島本理生さんの「あられもない祈り」を読みました。

紅く細い糸でつながった密かな恋・・・。
切れそうで切れない運命のつながり・・・。
息苦しいほどに探り合う感触の奥に隠れた気持ち・・・。

とても深みのある表現が連ねられているにも関わらず、読了の感想は「平坦な文章」・・・でした。
静かに僕の心をノックして、検証するように経験を引き出していく・・・。

フィクションとしてではなく、過去の自分の経験が形を変えて、主人公の思考に共感しているのだと思います。
恋をする心というよりは、人を、愛情を求め彷徨う心を、一方通行ではない含みをもたせた表現を敷き詰めて、見事に描き切っている・・・そんな風に感じました。

共にいる理由、別れる理由は様々ですが、抱き身をゆだねる理由はさほど多くはないと思います。
他者の気持ちを推し量っても、本当の気持ちを理解できることなどありえなく、自分の気持ちだって、ずいぶん後になって気づくことも少なくありません。

ですが、心が、感情がその人を求めていることを認識できさえすれば、抱くことも身をゆだねることも一時は可能。

人の心が移ろい変わりゆくものなのは、求めるものを手に入れた瞬間から、その完成形との差を意識し始めるからではないでしょうか・・・。
その隔たりを意識しだすと、いつしか頭のどこかに別れがちらつき、今度は寂しさとか切なさと天秤にかけ始める・・・。

人は一人では生きていけない・・・言い古された言葉でも、真実であり、他者と生きる方法を各々が探すのだと思います。人物描写の巧みさが、その人間の悲しき性を見事に描いているのと同時に、常にさすらい、彷徨う心も如実に表現している印象深い作品でした。

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