりずっと楽しめてよかったです。

てれぱんは書くのが難しいなぁと#6を書いてる時にも思ったんですけど、今回も難しい…。

バキバキの美術トークを、個人的な考察の元喋らせてしまってどうかなぁと思いつつ、大したイチャイチャもせずにこんな事書いてて誰が喜ぶんだぁ?と思いつつ、“てれぱんをきっかけに美術に興味持ち始めました!”な人増えてほしいなぁと思いつつ。

どうしても主人公である〇〇自身は、読み手が自己を投影しやすいように余白を設けたほうがいいと思うのですが、彼自身に背景がないとドラマが生まれづらいよなぁと肉付けを決めた時から、彼のテーマソングはamazarashiのフィロソフィーと決めていたので、ようやく題材として使えてホッとしております。

次回は大阪編後半戦をてれぱん視点で書く予定。まだ完全に手つかず。少し短めになるかもしれませんが、宜しければお付き合いください。

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