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『クレープ屋のお兄さん』

20240623


 「他人に興味なさそう」とか「人に興味ある?」と言われることがある。
 
 個人的には、自分はわりと他人に興味ある方なのではと思っているが、「他人に興味ある」の度合いの一般的な平均がどのくらいなのか皆目見当もつかないので、特に自覚もできない。

 
 僕がいま最も興味のある他人が、とある街のクレープ屋のお兄さんだ。
 
 そのクレープ屋さんはとても人気で地元では有名な老舗といった感じで、行列が絶えない。

僕自身何度か行ったことがあるが、常に若い人からお年寄りまで色々な人が並んでいて、500円しない価格で、クレープも生地はサクサクしていてとても美味しい。


 そのお店に行列ができる理由として、もちろん味が美味しいこともあるのだが、会計と調理を全てお兄さん一人が行なっていることも挙げられる。お会計の時間と一枚一枚丁寧にお兄さんがクレープを焼いてくれる時間、それをしばらく待つ時間があるのだ。もちろん、何分も並んで待って食べる価値があるくらい美味しいのだが、最近、そのお店に行ってみると、少し様子が変わっていた。


 
 まず、メニューの数が減っていて、いくつかのメニューを書いていた看板ごと撤去されていた。また、全てのクレープの値段が上がっていた。100円前後値上げされていて、値札を黒いテープが覆い、上から修正された値段を見た時、僕は正直少し気後れした。

 
 全てを一人で行うそのお兄さんは、ほとんど会計とクレープを焼くという作業の繰り返しで、あまり感情が読み取れない。
 
お兄さんはどんな気持ちでメニューを減らし、値上げをしたのだろう。いつ行っても並んでいるそのクレープ屋さんが忙しいということは客の目から見てもはっきりとわかり、店の前にお兄さんの文字で「昨日の営業で疲れてしまったので、今日はお休みします」と貼り紙がされていたこともある。

 
 そのお兄さんは、クレープを焼くことが嫌になったこともあるのだろうか。朝起きた時、仕事に行きたくないと思う日もあるのだろうか。お金を稼いで自分の生計を立てる以外の仕事を頑張る動機はどこにあるのか。

 
 なぜこんなにもそのお兄さんが気になるのか、それは、僕が頼んだ期間限定のレモン味のクレープを焼いてくれているとき、生地を何度も何度も焼いては捨て、焼いては捨てを繰り返しているように見えたからだ。実際の真意は分からないが、クレープ一つ一つにこだわりがあるのだろうと思う。ただその時も列はできていて、その味を選んだことが申し訳なくなるくらい、時間をかけさせてしまった。
 
 それでも、そのお兄さんは顔の表情一つ変えずに全く今まで通り「お待たせいたしました」と言ってやさしく手渡してくれる。

 
そんなお兄さんといつか話してみたい。その優しさはどこにあるのか、普段何を考えているのか、なぜあの時はあんなにも生地を捨てているように見えたのか。

 お兄さんの人柄と生地を捨てているように見えた理由と趣味をいつか聞けたら、またこの続きを書こうと思う。



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