魔闘剣紀 8

応える

ヲレワとク・セェがファーリア城を後にしてから、
一ヵ月が過ぎようとしていた。

今日も、変わらずにヲレワは風の闘気を習得するために、
過酷な修練を続けていた…

ク・セェ「よし、ヲレワ、もう一度だ!」

そう掛け声をかけながら、ヲレワに水をかけるク・セェ。

ヲレワ「ほぉ、ぉぉ、お!」

ク・シャミ「準備はいい?それじゃあいくよ!」

そういうと、ファーリア山、山頂から、スカイダイビングをするように、
ヲレワとク・シャミは一緒に地上へと飛び込んだ。
ク・セェはヲレワの断末魔を聞きながら、

ク・セェ「あれから一ヵ月か…早いものだな。」

しばらく、感傷に浸った後、二人の後を追うク・セェ。

風の闘気を会得するためには、とにかく風を感じなければならない。
そのためには、風を多くかつ、強く体に受けなくてはいけない。
しかし、地上では風が強くなるのは、嵐くらいしかない。

そこで、ファーリア山から、地上に向かって飛び降りれば、
風を多く、強く受けられると考えたのである。
地面への着地は、風の闘姿の力で勢いを抑えているから安全である。
着地した後は、またファーリア山、山頂登り、またそこから飛び込む、
以下、それの繰り返しである。

ちなみに、飛び込む前に水をかけることにしたのは、ク・シャミである。

今日もこれらを繰り返して、一日が終わりを告げようとしていた…

ヲレワ「はぁ、ひぃ、…うぁ…」

ク・シャミ「すごいよヲレワ!今日は三回もダイブできたよ!」

ク・セェ「まったくだな!これなら風の闘気の会得は時間の問題だな!」

ヲレワ「ほ、ホント…か?」

ク・シャミ「もちろん!後三ヶ月くらい続ければね!」

ク・セェ「俺もそう思う、これはかなり早く習得できそうだな!」
    「個人差はあるものの、一年以上かかるものもいるからな!」

ヲレワ「…そうか、三ヶ月…か。」

ク・シャミ「さあ!今日はもう遅いから、明日にしよう!」

ク・セェ「ああ、そうだな!お腹も減ったしな!」
    「早く休んで、明日に備えよう!」

ク・シャミ「うんうん!そうしよう!そうしよう!」
     「僕もお腹ペコペコだ!」

ク・セェ「よし!今日はすぐにご飯にするか!」

ク・シャミ「わーい!やったー!」

ク・セェ「それじゃあ、帰るか山小屋へ。」

盛り上がっている二人とは裏腹にヲレワは

ヲレワ「…すまない、先に行ってくれるか?」
   「俺はもう少し休んでから行くから…」

ク・セェ「うん?ああ、わかった!三回もダイブしたしな!」

ク・シャミ「そうだね!頑張ったもんね!」
     「じゃあ、先に行ってご飯の準備して待ってるからね!」

ヲレワ「ああ、頼む。」

そう答えると、二人は頷いて山小屋方へ歩いて行った。
二人の姿が見えなくなってから、しばらくして、

ヲレワ「…クソ!!」

そう言い放って、寝そべったままで右手を地面に打ち付けた!

ヲレワは焦っていた、その理由は一週間ほど前、
定期的にファーリアの状況を、知らせにきている兵と、
ク・セェが話している内容を、たまたま聞いてしまったことにある。

その日もヲレワは疲れ果て、やっとの思いで山小屋に帰ってきた。
すると、山小屋の前に二人のものが立ち話をしているのが見えた。
ク・セェとファーリア風兵である。
二人はヲレワに気づかずに話を続けている。

ヲレワは何を話しているのだろうと気になったが、
立ち聞きは良くないなと思い、その場から離れようとしたが、

ク・セェ「そうか…奴らめ、一体何を企んでいる?」

ヲレワは思わず、足を止めた。

ファーリア風兵「現状、奴らの目的までは…」
       「しかし、奴らと思わしき人物が、ファーリア城付近で
        目撃されたとの情報は、ここ一週間で増えています。」

ク・セェ「…狙いはファーリア城にある何か…ということか。」

ファーリア風兵「おそらくは…」

ク・セェ「あの日俺たちは、事前に奴らのアジトを突き止めたので、
     一網打尽にしようと闘姿三人で向かった。」
    「しかし、アジトはもぬけの殻だった。」
    「事前に情報を得て、アジトを移したものと思っていたが…」

ファーリア風兵「何かを起こそうと動き出した?」

ク・セェ「かもしれん、とにかく、奴らの動きに注意して
     城の警備を固めろ!もちろん国民の安全も確保するように!」

ファーリア風兵「はっ!心得ております!」

そう言うと、敬礼のポーズを取った。

ファーリア風兵「…ときに、ク・セェ殿、ヲレワ殿の闘気の
        修練の方はどうなっていますか?」

ク・セェ「…ヲレワはよくやっている、それに才能もあるし度胸もある。」
    「しかし、お前も知っての通り、どんなに才能があっても、
     習得には数か月かかる。」
    「…つまり、今有事が起きれば、俺とシャミは
     すぐに駆け付けることは出来ないということだ!」

ヲレワ「!!」

ファーリア風兵「…やはりそうでしたか…」

ク・セェ「はっはっは!何を落ち込んでいる!」
    「城にはシャ・メンとホ・ウカがいるではないか!」

ファーリア風兵「それはそうですが…ク・セェ殿はよろしいのですか?」
       「ファーリアの危機にすぐに対応できないことが!」

ク・セェ「もちろん、誰よりも何よりも早く駆け付けたい!」
    「当然のことだ!」

ファーリア風兵「それでしたら…」

ク・セェ「しかし、まずヲレワに闘気を会得させる!そう決めたんだ!」
    「おっと、勘違いするなよ?」
    「これは王に頼まれたからやっているんじゃない、」
    「他の誰でもない、俺が決めたことだ!」
    「たとえ王の頼みがなくても、俺はそうするつもりだった。」

ファーリア風兵「…ク・セェ殿…」

ク・セェ「それに、これは俺だけではない、
     シャ・メン、ホ・ウカも同じ考えだ!」

ヲレワ「…」

ク・セェ「とにかく!今はこの方針で行く!」
    「あ、このことはヲレワには言うなよ?」
    「変に意識されてもこちらが困るだけだからな!」

ファーリア風兵「はっ!わかりました!」

ヲレワ「奴らが何者かわからなかったけど、少なくとも
    ファーリアに危機が迫っていることはわかった。」
   「そんな中、ク・セェはファーリアではなく俺を優先している。」
   「いや、ク・セェだけじゃない、シャ・メンやホ・ウカも。」
   「理由はわからないけど、その信頼に俺は応えたかった!」
   「そのためには闘気を会得するしかない!」
   「この一週間、それだけを考えて頑張ってきた!」
   「しかし、闘気を会得できなかった。」

ヲレワは寝そべったままで、目をつむり、左手を開いて顔に被せた。

ヲレワ「俺にもっと力があれば…」

???「己は、力が欲しいか?」

ヲレワ「!?」

ヲレワが目を開けると、頭上に腕を組んで男が立っていた。

ヲレワは突然の出来事で、慌てふためいて男から離れ、

お、お前は?と尋ねた。

???「我はキの解導者(かいどうしゃ)。」
   「己は、力が欲しくないか?」

ヲレワ「ち、力…?」

解導者「そう、力だ。」

ヲレワ「…欲しい……欲しいんだ、力が!」

解導者「いいだろう!」

そう言うと、男は右手を曲げた状態でその拳を天に上げると、

解導者「我の拳はキの息吹!」
   「潜在意識を解放させ、」
   「秘めたるキをつむぎ出す!!」
   「素晴らしき」
   「宇宙のシンの力を!」

最後の言葉を述べると、男は右手を広げながらヲレワの方に向け、
白い光をヲレワに注ぎ込んだ!

ヲレワ「ぐお、お、お、おお……」

..

.

ク・セェ「おい!ヲレワ!返事をしろ!」

ク・シャミ「しっかりして、ヲレワ!」

二人の声にヲレワは目を覚ました。
二人は心配そうにヲレワをのぞき込んでいた。

ク・セェ「よかった!心配したぞヲレワ!」

ヲレワ「…?二人ともどうしたんだ?」

ク・シャミ「どうしたんだ、じゃないよ!」
     「いくら待っても来ないから心配してきたんだよ!」

ヲレワ「…そうだったのか…すまない、いつの間にか寝てたみたいだ。」

ク・シャミ「もう!しっかりしてよ!…立てる?」

ヲレワ「ああ、ありがとう、一人で立てるよ。」

そう言って立ち上がると、ヲレワは先ほどの出来事を思い出していた。

ク・セェ「…ホントに大丈夫か?ヲレワ。」

ヲレワ「ああ!」
   「…ク・セェ、ク・シャミ、明日ファーリア城に行こう!」

ク・シャミ「…え!?」

ク・セェ「!?何を言っているんだ、ヲレワ!忘れたのか?」
    「城に戻るには闘気を会得してからと言ってあるだろ!」

ヲレワ「大丈夫だ、問題ない。」

そう言い終わるのと同時に、ヲレワは風をまとっていた

ク・シャミ「!?それは、風の闘気!」

ク・セェ「!?まさか…信じられん!」

ヲレワ「さあ…ファーリア城に戻ろう!」


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