マイ・ナノマシン

 これで人生すべて上手くいく! という具合の制度「マイ・ナノマシン」
があったら。産まれてすぐに体内に注射される。ものの数分でDNAを解析し、当人のもつ才覚、性格、体質などすべてをデータ化してしまう。デバイスには現在の身体および精神の状態が表示され、子育てする親にとっては、
お腹がすいているのか、排せつをしたいのか、あらゆる感情と欲求が的確に表示されるためストレスは激減する。適正もDNAレベルでわかるため、ほぼ失敗無く養育され、落ちこぼれもない。学校側もそれぞれの性格を完全に把握しベストの組み合わせでクラス替えから、指導もできる。
 高校生になるとDNAレベルの適性と、生育過程の変化、社会の変化を分析して職業適性が判定される。そして最適な進路も示され、いよいよ社会に出ることになる。企業としてもマイ・ナノマシンの判定は絶対であり、離職率の低下、人事の効率化、適正な人員構成などメリットをあげればキリがない。本人にとっても仕事はスラスラ覚えられるうえ、成果も上がり、ストレスも最小限。まさに人生の最適化。本人の感情も加味した判断でもあるので、自由を奪われたなどと不満を持つ人間はほとんど存在しない。

 さて、ユートピアは完成するだろうか。産まれた瞬間から棺桶に入るまで完全にレールが敷かれ、外れるメリットは皆無に等しいので皆よく従う。現実でも大学はとりあえずでて、就職するといった普通の人間になるためのレールに乗る。脱線すれば、弱者一直線であり救いなどないからだ。そのレール少し補強されたぐらいで、自由を求めて血を流す人間などいないだろう。
当初は反発や戸惑いがあるだろうが、すぐに適応する。人間は社会性の生き物であり、単独で生きていくことはできないからだ。

 本当にそうか。すべてうまくいくとして、それは人生が消化試合になるも同然ではないか。生きている感触は失敗から学び、乗り越えることから得られるものだ。マイ・ナノマシンの存在は安寧の虚しさを人々に与え、ストレスを奪う事で向上心を衰えさせ、自分の頭で考えることをやめてしまう。「機械」の奥にいる人工知能の奴隷になる人生。まっぴら御免である。自主独立だからこそ生の実感があるからだ。そう信じて現実を生きていきたい。

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