喫茶チャイティーヨPOPUP! 親愛なるBuddies.後編
奈々未「どうかした?」
深川「あ、ごめんね」
偶々お客さんが途切れたタイミングでスマホが鳴って、ななみんが一応確認しておいたら?と言ってくれたから、通知を見てみたんだけど…。
深川「…◯◯から」
奈々未「へぇ…噂をすればなんとやら。それで?」
深川「通年取り扱ってて、オススメの桜リキュール教えてもらえませんか。だってさ」
奈々未「…嬉しそう」
深川「…今回はもう頼ってくれないかもなって、思ってたから」
返事を返しながら、私はそう答えた。
奈々未「色々考えてるみたいよ。姉妹店絡みで」
深川「そっかぁ…」
奈々未「飛鳥もなるだけ今回は見守るのに徹してるって。色々言いたくなるってこっちにちょくちょくLINE飛ばしてくるけど笑」
深川「落ち着かないんだろね笑」
送信し終えて、私は少し悩む。
奈々未「で、まいまいは何を悩んでるわけ?」
お見通しだなぁ。
深川「どれくらいお手伝いしていいものかなぁって…。飛鳥が我慢して見守ってるなら、私が出しゃばるのも…」
遮るように、LINEに新しい通知が来る。
それを見て、私は思わず笑ってしまう。
深川「出しゃばる暇もなかったみたい」
私はLINEの画面をななみんに見せる。
奈々未「思い立ったら走り出さずにいられないのは変わんないね」
メッセージにはつい今しがた私がオススメしたリキュールの写真が添付されていて、
〇〇『ありました!ありがとうございます!』
LINEの返事が来る前から酒屋に居たのか、それとも返事を待つこともなく酒屋を目指していたのか。
落ち着かないのは彼も一緒なんだろう。
メッセージを眺めるななみんが優しく笑う。
奈々未「続き、送られてきたよ」
私はスマホの画面を自分に向け直す。
〇〇『これから試作に入ります。お願い続きで申し訳ないんですが、これだというものが出来たら最初に味を見てもらえないでしょうか?』
深川『もちろん。開店前でも、閉店後でも』
〇〇『ありがとうございます。頑張ります』
私はスマホをしまうと、ため息をつく。
深川「どうしよう…、やっぱさみしいかも」
奈々未「そこは喜んであげるべきなんじゃない?成長したなぁって」
深川「そりゃななみんはいいよ〜。これまでいっぱい頼られてるからさぁ…」
奈々未「そんなことないって。付き合いこそ飛鳥と同じで長いから、飛鳥に相談しにくい事とかはこっちで聞いたりしてたけど、まいまい達みたいに直接手を貸したりは出来なかったし」
深川「うーん…、ないものねだりかなぁ」
奈々未「それ、どっちかと言うと私の台詞なんだけど…?」
深川「それもそっか笑 けど、初めての弟子だからもっと頼りにされたり、甘やかしたり出来ると思ってたよ…」
奈々未「多少度合いは変わっても、まだ頼りされてるじゃん」
深川「まぁ…、そうなんだけど」
奈々未「私達も少しずつ〇〇離れしていかないと。…何時でも何処でも手を貸してあげられるわけじゃないからね。困った時、自分でも解決するために動けるようにしてあげなきゃ。無責任に甘やかし続けてたら、〇〇から考える機会を奪っちゃう事になりかねないから」
深川「…そうだね」
師匠として、弟子の成長を見届けなくちゃ。
それに…。
深川「ななみん。私、例の件、引き受ける」
奈々未「いいの?」
深川「うん。2〜3日とはいえ、店を留守にするのはどうかなって思ってたけど、〇〇の成長見てたら、私も自分の世界広げなくちゃ」
奈々未「そっか。向こうも喜ぶと思う」
深川「私も久しぶりに会えると思うと嬉しいよ」
弟子に誇れる師匠でありたいし、昔馴染みの仲間達のお願いにも応えたい。だから私も迷わず挑戦していかないとね。
〜〜〜〜〜〜
〇〇「ふぅ…」
シャワーを浴び、風呂場から出てきた僕は改めてリキュールと向き合う。帰宅してすぐ色味や味を確認したけど、今回の取っ掛かりは色。どれだけ味が良いものが出来ても、色が活かせないと桜リキュールを選んだ意味がなくなる。幸い無色の割材なら、より桜らしい色味を出してくれる発色の良さだけど、それだけでは芸が無い気がしてしまう。かと言って強い色の物と合わせれば当然、望む色味を維持出来ない。帰りがけに寄った24時間スーパーで購入したピンクグレープフルーツや、カクテルでよく使うクランベリージュースなんかも試してみたけど、桜色と言うよりピンク色の仕上がりになってしまった。
あくまでも桜色にこだわる。
このコンセプトは曲げない。
その上で美味しくて、イベントに即したものを考えなくてはいけない。明日からはドリンクコーナーでなるだけ透明度の高いピンク色のドリンクを探してみよう。後は色味を邪魔しないアルコールで組み合わせも考えて…。カンパリならソーダアップすれば、色味が近いから…。
気がつけばメモやらグラスやらがシンクや床や散乱するキッチンで寝落ちして1、2限を吹っ飛ばし、僕はチャイティーヨへ出勤。
〇〇「おはようございます〜」
美波「あ、〇〇。おはよう」
ちょうど店を出ようとしていたんだろう。
入口に向かってきていた美波さんと鉢合わせる。
〇〇「おはようございます!」
僕の挨拶に何か思うことがあったのか、美波さんは少し驚いて、でもすぐに笑った。
美波「順調?」
〇〇「う〜ん、どうですかね…。けど取っ掛かりはつかめたので、後はひたすら進むだけかなと」
美波「そっか…。ごめん、今日の夜はシフト入れないから、皆に任せることになっちゃうけど…」
〇〇「任せてくださいよ」
僕はグッと親指を立ててサムズアップする激ダサいポーズで笑う。
美波「じゃあ、よろしくね笑」
〇〇「はーい!」
美波「あ、忘れる所だった。シャツとベスト、今日中には仕上がるから、明日以降で都合いい日に受け取りに来てって」
〇〇「おぉ、了解です!ありがとうございます!」
美波「じゃあお疲れ様」
〇〇「お疲れ様です!」
美波さんを見送って改めて店内へ。
〇〇「おはようございます」
飛鳥「おはよ」
飛鳥さんはいつも通り、いつものスペース。
挨拶を終えると、視線を本へ戻す。
〇〇「…飛鳥さん」
飛鳥「…ん?」
僕は飛鳥さんの隣まで移動。声をかけられた飛鳥さんは、視線を落としていた本を閉じるとこちらに向き直る。
〇〇「イベントが終わったら、いつでもいいんで少しお時間もらえませんか?」
飛鳥「…別にいいけど」
〇〇「ありがとうございます。じゃあ着替えて来まーす」
バックヤードへ向かうべく踵を返すと、ひかるが出てくる。
ひかる「お、おはようございます」
〇〇「おはようひかる。昨日は色々ありがとね」
ひかる「いえいえ、どういたしまして」
〇〇「そのうち借りは返さないとね」
ひかる「おぉ〜、楽しみにしときます」
〇〇「今日もよろしくね」
ひかる「はーい」
ロッカールームで着替えながら、昨日のことを思い出す。美青ちゃんは瞳月ちゃんと上手く話せたかな。我ながらお節介だなと思いつつ、帰りにBuddiesを覗いて帰ろうかな、なんて思ったりしてる、
〜〜〜〜〜〜
天「あ!」
夏鈴「あ…」
〇〇「ん…?」
Buddies前に来ると、天ちゃんと夏鈴ちゃんが私服姿で出てくる。
〇〇「あれ、2人共今日は終わり?」
夏鈴「いえ、今から…」
天「あーあー!!」
何か言おうとした夏鈴ちゃんの口を、天ちゃんが慌てて防ぐ。結構な勢いだったので、夏鈴ちゃんがムスッとしながら手を払う。
夏鈴「もう…、なに?」
天「ちょっと…」
天ちゃんは夏鈴ちゃんにひそひそと耳打ち。
〇〇「?」
密談を終えると、2人は顔を見合わせて頷く。
〇〇「??」
2人は僕の両側に立つと、それぞれガッシリと僕の腕を掴んで歩き出す。
〇〇「えっ、なに!?」
天「さぁ、行きましょう」
〇〇「えっ、何処に!?」
夏鈴「行けばわかります」
〇〇「何で内緒?怖い怖い」
天「最近私達のこと怖がりすぎですよ」
〇〇「いやいや、怖いでしょ。行動原理がわかんなすぎて」
天「ちょっと何言ってるかわかんないです」
〇〇「なんでこんな事するのか、してるのかわかんないってことなんだけど…」
夏鈴「…自分の胸に手を当てて考えてみてください」
胸に手を当てようにも当てられない状況だよ、君らが僕の手掴んでるから…。
理由のわからないまま2人に連れられていくと、大きなディスカウントショップに到着する。なんかペンギンっぽいキャラクターが有名なやつだ。
天「着きましたよ!」
〇〇「ここが目的地ってこと?」
夏鈴「…まぁ、買い出しです」
〇〇「言ってくれたらいいのに」
天「言ったら着いてきてくれました?」
〇〇「そりゃ言ってくれたら付き合うよ」
夏鈴「…言わなきゃ付き合ってくれないんですね」
〇〇「流石に言われないとわかんないって笑」
エスパーじゃないんだからさ。
〇〇「しかし物が多い店だね…」
店内に入ると、それはそれは大量に物が陳列されている。何処に何があるのかさっぱりだ。
天「あんまり来ないですか?」
〇〇「そうだね、ほとんど来たことないかも。2人はよく来るの?」
夏鈴「Buddiesから近いんでバイト前とか後とか、たまに来ますね」
〇〇「そうなんだ。ちなみに今日は何を買いに来たの?」
天「え〜と…大体掃除用の消耗品ですね」
スマホにメモしてあるんだろう。
画面を見ながら天ちゃんが言う。
〇〇「…どう探すんだ」
天「まぁ、ウロウロしましょ!」
〇〇「…一応勤務時間なんだよね?」
夏鈴「まぁ…一応」
それでいいのかBuddies…。
しばらく店内をウロウロとしていると、
夏鈴「……」
夏鈴ちゃんがとあるコーナーで立ち止まる。
〇〇「ピアス?」
夏鈴「はい…」
夏鈴ちゃんは僕の方を向く。じっとこっちを、いや、たぶん耳を見てるんだろう。
夏鈴「空けるの、痛いですか?」
〇〇「うーん、どうだったかな…。そんな痛い記憶はないかも…。空ける場所にもよるとは思うけど。炎症とか起きると痛いって聞くから、ちゃんと消毒とかもしてたしね。興味あるの?」
夏鈴「…はい。〇〇さんはもう付けないんですか?」
〇〇「うーん、どうかなぁ。今の僕にとってはそんなに重要なことじゃないからねぇ。なにかきっかけがあればつけるかもしれないし、無ければまた穴開けてまで…とはならないかも」
夏鈴「…そうですか」
天「2人共ー!」
〇〇「おっと、呼んでる。行こっか」
夏鈴「はい…」
〇〇「…ピアスの先輩として、乗れる相談があったら何時でも乗るよ」
なんとなく、少し不満げと言うか、言いたいことがありそうな顔だったから。
夏鈴「…じゃあ、その時はお願いします」
って笑ってくれたから、言ってよかったなって思う。
〇〇「で、見つかった?」
棚の向こうに引っ込んだ天ちゃんを追って行くと、
天「どーですか!」
〇〇「どうって笑」
夏鈴「ふふっ」
何故かオールバック風のカツラを被っている天ちゃんに、僕と夏鈴ちゃんは思わず吹き出す。
〇〇「何やってんの笑」
天「色々被れるのがあって…〇〇さんはこれ似合いそう!」
天ちゃんは明るい色のウェーブがかかった、長髪のカツラを渡してくる。
〇〇「どういうイメージなのさ」
とりあえず受け取って装着。
天「あ、あ、サングラスかけてください!」
〇〇「え、自前の?」
天「はやくはやく!」
夏が近づくと眩しいので、僕はレンズカラー薄めのサングラスを掛ける。
今は日も落ちてきていたので、鞄にしまってあるのだけど、言われるまま掛けてみる。
天「アハハ!」
夏鈴「ふっ、ふふ…!」
〇〇「ちょっとー?」
天「ちょっ、そのまま!」
天ちゃんはスマホを構える。
まぁ、自分の姿が気になるし、撮られておこう。
天「あー、お腹痛い…!」
笑いながらスマホを僕に見せてくる。
見て一目で声が出た。
〇〇「高◯沢◯彦じゃねーか!」
天「アハハ!!」
夏鈴「ふっ、ふふふ」
〇〇「何やらしてくれてんの」
天「あ〜、はぁ〜、しんどい笑」
夏鈴「息、苦しい…」
〇〇「もういいですか?」
天「あ、ちょっと待って!夏鈴これかけて!」
夏鈴「えっ…」
夏鈴ちゃんに眼鏡を渡して、天ちゃんはレンズカラーの濃いサングラスをかける。
天「はい、撮りまーす!」
3人並んで写真を撮る。
インカメラなので、天ちゃんのスマホの画面に僕らの姿が映っているけど、
〇〇「いや、もうAL◯EEだろ!」
天「アハハ笑」
夏鈴「ゴホッゴホッ」
〇〇「いや、なにやってんの。モノボケしに来たわけじゃないでしょ?」
天「は〜、しんどい…」
夏鈴「…はぁ、死ぬ」
〇〇「こんなトコで死なないでほしい。目的を果たそうよ…」
カツラやら何やらを元に戻して、僕らは移動を再開。しかしホントに迷路みたいだ。
天「あっ!」
〇〇「見つかった?」
天「…凄いことに気づいちゃいました」
何故だろう。凄く嫌な予感がするのは。
天「もう私も夏鈴も18越えてるし、R18コーナー…」
〇〇・夏鈴「やめて」
天「え〜…気になる」
〇〇・夏鈴「やめて、マジで」
天「ちぇ〜…」
何を言い出すかと思ったら…。
天「でもこういう時じゃないと入れなくないですか?」
〇〇「いや、こういう時こそ無理でしょ」
どんな組み合わせだよ。
知り合いに見られたらとんでもない勢いでゴン詰めされちゃうよ…。
天「じゃあ、どういう時行けばいいんですか?」
〇〇「女の子同士とか友達同士でいいじゃない」
夏鈴「…普通は恋人同士なんじゃ…」
〇〇・天「…なるほど」
も、盲点だったな…。
しばらくうろうろとして、目的の売り場に到着。
テキパキと必要なものを手に、レジへと向かう。
〇〇「お、ごめん。ちょっと覗いていい?」
その道中でドリンク類が並ぶコーナーが目に付く。なにかピンク色っぽい飲み物はないかと視線を彷徨わせる。
〇〇「ん?」
無造作に積まれた、黄色に黒っぽい模様入った缶が目に入る。まさかと思って近づいてみると、
〇〇「おぉっ!マックスコーヒーじゃん!」
天「…なんですそれ」
〇〇「バカ甘いコーヒー」
僕はおもむろに5本くらい抱え込む。
夏鈴「えっ、そんなに買うんですか」
〇〇「いやぁ、この辺だと全然見ないんだよね」
天「なかなか見ないくらいはしゃいでる…」
〇〇「いいもの見つけちゃった」
満足。とレジに向かおうとした所、“それ”を発見。
〇〇「あっ…。これは使えそう」
これは正直考えてもいなかった。
けど、色味や透明度的にうってつけかもしれない。
〇〇「よし、お会計しよ」
夏鈴「お会計しておくから、天ちゃん袋詰めしていってくれる?」
天「はいはーい」
一足先に会計を済ませて、僕は自分の買い物分を袋に詰めていく。
天「美青の相談、乗ってくれたらしいですね」
夏鈴ちゃんから会計の済んだかごを受け取って、天ちゃんが僕の横に並ぶ。
〇〇「おや、耳が早いね」
天「しー…。瞳月からLINEで。美青が元気なさそうだったけど、〇〇さんに色々聞いてもらって、スッキリしたって教えてくれましたって」
〇〇「そっか。ちゃんと話できたんだ」
天「…先輩だし、私も何かしてあげれたらよかったんですけど」
〇〇「そういう気持ちが嬉しいと思う。美青ちゃんも頼れる先輩がいて助かってるって言ってたよ」
天「そうですか…。もっと頼れる大人になりたい〜」
〇〇「出会った頃から考えると、十分大人だと思うよ」
天「今日みたいにはしゃいじゃってもですか?」
〇〇「出来ればその辺はそのままの天ちゃんでいて欲しいけどね。一緒にいて楽しいし」
天「じゃあ、このままでいっか!」
その返答に僕は思わず笑ってしまう。
本当に、一緒にいて飽きない子だなって。
夏鈴「お待たせしました」
天「遅かったじゃん」
夏鈴「領収書もらうのに時間かかった…」
〇〇「じゃ、行こっか」
店を出て、僕らはBuddiesへ向かって歩き出す。
〜〜〜〜〜
店長「遅ぇよ!」
天・夏鈴「すいません…」
案の定怒られとる…。
美青「〇〇さん!帰りましょう!」
瞳月「お待たせしました」
〇〇「あ、うん」
着替えを済ませてでてきた2人。
けど帰る前に…、
〇〇「天ちゃん夏鈴ちゃん」
天「はい?」
夏鈴「?」
〇〇「これあげる」
僕は袋から、さっき買ったマックスコーヒーを取り出して2人に渡す。
〇〇「最近一緒に帰れなくてごめんね。久しぶりにワイワイ出来て楽しかったよ。バイト頑張ってね」
2人は缶を受け取って、顔を見合わせて笑う。
天「…頑張りますか」
夏鈴「…だね」
改めてこちらに向き直ると、
天「ありがとうございます!」
夏鈴「お疲れ様でした。いただきます」
そのまま2人はバックヤードに引っ込んでいく。
〇〇「じゃ、帰ろっか」
瞳月・美青「はい!」
Buddiesを出てすぐ、瞳月ちゃんが話し始める。
瞳月「急なお願いだったのに、昨日はありがとうございました」
〇〇「いやいや、全然。さっき天ちゃんが言ってたよ。ちゃんと話できたみたいって」
美青「すいません、色々と…」
〇〇「お気になさらず。お役に立てて何よりです」
2人は笑って、けど瞳月ちゃんはすぐ不機嫌そうに美青ちゃんを見る。
瞳月「美青、しーには中々話さへんくせに〇〇さんにはすぐ相談するんやな」
美青「だからごめんって〜」
瞳月「ほんまに…」
美青「今度ラーメン奢るから…」
瞳月「言うたな?嘘ついたら針千本飲ますで?」
二人の距離感というか、信頼関係はただ同級生だからとか、気が合うからだとか、そういうものだけじゃなくて、お互いへの敬意や思いやりとかが多分に含まれている気がする。
そういう人の存在がどれだけ頼りになるか、僕もわかるから、卒業生しても2人の関係が続いていくといいなって思う。
〇〇「それじゃ、またね」
駅について、2人を改札へ送り出す。
瞳月「ありがとうございました」
美青「〇〇さん、LINE交換してくれませんか?」
美青ちゃんがスマホ片手に聞いてくる。
〇〇「うん、いいよ。そういえば昨日交換してなかったね」
美青「瞳月だけ知ってるの、ズルいですからね」
瞳月「もっとマウントとったろうと思ったのに」
美青「もー!すぐそういう事言う」
逃げるように改札を抜ける瞳月ちゃんを追いかけて、美青ちゃんも改札へ。
美青「ありがとうございました!」
〇〇「はーい気をつけてね」
大きく手を振り合って、僕らは別れる。
さて、帰って早速試作をしなくちゃ。
〜〜〜〜〜〜
〇〇「悪くなーい…。悪くないんだけどー」
帰宅してすぐ、シャワーを浴びて、買ってきたドリンクを試してみた。
予想通り色味は文句無し。嬉しいことに味もいい。
けど、なんか物足りない気もする。
〇〇「んあ〜…」
キッチンの狭い床で僕はゴロゴロとのたうち回る。
〇〇「なんかないかな〜」
キッチンのシンク下にある収納スペースを開ける。
家で料理をほとんどしないので、その空間はほとんどお酒の瓶で埋まってる。奥に行けば行くほど、個人的にあんまりだったお酒なので、掘ったところで発見があるとは思えないけれど…。
瓶をかき分けて最奥まで行き着くと、角に見慣れない背の低い瓶がある。
〇〇「ん…?」
取り出して光に当てて気づく。
〇〇「おまえこんなとこにいたのか!!」
完全に失念していた。
20歳になるまで飲めないから、一番取り出しづらい所に置いたのすっかり忘れてた。
約3年か…。
まぁ、問題ないだろうけど、一応味を見ておこう。
グラスに少量取って、飲んでみる。
〇〇「あ、うま!」
自家製でもこんなに美味しいだなぁ。
ふと、本当に何の気なしに、僕はグラスに残ったそれを試作のグラスに注ぎ込んだ。
思ったよりも色に変化はない。
まぁこの量ならそんなもんか。
そのままスッと飲んで、僕はふらふらとまた床に寝転がる。
〇〇「きちゃったな〜」
コレだわ。
微調整や最終的な提供スタイルは詰める必要があるけど、骨組みは出来た。
ただし、そうバンバンと試作するわけにはいかない。使い切ったらそれまでの自家製品だ。しかも作るにはまた3年はかかるわけだし…。
似た味の既製品を探す?
いや、さすがにそんな時間はない。
慎重に吟味して、理論立てて、ある程度目星をつけて試作しないといけない。
キッチンで試行錯誤する内に夜は更けていった。
〜〜〜〜〜〜
〇〇「こんばんわ〜」
翌日、チャイティーヨでの勤務を終えて、僕はとある場所を訪れている。
ビルの入口でインターホンを押して、到着はお知らせしているので、少し声をかければ、
???「いらっしゃ〜い!」
確か会議室…だったと思う部屋から女性が出てくる。
〇〇「桃子さん!ご無沙汰してます」
桃子「久しぶり〜!ごめんね〜全然顔出せなくて」
〇〇「いえいえ、お忙しいのはわかってますから」
大園桃子さんは美波さんの同期で、以前の会社を退職してすぐアパレルを立ち上げて、お若いうちから社長としてバリバリ働いてらっしゃる。
〇〇「こちらこそ頼み事しちゃってすいませんでした」
桃子さんの会社にはチャイティーヨの制服を依頼していて、デザイン時には飛鳥さんと美波さんも色々意見を出したらしい。
今年新しくスタッフ入りしたアルノとひかるも、一度ここを訪れて、採寸してもらい、専用の制服を仕立ててもらっている。冷静に考えてすごい力の入れようである。
桃子「チャイティーヨとはちゃんと契約結んでるから全然大丈夫。早速試着してみて〜。問題なければそのまま引き渡せるから」
〇〇「ありがとうございます!」
フィッテングルームを借りて、早速シャツとベストを装着。
桃子「着た感じはどう?」
いつものチャイティーヨの制服は、ややゆったり目のデザインで、オシャレなカフェって感じ。
今回のもう少しフォーマルな雰囲気のバーテンダーらしい装いでお願いしたので、見た目はややタイトなんだけど、
〇〇「思ったよりずっと動きやすいです!」
桃子「よかった〜。踊るって聞いたから予定より少し余裕もたせたよ」
〇〇「ほんとすいません色々と…」
桃子「いえいえ。直しは大丈夫そうだね」
〇〇「はい!バッチリです!」
桃子「じゃあ、持って帰る用に何か袋用意するね」
〇〇「ありがとうございます、何から何まで」
桃子「どういたしまして笑」
用意してもらってる間に服を着替え、少し考える。
思いつきだけど、たぶんお許しは出るだろう。
フィッテングルームを出ると、桃子さんは袋の用意を済ませて、珈琲を淹れてくれていた。
桃子「チャイティーヨほど美味しいのは出せないけど…笑」
〇〇「ありがとうございます笑 桃子さん、同じデザインのシャツとベスト、ひかる用にも仕立てて貰うことって出来ますか?」
桃子「もちろん。ひかるちゃんもイベントでバーテンダーやるの?」
〇〇「少しは入ると思うんだけど、どっちかと言うとメインは夜喫茶の営業で、僕とひかるはこっちの服装で出れないかなぁと思いまして…」
桃子「わっ、いいね。たくさん着てもらって、感想聞きたいな。改善点とか、こうだったらいいなぁとかあったら教えてほしい」
〇〇「そういうわけで、急がないのでお願い出来ますか?」
桃子「任せて〜。今回のシャツとベストはみなみんがやる姉妹店の制服のベースになると思うんだ」
〇〇「そうなんですか?」
桃子「うん。ホールで働くスタッフさんの制服は、ベストとサロンにしようって。改善点が見つかったら、そっちの制服にも反映出来るから」
〇〇「それはなによりですね」
桃子さんは楽しそうに笑う。
桃子「先輩のためになるの、嬉しいんだね」
〇〇「そりゃ、もちろん」
桃子さんは珈琲の水面を、どこか懐かしそうに眺める。
桃子「…ちょっと昔話してもいいかな?」
〇〇「…はい。良ければ聞かせてください」
桃子「ありがとう笑」
少し間を置いて、桃子さんは話し始める。
桃子「私が前の会社に入ったのはね、ほとんど成り行きというか、人に勧められて、まだ受けてみようかなって、それぐらい気持ちだったんだぁ…。
ここがいいとか、ここじゃなきゃ嫌だってわけでもなくて。けどね、この会社が大好きで入ってきた子、ここで頑張るぞって覚悟を持って入って来ている子、たくさんいて、申し訳なくて罪悪感でみんなの目をすごく気にしていたのを覚えてる。
もともと自信がなくて、本当に押しつぶされそうで、毎日その日を生きてくので必死で…」
じわりと、桃子さんの目が潤んでいくのがわかる。
桃子「自分がここで出来ることなんて何にもないって、俯いてばっかりで…。
そうやってうじうじしてた私を、先輩の飛鳥さん達や、同期のみなみん達が支えてくれて。私は走り出したきっかけはみんなと違うけど、同じ方向を見れてるって気がした。けどね、心の何処かで分かってたんだ…。私はずっとこの道を走り続けることは出来ないだろうなぁって」
少し寂しそうな笑顔。
桃子「だから、行ける所までは一生懸命走ろう。ここまでだって思ったら、潔くスッパリやめようって決めたの。そしたら、なんだか気持ちが軽くなったっていうか…、やってやろうって思えた。
結局、同期の中では一番最初に辞めることになっちゃったけど笑」
昔を想う時、それがどういう形であれ、笑顔で語れるなら素敵なことだと思う。
優しく微笑む桃子さんを見て、そう思う。
桃子「私が辞めるのは、私がどうしようもないだけなのに、飛鳥さんには力不足な先輩でごめんって謝らせちゃった。こんな私に、ここまでよく頑張ったなって…。みなみんはこんな私をいっぱい励ましてくれて、引き止めてくれて…。桃子には幸せになってほしいって言ってくれて…。さくらちゃんはね、入社してきてすぐ、私と一緒だなって思った。仲良くなれて嬉しかったし、今は立派に飛鳥さんとみなみんを手伝ってて、勝手に親みたいに感動しちゃった」
スッと目を閉じる桃子さん。
桃子「辛くて、苦しくて。
けど暖かくて、楽しくて、
嬉しい日々だったなって思う。
あそこにいたこと、後悔してない。
あそこに居なかったら、自分で会社興して、アパレルやろうなんて、絶対思えなかったもん。
そうやって支えてもらって、ここまで来た。
そうやって今の私になれた。
今の私なら、あの時支えてくれた人達のお手伝い出来る。それが嬉しいんだぁ」
目を開くと、桃子さんは僕をまっすぐ見つめる。
桃子さん「あのね。飛鳥さんも、みなみんも、さくらちゃんも、あれからたくさんの人を見送ってきたから、たぶん少しだけ私のほうが〇〇の気持ちがわかると思う…」
急に自分の話になって、少し戸惑う。
桃子「慣れてないから、人を見送るのってこんなに寂しいんだなぁって、思っちゃうよね」
〇〇「あ…」
ポロポロって、
びっくりするくらい、自然と涙が出てきて。
〇〇「…ほんと、なんででしょうね…。金輪際会えないわけでもないのに…。ちょっと場所が変わって…一緒に働かなくなるってだけなのに…」
初めて先輩って心から思えた人の一人だから。
〇〇「なんで、こんな寂しいって思っちゃうんでしょうね…。僕がもう一度走り出すきっかけをくれた人だから、もう大丈夫だって…安心してほしいなって…一生懸命やったんですけど…空回りばっかで…。
美波さんが挑戦する姿がカッコよかったから。
僕も情けないままでいられないって、そう思わせてくれたから、もっとカッコいい所見せたかった…」
桃子「…まだまだ時間はあるよ」
〇〇「…そうですね。何を焦ってるんだか…」
焦って、今すぐにでもって、空回りして。
いきなり何でもかんでも卒なくこなせるような人間じゃないって、わかってるくせに。
〇〇「美波さんがチャイティーヨを大事に思う気持ちとか、姉妹店にかける想いとか、そういうのも引き継いで行きたいんです。それが出来たら、離れても変わらないと思うから。チャイティーヨっていうお店も。僕達を繋いでいるものも…」
桃子「…ありがとね」
〇〇「え?」
桃子「飛鳥さんやさくらちゃんや〇〇が、みなみんの傍にいてくれてよかった。私は私のやり方でみなみんのお手伝いは出来るけど、直ぐ傍で支えることはできないから…」
桃子さんはにっこり笑う。
桃子「これからもみなみんのこと、よろしくね」
〇〇「はい…。がんばります」
〜〜〜〜〜〜
〇〇「お世話になりました」
桃子「どういたしまして〜」
落ち着いた〇〇を見送って、私は会議室へ。
桃子「〇〇帰っちゃったよ、みなみん」
会議室で俯くみなみん。
私はすぐ横に座る。
桃子「話さなくてよかったの?」
美波「出ていっても何言えばいいかわかんない…」
桃子「思ったままでいいと思う」
美波「…できたら苦労しないよ」
ちょうど、打ち合わせ中だった私達。
仕事終わりに〇〇が来るって教えたら、すぐに帰ろうとしたみなみんを私は引き止めた。
出来るなら〇〇と直接話させたかったけど、どっちも不器用だから。
美波「私、なんにもわかってなかった。
〇〇が行き詰まってるの見て、いつもみたいに飛鳥さんが相談に乗ったり、助言してあげるだろうって思ったのに、ずっと何も言わないから、助けてあげないんですかって聞いてみたの…。
そうしたら、今回はなるだけ見守るって…。
別に困ってるなら助けてあげればいいのに…。そう思って何度も声かけたくなった。実際、かけようと思えばかけれた。けど、その度になんて言ってあげればいいんだろうって、躊躇って…」
また、ポロポロと涙を流すみなみん。
美波「私っていっつもそう。
偉そうなこと言うだけ言って、何にも出来てない。
〇〇がギターを再開するってなった時も、
飛鳥さんもさくもハマさんも手伝って、
私は何にも出来なくて、応援するしかなくて…。
情けない先輩だなってそう思ってたのに…」
僕がもう一度走り出すきっかけをくれた人だから、もう大丈夫だって…安心してほしいなって…一生懸命やったんですけど…空回りばっかで…。
美波さんが挑戦する姿がカッコよかったから。
僕も情けないままでいられないって、そう思わせてくれたから、もっとカッコいい所見せたかった…
美波「そんな風に思ってくれてるなんて…」
桃子「素敵な先輩と後輩に恵まれたね」
みなみんは立ち上がると、私を抱きしめる。
美波「同期にもね…」
桃子「そうだね…」
今はそれぞれの場所で頑張る仲間達。
あの頃一緒に走った大好きな仲間達。
美波「…いいお店にする。絶対」
桃子「うん。みなみんならできるよ」
美波「ありがとう…」
桃子「どういたしまして」
〜〜〜〜〜
あれから数日後の水曜日。
チャイティーヨのお休みに合わせて、僕は営業前の麻衣さんのお店にお邪魔していた。
理由はもちろん、完成したカクテルの試飲をお願いするため。
〇〇「じゃあ、始めます」
深川「はい、お願いします」
僕は一度深く深呼吸して、作業に取り掛かる。
〇〇「今回のベースは教えて頂いた桜リキュール。
ヒントは常連の子が教えてくれた、イメージを色で表現するという事でした。
色の選定には随分苦戦しましたけど、昔の知り合いの言葉を、新しい仲間が教えてくれたおかげで、お店のネオン看板の櫻色に行き着きました。
尊敬する先輩の名前でもあります」
シェイカーへ桜リキュールを。
〇〇「そこに自家製の梅酒。これは大学1年の頃、奈々未さんが今作っておけば20歳になる頃には飲み頃なんじゃないかって教えてもらって作ったのを失念して、3年くらい熟成したものです笑
これも図らずも尊敬する先輩のお名前ですね」
これもシェイカーへ。
〇〇「次に柚子のシロップ。
酸味と僅かな苦みが、甘さに輪郭をつけてくれます。これは尊敬するお師匠の教えから着想を得ました。これをシェイクします」
今回はイベント。
一人で多くの杯数を捌かなきゃいけない。
その練習として、通常のシェイカーより容量の大きいボストンシェイカーを使う想定をして試作を重ねてきた。今回も1杯ぶんだが練習がてらボストンシェイカーを使う。
〇〇「これをグラスに注いで、アセロラドリンクでフルアップします」
グラスが満ちるまでアセロラドリンクをそそいで、混ぜ合わせる。
〇〇「このアセロラドリンクは、友達に連れられて行ったディスカウントショップでたまたま見つけたものです。あの日買い出しに付き合ってなかったら、この発想には至れなかったかもしれません」
出来上がったカクテルを、麻衣さんの前に。
一番最初に出てくるのは、そのカクテルにどんな想いを込めるのか。それを飲む誰かのため。
そのカクテルを作るに至った経緯や、想い
初めてドリンクの考案をすることなって、麻衣さんに相談に来た日。教えてもらった言葉。
〇〇「僕がこのカクテルに込めたのは、繋がってる仲間達への想いや感謝です」
直接このカクテルに至るためのヒントをくれた人達だけじゃない。
美青ちゃんと話す時間をくれたひかるや、変わるものもあれば変わらないものもあるって確信させてくれたアルノの存在。もっと言えば、そんな大好きな仲間達を支えてくれていた人達。
そんな人達の繋がりがあって、今のみんながいて、今の僕がいる。
そんな人達への想いを込めた一杯。
深川「…もう名前は決まってるの?」
〇〇「はい」
この一杯を作り上げるまでに、ものすごく時間がかかってしまった。それでも作り上げられたのは、きっと言いたいことは沢山あっただろうに、それでも辛抱強く見守ってくれた人がいるから。
急かすことも、無難に乗り切れって言うことも出来ただろうに。それでも何も言わずに見守ってくれたその人には、またキザな名前つけたな。
そう言われそうだけど。
〇〇「親愛なる仲間達。“Dear Buddies”です」
〜〜〜〜〜〜
ひかる「先輩、着替えの時間まで手伝いますよ」
〇〇「おっ、ありが…ってもうそれ出来たの!?」
イベント当日、Buddiesのバーカウンターで準備を進める僕にひかるが声をかけてきた。
つい先程、最後の確認で皆と踊った時にはラフな動きやすい服装をしていたひかるだったが、今は僕と同じシャツとベスト姿だ。
ひかる「昨日連絡があって、今日学校帰り引き取ってきました。どうです、似合います?」
〇〇「えー、めっちゃいいよ!かわいい!蝶ネクタイなんだね」
ひかる「先輩がネクタイだから、蝶ネクタイはどうって桃子さんが」
誇らしげにネクタイに手を添える姿は、なんというかおしゃまな子供みたいでかわいい。
ひかる「先輩が私にもって言ってくれたそうで」
〇〇「うん。せっかくだから着る機会増やしたかったし、それならひかるも同じ制服のほうがいいかなって」
ひかる「ありがとうございます笑」
ひかるは嬉しそうに笑った。
ひかる「グラス、拭いていきましょうか」
〇〇「ありがとう」
並んで作業していると、
天「ひかるもバーテンダーになってる!」
アルノ「ホントだ」
夏鈴「…お揃い」
美青「カッコいい!」
瞳月「ひかるさんのバーテンダー姿初めて見ます」
いつもの面々の、いつもの姿が頼もしい。
〇〇「みんな、今日はよろしくね」
一同「はい!」
〜〜〜〜〜
〇〇「絶対順番間違ってると思う」
イベントはつつがなく進行。
新作を中心に、ドリンクも好評を頂いている。
ステージでは東高ダンス部と南美のコラボが展開され、お客さん達もそちらに注目していて、バーカウンターは落ち着いている。
アルノ「私達は舞台みたいなものなんで、バチバチのダンスじゃなくても大丈夫ですよ笑」
アルノは衣装に着替えを済ませて出番まで待機中。
お手伝いしましょうか?と言ってくれたけど、ご覧の通りの落ち着きだし、衣装を汚したら大変なので、ハッキリお断りした。
〇〇「…なんかアルノにフォローされるのは釈然としない」
アルノ「なぁんで!?」
3曲が終了して、南美生達がステージから捌ける。
卒業して合わせられる時間は随分減っただろうに、相変わらず、一つの生き物みたいに統率されたダンスだった。
残った東高はポジションを変え、センターに瞳月ちゃんが立つ。2年生でセンターに選ばれた彼女の堂々とした姿は、かわいらしい姿から想像もできないくらいに肝が据わっていて、そのパフォーマンスは圧巻の出来だった。
美青ちゃんは2列目の端。
前回は3列目の端だったから1列前になってる。
彼女の努力の証明のような気がして、僕も勝手に嬉しくなった。パフォーマンスするその表情は、おどろくほど曲の世界感に入り込んでいて、あの日言っていたような、ここにいて良いのかという迷いは吹っ切れたんじゃないかなって思う。
アルノ「先輩、そろそろ」
〇〇「だね」
最後まで見れないのは残念だけど、僕らも袖で待機しないといけない。バーカウンターに受付停止中の札を出して、僕らは裏からステージ袖へ向かう。
アルノ「緊張してます?」
〇〇「そりゃするよ」
アルノ「笑」
〇〇「なーに笑ってんのさ」
アルノ「…一緒にステージ立つの久しぶりだなって」
〇〇「…そうだね」
僕はポンポンとアルノの肩を叩く。
〇〇「よろしくね」
アルノ「…はい」
クシャっと笑う顔が、なんだか懐かしかった。
天「お、来た」
袖にはすでに天ちゃん夏鈴ちゃんひかるが待機中。
僕らが合流すると、曲がちょうど終わった。
捌けてくる東高生達が、天ちゃん達と一言二言言葉を交わして裏へ引っ込んでいく。
僕は邪魔にならないように端っこで待つ。
去り際に美青ちゃんと目があったので、グッとサムズアップだけしておく。もうちょっといいポーズがあればよかったんだけど。
美青ちゃんはそれに気づくと、親指を上げたサムズアップをほっぺたにくっつけて笑う。
え、なにそれかわいい。
アルノ「行きますよ!」
〇〇「おっと」
いけないいけない。
僕は皆とステージへ。
すでに気づいたお客さん達が、ちらほらとバーカウンターを見て僕がいなくなっているのに気づく。
緊張する。
けど、めいっぱい楽しもう。
日々の隙間にさ迷うこと。
そんなときそっと照らしてくれる光。
仲間達が紡いでくれるもの。
それが確かに僕を熱くしてくれる。
他愛のないことかもしれない。
ちっぽけなものかもしれない。
でも確かに僕の世界を彩ってくれるもの。
ずっと照らしていてほしい。
そして出来るなら照らしてあげたい。
この先も。ずっと。
拍手を受けながら僕らはステージ袖へ捌ける。
アルノ「先輩」
アルノに声をかけられて、僕は少し照れくさく思いながら彼女に近づく。
また肩でも叩いてやるかなと思ったら、アルノは両手のひらをこちらに向けて突き出す。
すぐに察して、僕も同じように。
ハイタッチ。
変わるものがあって。
変わらないものもあって。
どっちも本当は悪いものではなくて。
変わって行くことも、変わらないことと同じように喜べるものならいいなって、僕らの今を見てそう思った。
皆は着替えがあるのでロッカールーム前で別れて、僕は再びバーカウンターへ。
受付停止中の札をどけようとした時、
???「おつかれ」
〇〇「ありがとうございま…」
声をかけられたので、そちらへ視線を向ける。
〇〇「飛鳥さんなにやってんすか!?」
見慣れた小柄な人がそこに立っていて驚く。
飛鳥「イベント見に来る以外になんかある?」
〇〇「いや、そりゃ、そうでしょうけど」
確かに時間的にはチャイティーヨの営業は終わってるけど…。
飛鳥「梅とえんちゃんが片付けはやっとくから行ってきなってさ」
〇〇「そうですか…」
飛鳥「…ふふっ」
急にこらえきれなくなったのか、飛鳥さんが吹き出した。
飛鳥「めっちゃ踊ってた笑」
〇〇「も〜、勘弁してくださいよ」
めちゃくちゃ恥ずかしい。
飛鳥「あ〜面白い。で、あっちはいいの?」
〇〇「えっ?」
振り返ると、すでにバーカウンターに列が出来始めている。
〇〇「わっ、すいません!」
僕は急いでカウンターへ戻る。
飛鳥「しゃーない。ひかるが戻るまで洗い物くらいはしてやるか」
〇〇「すいません!助かります!」
〜〜〜〜〜〜
〇〇「お疲れ様でした」
営業終了後、改めてBuddisの前で挨拶。
高校生達は時間の都合で先に帰っているので、ここにいるのは天ちゃん、夏鈴ちゃん、ひかる、アルノ、僕、飛鳥さんだけ。
〇〇「今日はありがとうございました」
飛鳥「ん」
営業も任せたし、わざわざ来てももらって、洗い物や片付けも手伝ってもらってしまった。
〇〇「じゃあまた明日」
ワイワイとイベントの感想を話すアルノ達を駅まで送るためにそちらへ歩き出そうとすると、飛鳥さんが僕の手を取った。
飛鳥「ごめん、今日は〇〇借りてくから」
飛鳥さんの言葉がうまく理解できず、そしてそれはアルノ達も同じだったようで、一様に皆キョトンとしている。
飛鳥「じゃ、おつかれ」
それだけ言うと、飛鳥さんは僕の手を引いて歩き出す。僕は混乱したまま、とりあえずアルノ達に
〇〇「お疲れ様!また明日!」
とだけ伝えた。
手を引かれるままついたコンビニで、飛鳥さんは缶ビールを2本買った。そのまま近くの公園に入ると、ブランコに腰掛ける。
飛鳥「ん」
〇〇「…ありがとうございます」
突き出された缶ビールを受け取って、僕も隣のブランコに座る。
飛鳥「お疲れ」
〇〇「お疲れ様です」
缶をぶつけて乾杯。
〇〇「え〜と…?」
飛鳥「〇〇が言ったんじゃん。終わったら時間くれって」
〇〇「あ、あ〜」
言いましたけど、その日のうちにとは思いませんでした。
〇〇「…見守ってくれてありがとうございます」
何も言葉を準備してこなかったから、うまく話せないかもしれないけど。
〇〇「心配かけてしまったと思います」
とにかく、思いつくまま話してみよう。
〇〇「もっと上手に、スムーズにやれたらよかったんですけど。どうにも上手く行かなくて…」
飛鳥さんは何も言わず、話を聞いている。
〇〇「…さくらさんや桃子さんの話を聞いて、飛鳥さんは沢山の人を見守ってきたんだろうなって思ったんです。その人達はきっとそれがありがたかったろうなって。救われたろうなって」
感謝の念に堪えない。
飛鳥「桃子やえんちゃんの傍にいたのは、なんとなくみてられなかったから。〇〇をあの日ウチで働くかって誘ったのと似たような感じ」
飛鳥さんは遠くを見ながら話す。
飛鳥「けど、桃子に関しては申し訳なさもある…。私がもっと上手くやれてれば、桃子はもう少し前の仕事も好きになれてたかもしれない。
けど、桃子のトコに制服を頼んだのは別に罪滅ぼしとかそういんじゃないからね。
一緒に仕事をした上で、桃子ならこれからも一緒の方向を向いて仕事が出来るって、信じれたから頼んだ。もちろん、信じてるからって丸投げはしない。私と梅はがっつり意見出したし、要望や改善点はちゃんと伝えてるし。今回の〇〇のシャツとベストもそう。梅の姉妹店の制服に反映できるようにアレコレ注文つけてるし、梅にもちゃんと口出しするように言ってある」
遠くを見ていた視線がこちらを向く。
飛鳥「先輩後輩ってだけじゃなくて、一緒に並んで仕事をする仲間だって信じてるから、はっきり言うべきことは言う。それだけのことが出来るって信じてるから」
その目から、逃げない。
真っ向から向き合う。
飛鳥「今回見守って決めた。これからは甘やかすだけじゃない。見守るだけもしない。口出しもしていくからね。一緒に、対等に、仕事が出来るやつだって信じてるから」
飛鳥さんは再び缶をこちらに突き出して、
飛鳥「覚悟しといてよ」
〇〇「…望むトコですよ」
僕も缶を突き出して、再び乾杯。
そんなことはないはずなんだけど、なんだか久しぶりに、いひひと笑う飛鳥さんを見た気がした。
親愛なるBuddies.後編 END…。
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ライナーノーツ。
どこかでも言いましたが、梅ちゃんと桃ちゃんの同期コンビが大好きでして…。
本編のPrologueから振っておいた桃ちゃんの前振りをようやっとここで。
そこに集まらなければ到底交わることはなかったろうなって絆が芽生えるのがアイドルグループの面白さというか、同じクラスにいてもたぶん違うグループだったろうなって、一見正反対に見えるような組み合わせが仲良しっていうの好きなんです。
次回の夏フェス回で、おそらくアラカルトの共通ストーリーは終わりかなと思います。
それ以降はキャンプの夜ストーリーを書いた、飛鳥ちゃんと夏鈴ちゃんのエンディングを書いて、まだ書いてないメンバーのキャンプの夜とかエンディングを書くかも?ぐらいの感じです。
よろしくお願いします。
前のお話
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シリーズ
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