クーデター

 暗がりに、三人の男がいた。背格好は同じぐらい。男Aと男Bは何か言い争っていて、男Cは傍観しているようだ。
「何の用だ。手短に頼む。時間が無い」
「ここのところ、腹に据えかねていたのだ。お前のハッキリしない態度に」
「私にも考えがある。野蛮なお前とは違う」
「野蛮とは聞き捨てならない。そういうお前は優柔不断のこんこんちきさ」
「優柔不断? 思慮深いと言ってほしいね」
 傍観していた男Cが言った。
「そのくらいにしたらどうだ。もう時間がなさそうだ」
 男Cの横やりに、男Aが答えて、男Bもつづいた。
「その通り。ここは、紳士にいくべきだ」
「何が紳士だ。それは腰抜けというのだ。それなりに回数も重ねて関係も深めているし、相手もまんざらでない雰囲気だ。踏み込むなら今だ」
「分かってないな。お前はいつも人の話を聞いていない。行き過ぎた行動が関係性を台無しにしかねない」
 男Bは舌打ちをして、男Aの胸倉をつかんだ。
「もうウンザリだ。俺がやる、お前は引っ込んでろ」
「僕もそう思う。Bに賛成だな。Aは慎重すぎる」
「裏切るのか」
「裏切るも何も、僕はいつも中立で物を見ている。正しい方につくだけだ」
 男Cがそう言って、男Bもつづいた。
「悪いようにはしない。これ以上抵抗するようなら、しばらく引っ込んでもらうぞ。それでもいいのか」
「クーデターか。このままにはしないぞ。事が終わったら、私が前へ出る」
「それでいい。この機会を逃す手はないからな」
 男Bは満足そうな笑顔を浮かべ、目を閉じた。男Aは座り込んだ。
 
 薄暗い寝室。間接照明がベッドの上の、男Bと若い女性を微かに照らしている。男Bは女性を押し倒して、唇を重ねる。どうやら、まんざらでもないようで、自分から唇を重ねてくる。それにこたえる男B。
「これでいい。やはり間違っていなかった」
「どうしたの? 何が間違ってなかったの?」
 男Bは口元を緩めて、優しい声色で答えた。
「侃々諤々の、熟慮の末の結論さ。君を大事にするという」

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